日本の沿岸を歩く―海幸と人と環境と第51回 奇跡的に残った干潟は「野鳥の楽園」―千葉・三番瀬

2021年06月15日グローバルネット2021年6月号

ジャーナリスト
吉田 光宏(よしだ みつひろ)

人気のテーマパーク、東京ディズニーランドがある千葉県浦安市から東へ市川、船橋、習志野まで4市に面する三番瀬は、東京湾の最奥に残された貴重な干潟・浅海域だ。干潮時水深5m以浅では広さ約1,800haもある。水質浄化の機能を持ち、渡り鳥や魚介類の生息地、漁場やレクリエーションの場などとして生きものにも人間にも大切な場所になっている。昨年10月と今年4月の2度にわたって、残された自然、観察のための施設などを訪ねた。

●眼前にスズガモの群れ

最初の浦安市三番瀬環境観察館は、2年前の2019年6月にオープンした。鉄骨造り2階建て(延べ床面積約270m2)のこじんまりした建物だ。周辺には墓地公園や住宅地があり、静かで落ち着いた雰囲気。入館は無料で気軽に立ち寄ることができる。昨年4~5月はコロナ禍のために休館。再開した6月以降は平日50人、土日曜日は200人ほどの来場者があり好評のようだ。

2階建てで屋内や屋外のバルコニーから三番瀬の野鳥を観察できる。昨年10月の訪問時は、快晴に恵まれ2階の展望スペースから東京湾に渡り鳥のスズガモの群れを見ることができた。野鳥や干潟の観察会や三番瀬に関する講座などを充実させることにしている。

湾との間にあるコンクリート護岸を乗り越えて海辺にアプローチする階段などを計画している。

三番瀬沿岸のほぼ中央部に位置する市川市では護岸によって海へ直接アクセスはできないが、JR市川塩浜駅の北側に「行徳鳥獣保護区」と「宮内庁新浜鴨場」を合わせた「行徳近郊緑地特別保全地区」(約83ha)がある。行徳鳥獣保護区は塩性湿地で、埋め立てに伴って野鳥生息地の確保を目的に造成された場所だ。

昨年野鳥観察舎が建て替えられて新しい「あいねすと」としてオープンした。円筒形のしゃれた建物に入ると、望遠鏡や図鑑などがそろって野鳥観察が楽しめる。保護区の管理・保全を担っている「NPO行徳自然ほごくらぶ」(今年1月に「行徳野鳥観察舎友の会」から改称)の事務所を訪ねた。この団体は自然観察会の開催や傷ついた野鳥の救護などもしている。

行徳鳥獣保護区にある「あいねすと」から湿地を望む

保護区に入るには自然観察会参加など限られているが、取材ということで、業務責任者で理事の佐藤達夫さんに案内してもらうことができた。

入り口の雑木林を抜けると目の前に湿地が広がり、湿地の先には湾岸道やビルが見える。タシギが飛び立ち、都会の真ん中にいることを忘れてしまう。トビハゼの北限の生息地で、ウナギやボラもいるという。

水車池(浄化池)では、エビやウナギの養殖地で見られるような水車が回っている。引き込んだ生活排水に空気を溶け込ますためのもので、水が循環する間にリンや窒素などが生物により消費される。水は三番瀬に流れていく過程で多様な生きものに餌を提供する。そして食物連鎖の頂点にいる野鳥へつながるというわけだ。

佐藤さんによると、保護区の生態系は植物の成長に伴って遷移が進み、渡り鳥や水鳥が減っているという。シジュウカラ、ヒタキなどの林の鳥が増え、かつてよく見られたチュウヒに代わってノスリ、オオタカ、ハイタカが増えてきた。アシやガマが植生域を広げれば、開けた水面が減少して水鳥には適さない環境になるため、刈り取り作業を続けているという。

湾岸道路近くの木々にカワウのコロニーがある。カワウは漁業や住環境への悪影響から悪者扱いされているが、分布を広げた理由について佐藤さんは「元の生息地から無理やり追い出したことが原因の一つ」と人間の責任も指摘する。コロニーの存在は近くに三番瀬のような豊かな海があることの証明でもある。

保護区からさらに東に進むと船橋市にふなばし三番瀬海浜公園がある。4月の訪問時、潮干狩りを楽しむ多くの客がいた。貝を入れる袋の中にはアサリだけでなく、すっかり定着した外来種ホンビノス貝もあった。園内にある「ふなばし三番瀬環境学習館」(2017年開館)は「知る」「考える」「学ぶ」のゾーンでモニターなどを使って学習できる施設を備え、干潟や野鳥のガイドツアーやワークショップを開催している。

船橋市の三番瀬海浜公園の地先

●ラムサール条約に登録

次は習志野市の谷津干潟(約40ha)だ。水鳥の生息や水の浄化をはじめ、さまざまな働きを持つ干潟などの湿地を保全する「ラムサール条約登録湿地」である。国有地であったことから埋め立てを免れ、東京湾の最奥部に奇跡的に残された干潟だ。

JR京葉線南船橋駅から谷津干潟自然観察センターへは徒歩約20分で、途中干潟を左手に木々に囲まれた遊歩道が続く。2本の川によって東京湾につながり、ボラやスズキ、クロダイなども見ることができる。気分良さそうに散歩やジョギングをする人が何人もいる。

干潟を一周できる遊歩道があり、センター内部は一面ガラス張りで目の前の干潟を一望できる。ハマシギ、ダイゼン、オナガガモの数が多い。シベリアやアラスカなど北の国と東南アジアやオーストラリアなどの南の国を行き来するシギやチドリなど渡り鳥にとって重要な中継地となっている。

レンジャーの伊藤美信さんの案内で望遠鏡をのぞくと春の渡り鳥であるチュウシャクシギを見ることができた。観察や自然体験プログラムが用意され、ジュニアレンジャー募集のポスターもあってわくわく感が伝わってくる。

谷津干潟の歴史を写真パネルなどで、かつてあった風景、人びとの姿を紹介している。過去の歴史に目を向けて現在を大切にしようという思いが伝わってくる。

野鳥がくつろぐ谷津干潟

●道路計画に新たな動き

行徳鳥獣保護区や谷津干潟、そこにある観察施設などを訪ねて、三番瀬には絶えず開発の波が押し寄せ、住民や自然を愛する人びとの尽力で辛うじて破壊にブレーキをかけてきたことがわかる。

三番瀬周辺にある東京ディズニーランドやその西隣に整備された葛西海浜公園(東京都江戸川区)は人工のものだが、葛西海浜公園は2018年にラムサール条約湿地認定された。時間の経過とともに人びとの記憶や意識も変化する。ディズニーランドのアトラクション曲『It’s a small world(イッツ ア スモール ワールド)』の心弾む歌を聴いて東京湾の自然破壊の歴史を思う人はそうはいないだろう。

悪化する自然環境を再生するため、千葉県は三番瀬再生計画検討会議(通称、三番瀬円卓会議)を設置して論議を重ね、2006年に「三番瀬再生計画(基本計画)」が策定された。その後大きな動きはなかったが、三番瀬をルートに含むとされる「第二東京湾岸道路」計画が再び動き始めた。千葉県の堂本暁子元知事が埋め立て計画の白紙撤回を表明してから20年。自然保護意識の成熟、再生に対する多様な意見などを背景に、自然保護の聖地といえる三番瀬は今後どう変わるのか…。

同じような閉鎖性海域で埋め立てた湿地を復元している米国サンフランシスコ湾を注視してきた筆者には、日本では自然の中に人工物を組み入れることにもう少し敏感になるべきだと感じられる。

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