特集/未来の在るべきエネルギーの姿とは②~持続可能な地域社会のためのエネルギー~エネルギーの地産地消による地方創生

2021年02月15日グローバルネット2021年2月号

ローカルエナジー株式会社 専務取締役
森 真樹(もり まさき)

 昨年10月、菅首相は所信表明演説において2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しました。そのためには、大規模集中型の原子力発電や石炭火力発電から持続可能な地域分散型の再生可能エネルギーに移行することが求められます。
 先月号で日本のエネルギー政策の現状と、今後の計画見直しに向けた課題についてご紹介しましたが、今月号では2050年の脱炭素社会の実現に向けて、想定できる地域の姿やすでに進められているエネルギーの地産地消の取り組み、それを阻む政策を変えようとする市民の動きなどについてご紹介し、未来の在るべきエネルギーの姿について考えます。

 

当社は、鳥取県米子市の地方創生総合戦略の施策の一つとして、同市および境港市、そして地元企業からの出資により2015年12月に設立された地域新電力です。

ありがたいことに、2018年に環境省グッドライフアワードにおいて環境大臣賞自治体部門を、また、2021年には、新エネ大賞地域共生部門において資源エネルギー庁長官賞を受賞させていただきました。

この二つの受賞ポイントは、エネルギーを手段として捉え、目的を地域経済の自立とし、地元の自治体と企業が共同で、エネルギーの地産地消を推進している点です。

私たちが目指しているのは、地方経済の自立による持続可能な地方創生の実現です。以降、当社の設立の背景や特徴、これまでの取り組み等を紹介します。

設立の背景

当社の設立前、有志勉強会では、「地方創生」とは地方の自立を目指すものであり、そのためには地域経済が自立しなければならないと、官民で考えていました。

一方、経済活動の源であるエネルギーを見ると、全国で最も人口が少ない鳥取県でも、年間1,000億円程度の電気代が地域外に流出していました(当社試算)。

このような資金流出の仕組みを変え、地方創生の実現を目指すため、「エネルギー地産地消による新たな地域経済基盤の創出」を企業理念として掲げ、ローカルエナジー株式会社が設立されました()。

ローカルエナジーの特徴

当社は、2016年4月から電力小売事業を開始し、同年10月からは電力卸売事業を開始しました。定款では、電力事業のほか、地域熱供給事業、電源熱源開発事業、省エネルギー改修事業、次世代エネルギー実証事業、視察受け入れおよびコンサルタント事業を含めた六つを事業領域としています。

現在の中核事業は、電力の小売および卸売事業です。当社は主に公共施設を対象に電力小売を行い、民間事業所および一般家庭は、電力卸売の立場となり、株主である株式会社中海テレビ放送を通じて電力を供給しています。

当社の特徴は、次の三つが挙げられます。

一つ目は、すべて地元資本による出資であることです。二つの自治体(米子市・境港市)と、ケーブルテレビ、ガス卸売・小売、廃棄物処理、温泉供給といった多種多様な業種の地元企業5社が出資しています。出資する地元企業の共通点は、生活に密着したインフラサービスを提供していることです。電力も重要なインフラサービスであり、地元企業のノウハウを生かすとともに、既存事業とのシナジー効果も期待されます。

設立の際、最も配慮したのは資本構成です。当社の資本金は9,000万円、現在は米子市と境港市とで全体の1割、残り9割を地元企業5社が出資しています。当社の発行株式の5割を株式会社中海テレビ放送が保有し、経営責任を明確にしています。事業環境の変化が激しいエネルギー事業においては、経営のスピード感が重要であるため、企業が責任を持って経営することが望ましいと考えました。

二つ目は、電源も供給先も地域内であることです。調達する地産電源は、米子市クリーンセンター等のバイオマス発電(2ヵ所)をはじめ、太陽光発電(25ヵ所)、小水力発電(2ヵ所)、地熱発電(1ヵ所)等と、多様な地産電源と契約しています。

また、電力小売としての供給先は、米子市や境港市、大山町等の鳥取県西部を中心に、庁舎や学校、公民館、文化施設、運動施設等の公共施設で、契約数で400件以上となっています。2019年度実績では、公共施設への販売電力量を上回る地産電源調達電力量となっており、エネルギー地産地消も着実に進んでいます。

なお、小売電気事業の開始以降、当社は売上高を伸ばし、営業利益も黒字となっています。このように安定した経営を実現している最大の理由は、小売電気事業の入口である電源確保、出口である電力需要家確保の両面で米子市や境港市等の公共施設と契約できたこと、そしてその間の事業プロセスを、企業のノウハウを生かして経営効率化してきたことが挙げられ、まさに地域一体でエネルギー地産地消に取り組んできた結果であると考えています。

三つ目は、電力の需給管理を内製化していることです。公共施設へ電力を供給する2日前から各施設の電気使用量の予測を行い、日本卸電力取引所との電力売買を通して、電力の安定供給を行っています。一見、専門的であり、設立当時も多くの地域新電力が外部委託を選択する中、この中核業務を内製化することによって、電力事業の知見・ノウハウが蓄積されるとともに、事業に欠かせない人材の育成および雇用にもつながっています。

地域への還元(地域内再投資)

ちょうど当社の設立年に当たる2015年に、持続可能な開発目標(SDGs)が国連で採択されました。当社もSDGsを経営の柱とし、事業で得られた知見・ノウハウや利益は地域の共有財産と捉え、地域の経済・環境・社会価値向上に向けた地域還元に取り組んでいます。

経済の視点では、地元企業と共同でのシステム開発が挙げられます。電力の需給管理の内製化によって得られた知見・ノウハウを基に地域内のベンダーと協力し、人工知能(AI)を活用した市場単価予測システム構築に取り組みました。また地域の事業者が開発した顧客管理システムや請求処理業務のシステムを活用することで、自社の業務効率化と並行して地元企業への還元を行っています。

環境の視点では、主に二酸化炭素(CO2)排出量の削減が挙げられます。当社の電力小売の対象である公共施設での温室効果ガス削減効果は、既存契約と比較すると、2016年度からの4年間で12,450tのCO2排出量を削減しています。 

社会の視点では、まず環境教育による次世代人材の育成が挙げられます。これまで小学生の社会科見学の受け入れ(11件延べ324名)、中学生・高校生に対する環境講演会(12件延べ3,500名)等を行ってきました。これらは、持続可能な地域づくりを担う次世代人材への投資と捉えています。

もう一つは、地域のレジリエンスの向上です。当社の利益を原資として、米子市の避難所となる公民館に蓄電池を設置しました。この蓄電池は非常時の電源であるとともに、平時の需給管理等に活用しています。

今後の課題

現在の当社の課題は大きく二つ挙げられます。まず、地産電源の確保です。電力の小売・卸売含めて供給先が増加する一方で、地産電源の割合が減少傾向にあります。これに対し、地域内の電源開発および地域内発電所からの電源調達の二つで対応していく予定です。

次に電力事業に関わる法制度および運用に関する情報収集と対応です。多様な市場の創設、エネルギー供給強靭化法の成立による制度設計等が進む中、最適な対応を選択するための正確な情報収集が必要であり、国や県、各種業界団体等との連携も進めています。

当社は、企業理念に基づき、自治体や地元企業、そして住民の皆様のご理解・ご協力をいただきながら成長してきた会社です。

設立から5年が経過しましたが、まだ多くの取り組むべき地域課題があります。これからも、持続的な事業運営と地域内再投資によって、地方創生の実現に向けて取り組んでまいります。

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