日本の沿岸を歩く~海幸と人と環境と第52回 豊後の特産品を組み合わせた「かぼすブリ」―大分県・佐伯

2021年07月15日グローバルネット2021年7月号

ジャーナリスト
吉田 光宏(よしだ みつひろ)

大分県南部の佐伯さいき市は豊後水道に面し「佐伯の殿様、浦でもつ」と言い伝えられるように豊かな海の幸に恵まれている。歴史と新鮮な魚介類を目当てに多くの観光客が訪れる。ここにある大分県農林水産研究指導センターは近年話題を呼んでいる「かぼすブリ」の研究を続けてきた。大分県の養殖ブリ生産は全国第2位、これに大分県特産のカボスを与えて育てるのが、かぼすブリだ。大分県取材3ヵ所の第1弾として、味、香り、見た目が優れたブランドブリを調べることにした。

●血合いの変色防ぐ効果

4月下旬、佐伯市南部の蒲江かまえに到着すると、「道の駅かまえ」のレストラン「Buri Laboratory」でブリフライ、ブリキモ、ブリバーガーとブリ尽くしの注文をした。かぼすブリのシーズン(11~3月)ではないので、せめてもと別の店でハマチ(ブリの若魚)の刺し身を買って味わった。さらに「海の博物館」では漁業の伝統と歴史を伝える漁具などを見せてもらった。

蒲江で食べたブリバーガー

翌日、城下町のたたずまいが残る「歴史と文学の道」を歩いた後、国道をリアス式海岸に沿って北上。海には養殖いかだがいくつも浮かび、のどかな景色が続いた。やがてブリ、マグロ養殖、潜水漁業が盛んな上浦かみうらにある農林水産研究指導センターに到着した。

対応してもらった担当者の説明によると、養殖ブリは他の魚に比べ、時間経過で赤い血合い部分が褐色に変色してしまうこと、また特徴である脂分を敬遠する消費者もいた。「『だめ、だめよ』と課題がいくつも重なっていたのです」。直前までかぼすブリの担当だった木藪仁和さん(現県南部振興局)がピンク・レディーのヒット曲『S・O・S』の歌詞に例えて説明したので、思わず笑ってしまった。

カボスは柑橘類でユズの近縁種とされ、大分県が全国の生産量の90%以上を占めている。江戸時代に京都から苗木を持ち帰ったのが始まりとされる(諸説あり)。臼杵地方を中心に古くから薬用として植栽されてきた。ハウスや露地で栽培され、3月から10月にかけてシーズンで、以後は貯蔵ものが出回る。ゴルフボールを一回り大きくしたサイズで、他の柑橘に比べて香りが強いが酸味は弱く甘味があり、食材の味を引き立てる優れた天然調味料だ。「大分かぼす」は2017年に地理的表示(GI)保護制度に登録された。

かぼすブリ研究が始まった2007年当時、血合いの変色を抑制する植物性ポリフェノールを配合した餌(飼料)が発売され、餌にカボスを混ぜれば同じような効果が期待された。カボスの果汁を餌に混ぜると、血合いの変色を最大40時間延ばすことができた。2010年から民間業者に試験生産を委託し出荷を始めた。

木藪さんが東京のデパートで試食販売したとき、主婦に説明して食べてもらうと「私が今まで食べていた養殖ブリとは別の魚のよう」と驚かれたという。子どもや女性にもおいしく食べてもらうことができることが確認でき、翌2011年以降ヒット商品として注目されることになった。

2012年からは果皮パウダーを使い始めた。果汁パウダーに比べるとカボスの香りが魚肉に移り、変色防止効果も安定しているからだ。ちょうどカボス果汁を使った飲料が大ヒットしたので、増えた大量の搾りかすを有効利用できた。これで「味よし」「香りよし」「見た目よし」と三拍子そろった。魚臭が低減され、塩で刺し身を食べられるようにもなった。

●厳しい飼育マニュアル

カボスのような柑橘類に加えてオリーブ葉、ハーブ類、黒酢などを餌に加えて育てた魚は「フルーツ魚」と総称され、大分県のほか、鹿児島県の「柚子鰤王ゆずぶりおう」、香川県の「オリーブハマチ」など数十種類がある。

産地間競争については「ライバルではなく、共に進化すべき同志のようなもの」と話す。例え話として博多式の辛子明太子を開発し広めた「ふくや」の創業者、故川原俊夫氏(1913~80年)が、望む人に製法を教え、博多の明太子産業が発展したことを話した。

大分県全体のブリ養殖は1万7,000 t程度で、うちかぼすブリは5%ほど。当初は新しい取り組みについて養殖業者の理解を得るのに時間がかかったが、現在は県内の大手4養殖業者が積極的に取り組み、生産量は右肩上がりに増えている。ブリに加えてヒラメ、ヒラマサなどもカボス魚にした。養殖ブリの値が下がった時期、かぼすブリに助けられたという業者もいたという。

現在、かぼすブリを育てる基準はカボス果皮パウダー0.5%を餌に混ぜ25回与えること、出荷は餌を止めてから2週間以内などとしている。

出荷前には県が検査しており、センターの上席主幹研究員木村聡一郎さんは「大分県の飼育管理マニュアルが全国で最も厳しいのでは、と思います」。科学的検証に基づいた生産基準を示し、生産、販売、行政が集まる会合などを通じて基準の徹底を図っている。

販売期間は10月の県産魚の日(第4金曜日)から3月末までとし、「かぼすブリ・かぼすヒラメ販売促進協議会(2013年結成)を軸に生産者、漁協、県が一体となって活動を展開している。東京・銀座のアンテナショップ「坐来ざらい大分」でも販売している。

かぼすブリのポスタ

●次は「早く育てる技術」

かぼすブリの次の課題は、市場ニーズに応える「早く仕上げる」。通常は10月に出荷開始となるが、8~9月に繰り上げ、さらに周年出荷を目指している。

昨年から果皮パウダーに代えて効果の高い果皮ペーストを導入する研究を始めた。そうすると果皮パウダーを25回与えたのと同じ効果が果皮ペーストなら10回程度で出るという。昨年8月に試験販売をし、本格的な導入が目前となっている。

説明を聞いた後、センターのいけすで飼われているブリの稚魚から成魚まで見せてもらった。かぼすブリを養殖している場所も見ようと国道217号を北上し、臼杵市黒島付近で現場を確認した。株式会社大分みらい水産のもので、海面にブイが浮かび、田畑で農作物を栽培するような感覚にとらわれる。

かぼすブリの養殖場
(臼杵市の大分みらい水産)

日本の養殖は技術が進歩し、時には天然魚をしのぐ品質レベルを実現している。とはいっても自然を舞台とすることに変わりない。今年はモジャコ(ブリの稚魚)の採捕が少なく不安材料なのも一例だ。

大分県の代名詞であり、カボスを有名にした一村一品運動は、お金を使わず頭を使って、現状の中で最善の方法を考えることを主旨としている。かぼすブリもその成果ではないかと改めて思った。

センターで聞いたマグロ養殖の赤潮対策も同じ考え方ではないか。養殖環境チームリーダーの内海訓弘さんから聞いた佐伯湾での養殖マグロを赤潮被害から守る取り組みに合点がいった。マグロのいけすを赤潮が到達しない網丈(40m)の深層型いけすにする「大分方式」、カキ養殖をして赤潮プランクトンをカキに食べてもらうという二本立て。昔アコヤガイ養殖が盛んだったころ、貝が水を浄化し赤潮が発生しなかったことがヒントになった。カキ殻は粉砕して肥料として有機農業者に提供する。豊後の「温故知新」である。

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