INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第66回 二酸化炭素排出削減~習近平総書記の強い決意

2021年06月15日グローバルネット2021年6月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

習近平国家主席の国際約束

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは今なお世界中に計り知れない影響を与えているが、その功罪のうち功を挙げるとすれば、オンライン会議の普及であろう。職場の小さな打ち合わせから世界の首脳級会合に至るまで規模の大小を問わず一般的なコミュニケーション方式として定着してきている。いわゆるロビー活動や会合に付随する現場での諸活動は実施できないが、用件のみを簡単に済ます手段としては実際に使ってみると非常に手軽で効率的だ。国際会議の場合には面倒な通関・検疫手続きも長距離移動も省略できる。ハイレベルな国際会議ではスピーチの事前録画参加もできるので、多忙な首脳などは重要な討論セッションだけに参加すればよい。

昨年秋以降中国トップの習近平総書記・国家主席は気候変動対応が主たるテーマ(の一つ)になる多国間首脳級会合に三度もオンラインで出席し、スピーチを行った。オンラインでなかったら三度の参加は難しかったであろう。中国ではこれらのスピーチを重要講話と呼んでいるが、昨年9月の国連総会での2060年カーボンニュートラル目標発表のスピーチ(二酸化炭素排出量を2030年前にピークアウトさせ、2060年前にカーボンニュートラルの実現に努力するという内容)は確かにインパクトがあった。また、同じく昨年12月に英仏および国連が共催した気候野心サミット2020におけるスピーチでも、2030年までに中国は単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を2005年比で65%以上低減させるなど四つの新しい目標を宣言した。さらに、今年4月に米国主催で開催された指導者気候サミットにおいても、前の二つのスピーチほど目新しさはなかったが、二酸化炭素以外の温室効果ガスの管理強化や石炭火力発電所での石炭消費の伸びの抑制と段階的削減に関するロードマップにも言及したことは記憶に新しい(参照)。

2030年前ピークアウト目標等を巡る中国国内の動き

昨年9月の国連総会での二つの目標発表以降、目標達成を巡る中国国内の動きは一気に加速している。とくに目標達成まで残り10年を切っているピークアウト目標達成時期については、国(中国共産党中央・中央政府)、地方政府、大型国有企業等がそれぞれ競うように目標達成時期の前倒しや達成に向けてのロードマップを描き始めた。

まず地方政府の動きをみてみると、各地で両会(地方人民代表大会および政治協商会議)が開かれた今年2月までの時点で、上海市では2025年前のピークアウト目標を提起した。経済発展が著しく日本とほぼ同じ人口を擁する広東省は、省の第14次5ヵ年計画(2021~2025年)の中で率先してピークアウトを目指すことを表明した。同じく経済発展し製造業の立地も多い江蘇省でも全国(平均)レベルで達成するよりも前に省レベルでピークアウトを達成するよう努力することを表明した。その他海南省、青海省、福建省等でも期限前に率先してピークアウトを目指すとしているほか、天津市では鉄鋼業等重点産業での率先したピークアウトおよび石炭消費のできるだけ早いピークアウトを表明している。また、北京市では今年中にカーボンニュートラルに向けてのタイムテーブルとロードマップを作成することを明確にしている。

大型国有企業の取り組み例としては、中国全土の88%に電力を供給する国家電網有限公司が今年3月にカーボンピークアウト・カーボンニュートラルアクションプランを発表したほか、国の要請を受け、鉄鋼、建材、非鉄金属、化学、石油化学、電力、石炭等の重点業種でピークアウト行動計画の検討も行われている。

国レベルでは、今年3月に決定した国民経済社会発展第14次5ヵ年計画と2035年長期目標の中で「気候変動への積極的対応」の一節を設けて、①2030年気候変動対応国家自主貢献目標(NDC)の実施、②2030年前二酸化炭素排出量ピークアウトアクションプランの制定、③エネルギー消費総量と強度(注:単位GDP当たりのエネルギー消費量)のダブルコントロール制度の完全化、④化石エネルギー消費の重点コントロール、⑤二酸化炭素排出強度(注:単位GDP当たりの二酸化炭素排出量)コントロールを主とし、排出総量コントロールを従とする制度の実施、⑥条件が整った地方、重点産業、重点企業が率先して二酸化炭素排出ピークへ到達するようサポート、⑦メタン等の温室効果ガスの管理の強化、⑧2060年までにカーボンニュートラルを達成するためのより強い政策と措置を打ち込む努力――等が書き込まれた。これらのうち、②については今年中に制定することを明らかにしている。

なお、2035年長期目標では「二酸化炭素排出がピークに達した後安定的に低下」の記述にとどまっている。

目標達成は習近平総書記の強い決意か

指導者気候サミットが開催された1週間後の4月30日、習近平総書記は中国共産党中央委員会政治局の集団学習を主宰し、新しい状況下における中国の生態文明建設の強化に関してスピーチを行った。生態文明建設については、本連載でも既報のとおり習総書記が主導して2012年に中国共産党の党規約の中に、2018年には憲法を修正して序文に位置付けられた。その後、同年5月に開催された全国生態環境保護大会で発表された習総書記の重要講話が後に「習近平の生態文明思想」として確立されるなど、生態文明は習近平指導体制の骨格を形成する重要なキーワードである。この集団学習はトップ7を含む中国共産党中央の序列上位の幹部がそろって列席する最高レベルの学習会であった。新華社は、この場で習総書記は次のように強調したと報道している。「生態文明を建設しグリーンで低炭素な循環発展を推進することは、人民の日増しに増大する優美な生態環境のニーズを満足させるだけでなく、より高品質、より効率的、より公平で、より持続可能で安全な発展を促進し、生産の発展、生活の豊かさ、良好な生態の文明発展への道である。第14次5ヵ年計画期間中、中国の生態文明建設は二酸化炭素排出削減を重点戦略方向とし、汚染物質と二酸化炭素の排出を同時に削減することを推進し、経済社会発展の全面的グリーン転換を促進し、生態環境質を量から質へ転換する重要な時期である。」

4 月30 日、集団学習会でスピーチする習近平総書記(中央)
(出典:中国中央人民政府ネット)

自らが唱える生態文明思想の中に二酸化炭素の排出削減を重点戦略方向に位置付けたことで、まずは2030年前のピークアウト目標の達成に向けての強い決意が感じられると思うが、どうであろうか。

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