NSCニュース No. 132(2021年7月)日本も強みを生かして国際的なリーダーシップを

2021年07月15日グローバルネット2021年7月号

環境コーディネーター(スウェーデン在住)
高見 幸子(たかみ さちこ)

持続可能な開発目標(SDGs)は2030年までに達成したい目標から、パリ協定は2050年にカーボンニュートラルという目標から、とどちらもバックキャスティングするという点で優れた戦略だと思います。しかし、それで持続可能な社会に到達できるでしょうか? スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリは、不十分だと主張しています。自然科学の法則とは、政治交渉ができないからです。

今年4月の米大統領主催の気候サミットで、2030年の温室効果ガス(GHG)排出削減についてアメリカは50~52%、EUは55%、菅首相も46%を目指すと宣言しました。しかし科学者は、ティッピングポイント(臨界点)を超えないためには、今すぐGHGを激減させ始めなければならないと言っています。科学的な検証からバックキャステイングして戦略と対策を講じていかなければ、気候危機を回避することはできないのです。

スウェーデン発祥の国際環境NGOナチュラル・ステップは、バックキャスティングをする時、対策が持続可能かどうかを科学的な四つのシステム条件(※1)で確認するツールを開発しました。原発はその四つのシステム条件のすべてに違反するため、持続可能なエネルギーではないことがわかります。再生可能なエネルギーでカーボンニュートラルを達成するには、今ない技術とシステムを開発する必要があることを認識し、10年以内に行う心構えと準備ができているでしょうか?

※1:四つのシステム条件 ①地殻からの物質の濃度が増え続けない ②人工的な物質の濃度が増え続けない、③自然が物理的な方法で劣化しない ④人々が基本的なニーズを満たす行動を妨げない

SDGs世界ランキングの評価から見た日本のSWOT分析

持続可能な開発目標(SDGs)は環境、経済、社会の三つの分野の目標が統合されています。日本が達成する上でどのようなリスクと可能性があるか、日本が18位にランキングされた報告書での評価を参考にSWOT分析(内部環境と外部環境それぞれに由来する要素を洗い出し、現状を分析していくマーケティング手法)をしてみました。

社会的な分野の中で、日本が優位にあるのは、達成できている目標16「平和と公正をすべての人に」です。一方、自分の声を代表する人を選挙で選ぶことは国民の権利ですが、選挙投票率や議員や企業の役員に占める女性の割合の低さは民主主義ではないと判断され、世界のジェンダーギャップランキングで先進国でありながら120位という評価は、大きな弱みでリスクとなります。

スウェーデンのジェンダー平等から学ぶこと

SDGsランキング2位のスウェーデンは、ジェンダー平等は達成していると評価されています。しかし、かつては家父長制で、女性は男性に依存し、権利がない時代がありました。男女平等の権利を求める女性運動が1970年代に活発になり、女性たちは夫婦で働くと税金が高くなる課税法の改革と男女平等の給与を要求し、今ではまだ男女の所得差はありますが、夫婦別課税となり女性も経済的に自立できています。

現在、スウェーデンの女性の就職率はEUで最も高く79.7%です。保育園や高齢者福祉施設が充実していますが、ここまで福祉が進んだ背景には、国や自治体の女性議員の増加があります。

1994年、スウェーデンの女性運動家たちは、女性議員の割合を増やさなければ女性党を結成すると宣言しました。そこで女性の支持者を大幅に失うことを恐れた最大政党の社民党は、候補者の50%を女性にし、他の党もそれに従ったため、女性議員の割合は一気に20%から45%に上昇しました。その後も、一定の割合を女性に割り当てるクオータ制が継続しており、現在内閣の半分は女性大臣、国会議員の46.1%が女性です。議員が半分女性であれば、女性でなければわからない課題が議論され、解決方法が提案されます。女性の議員が多い北欧諸国の国民幸福度が高いのは偶然ではないはずです。

日本のジェンダーギャップを埋めるためには、日本の女性がもっと勇気と自信を持って発言し、政府はクオータ制や税改革を検討すべきだと思います。

日本は、さらにSDGs目標4「質の高い教育をみんなに」と、目標9「産業と技術革新の基盤」を達成しており、それは持続可能な社会への変革のポテンシャルが高いということを示します。

気候危機や生物多様性の問題、感染症対策など、今後グローバルなパートナーシップで取り組むことが求められます。世界が直面している課題に、日本が強みを生かし国際的なリーダーシップを取ってくれるよう願っています。

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