特集/シンポジウム報告 気候変動と社会変容ESG投資、企業の動向

2021年03月15日グローバルネット2021年3月号

CDP Worldwide Japan 理事・ディレクター
PRI シグナトリーリレーション・ジャパンヘッド
森澤 充世(もりさわ みちよ)さん

 2021年から2022年にIPCC 第6次評価報告書の公表が予定されていますが、新型コロナウイルスの影響により執筆作業に遅れが生じています。しかし、このような状況下でも気候変動は進行しています。わが国は2050年ゼロカーボン宣言を行い、対策の強化は待ったなしの状況です。
 本特集では、1月13日に環境省主催により開催されたオンラインシンポジウム「気候変動と社会変容」での録画講演の内容を紹介します。

 

IPCCの第5次評価報告書では、気温上昇について1.5℃目標にすべきと指摘し、そのためには2030年までに二酸化炭素排出量を45%削減、2050年には実質ゼロにすることが提示されています。

とくに投資においては、セクターやポートフォリオ全般にわたる重大な転換、そしてエネルギー、建物、交通を含むインフラ、産業等において、急速で広範囲かつ大規模な変革、移行が必要です。

世界的な気候変動への取り組みの機運が高まる中で、パリ協定に先立ち、2015年に金融安定理事会がTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)を設立し、2017年6月に最終提言を発表しました。この提言では、企業が気候変動情報を財務報告書に統合させ、気候変動を正面から企業経営に取り込み、コーポレートガバナンスを強化するよう求めています。炭素関連資産がどこにあるかを明らかにして、金融がさらされているリスクを把握するためです。

EUのサステナブル金融推進の流れ

いろいろと先行しているEUにおいては、サステナブル金融推進の流れが進んでいます。EUは脱炭素と経済成長の両立のためにさまざまな政策が策定されています。

欧州グリーンディールは、金融投資を変える、そしてその対象となる企業・産業を変えるというものです。2016年末にサステナブル金融に関するハイレベル専門家グループ(HLEG)、そしてテクニカル・エキスパート・グループ (TEG)も設立されました。EUタクソノミーは、気候変動に関する10年に及ぶ行動計画で、投資家や企業が十分な情報を得た上で、環境に配慮した経済活動に関する投資判断の決定を支援する分類ツールです。気候変動の緩和・適応、水・海洋資源の持続可能な利用、サーキュラーエコノミーへの移行、汚染対策と管理、生物多様性・生態系の保護の六つの項目に関し一つ以上の環境目標に多大な貢献をし、なおかつその他の五つの目標に対して重大な害を及ぼさず、最低限の社会的なセーフガードを満たすことが必要となります。欧州でファンドを保有する投資家は、そのファンドが環境目標に貢献するとして販売されているタクソノミーに照らして開示することが求められています。

世界の投資家の変化~なぜESG投資が選ばれるのか~

ESG投資を動かしている責任投資原則(PRI)は、機関投資家が長期的に投資することを促進する枠組みです。投資の意思決定プロセスにESG問題を考慮に入れることで価値を変える原動力となると考えています。

長期の視点からの投資は、企業の財務情報に加え、企業のESG情報から企業の持続性や成長を判断します。このマテリアリティ(重要性)は動的な概念で進化し、法律や政策の変化、リスクに関する変化、社会の期待と規範の変化によって変わってきます。また、良いと思った投資先が変化に付いていけていないと判断した場合に、投資先の企業行動について改善を提案し、潜在的なリターンの向上の可能性やリスク削減の必要があるという際にエンゲージメントを実施しています。

ESGを使用する背景は、まず収益の向上で、長期的な投資の収益性に対するESGの影響の評価です。次に重要なESGの問題と関連するシナリオを評価するリスク管理、そして受託者責任は他人の資金を管理運用する者が、自らの利益ではなく受益者の利益のために行動することを保証するために存在します。

コロナに対して投資家が取るべき対応

2020年に新型コロナウイルス感染症が拡大した中、PRIは投資家が取るべき対応について取りまとめました。第一段階として、危機管理に失敗している企業に対してのエンゲージメント、隠れた不都合・リスクがある場合に対するエンゲージメント等早急に取るべきアクションを投資家に働き掛けています。一方で、人権と労働慣行、気候変動と生物多様性の緊急事態をサステナブルなリカバリーとして第一段階から重要視しています。

現在は「行動のための7つのフレームワーク」として、気候問題と人権の目標を達成するために、投資家と政策立案者との連携を強化するというレポートを出し、投資家の間に浸透しています。

ビジネスの変革を促す投資家

その活動として、世界の温室効果ガス排出量の多い企業100社以上に排出量を抑制、気候関連の財務情報の開示、気候変動に関するガバナンスの改善等を働き掛ける新しい5年間の投資家イニシアチブ「Climate Action 100+」があります。参加する投資家は、エンゲージメントを通じて投資先企業の取締役会や経営陣に「ガバナンス体制の構築」「温室効果ガス削減のための行動」「気候変動の影響に関する開示の強化」を要請しています。

このESG投資を促進しているPRIには、3,300を超えるグローバルな投資家が賛同署名しています(2020年8月時点)()。賛同機関数を地域別に見ると、欧米、オーストラリアが多く、4月から8月までには100を超える機関に新たに賛同していただいています。一方、日本ではESG投資が増加していますが、賛同機関数は87でまだ投資家の数が足りない状況です。

図 PRI(責任投資原則)の賛同企業数

日本で、ESG投資にとって重要な規範が策定されました。2014年に「スチュワードシップコード日本版」が金融庁によって策定され、2017年、2020年に改訂が行われ、2020年の改訂においては、「サステナビリティ」「ESG」という言葉が出てきました。一方、企業に対しての「コーポレートガバナンス・コード」が2015年に策定、2018年に改訂され、2021年に再改訂が行われる予定です。

一方、「Just Transition(理に適った移行)」は、世界が脱炭素に向かう中、労働者や地域社会が取り残されないようビジネスモデルを移行させないといけないというもので、この考え方は急に始まったわけではありません。今、脱炭素に向かうためには事業を変えないと将来職を失い、地域も衰退してしまう。新しいビジネスモデルに変えないといけないと経営者に対して移行を促進する投資家の働き掛けが重要になってきます。

行動の約束

また、2015年に発足した「We Mean Business」は、気候変動アクションと経済成長を両立するような意欲的な政策を後押しして、気候変動と経済についての産業界の声を拡大することを目指し、いくつかのイニシアチブを設定しています。「RE100」は、Climate GroupとCDPによって運営される、自然エネルギー100%を推進する国際ビジネスイニシアチブです。自然エネルギー100%宣言を可視化するとともに、自然エネルギーの普及促進を求めるもので、世界の影響力のある大企業が多く参加しており、日本企業も参加しています。またSBT(科学に基づいた目標設定)を策定する企業が増えており、2020年12月9日時点で正式にSBT設定を約束した企業は全世界で1,093社(日本企業106社)、SBT認定を受けた企業は世界526社(同80社)です。

さらに、2050年ネット・ゼロへのコミットメントの場として、気候変動枠組条約(UNFCCC)が実施するノンステートアクター向けのキャンペーン「Race to Zero」があります。参加者は遅くとも2050年までにネット・ゼロを実現し、実現に向けた行動を直ちに開始することを宣言します。菅総理も所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロ」を宣言したことから(10月26日)、さらにネット・ゼロの動きが進むと期待しています。

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