ホットレポートオンライン・セミナー SDG14 ステークホルダーズミーティング ~IUU漁業の廃絶と持続可能な漁業の実現のための協働と連携に向けて~ 成果と展望

2021年10月15日グローバルネット2021年10月号

笹川平和財団海洋政策研究所
小林 正典(こばやし まさのり)

魚食文化の基盤を成す漁業資源。この漁業資源が枯渇傾向にあり、違法・無報告・無規制(IUU)や過剰漁獲がその要因の一部として指摘され、国際的な取り組みが進められている。IUU漁業や過剰漁業の廃絶、さらには、IUU漁業につながる補助金(有害漁業補助金)の撤廃は重要な対策と位置付けられている。2021年7月15日、一般社団法人環境パートナーシップ会議は、IUU漁業の廃絶や持続可能な漁業の実現に向け、オンラインでのマルチステークホルダー会議を開催した。会議は、地球環境パートナーシッププラザ、日本ジャーナリスト協会、地球・人間環境フォーラムの協力、アメリカ・インターニュースの後援を得て一般公開で開催され、各分野の関係者が登壇し、議論が行われ、視聴者からの質問への応答もなされた。以下、この問題の背景と会議の議論の一端をご紹介したい。(セミナーの動画は環境パートナーシップ会議が運営するサステナビリティCSOフォーラムで閲覧可能。)

SDG14と持続可能な漁業

持続可能な開発目標(SDGs)14「海の豊かさを守ろう」では14.2「海洋沿岸生態系の持続可能な管理と保護」、14.4「IUU漁業および破壊的漁法の廃絶」、14.6「過剰漁獲やIUU漁業につながる補助金の撤廃」を2020年末までに実現することが規定されていた。しかし、2020年9月に生物多様性条約事務局によって発表された「地球生物多様性概況第5版」は、魚類等の持続可能な管理を目指す愛知目標6は達成されていないと報告し、国連食糧農業機関(FAO)は、世界の魚種の34%が過剰漁獲の対象となっており、漁業資源の枯渇の傾向に警鐘を鳴らした(Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO). The State of World Fisheries and Aquaculture 2020.)。『アウトロー・オーシャン』(白水社)の著者、イアン・アービナ氏は、IUU漁業が乱獲だけでなく、強制労働等の人権侵害の温床になっているとも指摘している(YouTube笹川平和財団海洋政策研究所第178回海洋フォーラム「IUU漁業の現状とその廃絶に向けた国際連携と課題」)。

IUU漁業と対策

IUU漁業とは、漁業権がない漁船による漁獲や漁獲枠を超えての漁獲、漁獲量を報告しない漁獲、さらには地域漁業機関の協定を遵守せずに実施される漁獲等さまざまな形態がある。FAOは2009年に「寄港地措置協定」を採択し、IUU漁業により漁獲された水産物の水揚げ防止等の対策を国際的に推進している。日本は、2017年に同協定に加入し、その実施を進めるとともに、2018年に漁業法を改正し、違法漁業に対する罰則となる懲役刑を3年、さらに、罰金を3,000万円まで引き上げ、対策を強化している。2020年12月には、水産物流通適正化法が制定され、輸入および輸出に漁獲証明の添付が今後義務付けられる予定で、現在対象魚種の選別の議論が行われている。この会議では、アワビやナマコ等IUU漁業の影響を受ける度合いが高い魚種を中心に対象魚種を指定し、以後、段階的に対象魚種を増やしていく方針がその時点では水産庁を中心に検討されている、との説明があった。一方、その他の参加者からは、ヨーロッパではすべての魚種、アメリカでは13魚種について漁獲証明書の添付が求められており、日本においてもシラスウナギやイカ、サンマ、マグロ等を早期に対象魚種として指定し、適正な資源管理を進めることが急務であるとの指摘がなされた。

IUU漁業による経済的影響

IUU漁業由来の水産物の流入は、魚価を引き下げる等の市場かく乱の要因となる。資源管理等を通じた持続可能な漁業の認証制度である、例えばMSC(海洋管理協議会)を取得する等して持続可能な漁業を実践する漁業者は、漁業資源管理や認証取得等の経済的負担を負っている。一方、IUU漁業由来の水産物が廉価で市場に出回れば、全体的な水産物供給量が増大し、持続可能な形で漁獲された水産物の価格まで押し下げる。結果、持続可能な漁業を行う漁業者の収益を減らしてしまう()。また、欧米等で輸入を拒まれた水産物が日本市場に流入する割合が高まれば、日本市場が不公正競争市場となり、例えば欧州の水産会社にとっては、日本市場への水産物輸出機会が脅かされるとの考えも指摘された。

有害漁業補助金の意味

近年、遠洋漁業を拡大している国の中には、政府が燃料等を補助し、そうした補助を受けた漁船が過剰漁獲に加担しているのではないかとの疑念が指摘されている。2021年7月15日には、世界貿易機構(WTO)が閣僚会議を開催し、過剰漁獲やIUU漁業につながる漁業補助金の廃絶に向けた国際協定の成立を今年中に取りまとめる方針を確認している。この交渉の議長を務めるサンチアゴ・ウィルス駐ジュネーブWTOコロンビア大使は、漁業資源の保全だけでなく、適正で建設的な財政支出や燃料利用削減による温室効果ガスの排出抑制の可能性等にも言及し、国際合意成立の重要性を強調した点も想起された(YouTube笹川平和財団海洋政策研究所主催:IUU漁業廃絶・有害補助金撤廃に向けた施策に関するマルチステークホルダー政策対話シンポジウム、2021年7月6日開催)。

流通・販売、消費者の対応

宮城県気仙沼市の臼福本店や宮城県塩竈市の明豊漁業はMSCを取得し、持続可能な漁業や水産物販売を実践しているが、MSCが即座に高い卸値・小売値を保証するわけではなく、たゆまぬ販路拡大努力が求められる点が指摘された。首都圏で飲食店を展開する「きじま」では、CoCと呼ばれる加工・販売業者向けの認証を取得し、MSCやASC(養殖管理協議会)認証の水産物を食材として扱っているが、コロナ禍に伴う緊急事態宣言下で経営が逼迫する中、おいしさ、美しさ、水産物の持続可能性、経済性をどのように総合的に実現していくかは重要な課題であるとの発言もあった。株式会社羽田市場は、地方魚市場や気鋭の漁業者と東京の市場を航空便や新幹線でつなぎ、水産物を鮮度や風味の維持により付加価値を高め、首都圏での販路拡大を進めている。一般社団法人セイラーズフォーザシーは、資源量が確保されている水産物をブルー・シーフード・ガイドと呼ばれるパンフレットにまとめ、持続可能な漁業に配慮した水産物調達や提供をレストラン等と連携しながら進めている。神奈川県逗子市のSDGsイベントでは、この夏、MSCや持続可能な養殖水産物のASC認証を得ているマグロやサーモン、有機野菜を利用したメニューを提供し、盛況を博した。

持続可能な水産業および水産市場の実現に向けた将来的課題

この会議では、登壇者は、持続可能な漁業および水産物市場の実現に向け実践する取り組みや課題について熱心な議論を展開した。魚食文化の重要な担い手であり、世界第2位の水産物輸入国であるわが国が、範を示し、多様で豊かな水産資源を保全し、未来世代につないでいく責務を果たすため、社会協働や連携推進に向け、協力の環を広げていかなければならない。

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