シンポジウム報告 日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)オンライン国際シンポジウム カーボンニュートラル実現のラスト10年 ~循環型社会を目指す日中韓の現場から
〈日本・東京都世田谷区〉
地域循環共生圏で脱炭素進める世田谷区

2021年11月15日グローバルネット2021年11月号

(株)エネルギージャーナル社
今西 章(いまにし あきら)さん

 国際社会は、21世紀半ばの温室効果ガスの排出ネットゼロに向けて動き出し、日本、中国、韓国の3ヵ国も、具体的な目標を提示して取り組みを急いでいます。しかし、気候変動のスピードはますます加速しており、今後10年に抜本的な行動変革を起こさなければ手遅れになるといえます。
 本特集では、日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)が、関西・大阪21世紀協会の支援を受け、「ネットゼロ」、「地域循環」、「低炭素農業」をキーワードに、日中韓3ヵ国の記者による取材を進め、10月30日に開催した国際シンポジウム「カーボンニュートラル実現のラスト10年~循環型社会を目指す日中韓の現場から~」でも報告された現場情報を紹介します(2021年10月30日、オンラインにて)。

 

政府が定めた2030年度の新たな温室効果ガスの削減目標を達成するには、自治体の取り組みがカギを握る。

東京都23区の最大人口を誇る世田谷区はエネルギー先進自治体になるべく、さまざまな再生可能エネルギー導入拡大の取り組みを展開している。

世田谷区は2020年10月に東京23区では初めてとなる気候非常事態宣言を発出し、2050年二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを目指すゼロカーボンを表明した。区の地球温暖化対策地域推進計画の見直しに着手しており、22年度には固まる予定だという。世田谷区環境政策部の池田あゆみエネルギー施策推進課長は「住宅都市である世田谷区は総人口約92万人と電力消費が大きい地域だ。区自らが再生エネを生み出し、環境に優しい取り組みを進めている」と解説する。

具体的事例として、区は神奈川県三浦市にある区有地(三浦健康学園跡地)を活用して、14年3月に350kWの世田谷区みうら太陽光発電所を開設した。年間発電量は約170世帯分に相当する約50万kWhで、年間の売電収益は約500万円になるという。さらにCO2削減効果は年間約23万400kgに及ぶ。植物が吸収するCO2量に換算すると杉の木1万6,400本分だ。

新潟県津南町と小水力の新たな電力連携へ

世田谷区は再生エネの資源が豊富な地方自治体との電力連携を積極的に進めている。住宅都市である区では、大規模なエネルギー開発が自区内では限られるからだ。実際に群馬県川場村の45kW木質バイオマス発電(区民40世帯分、CO2削減量5万4,211kg)や、青森県弘前市の1,500kWメガソーラー(同92万1,600kg)、長野県の180kWと980kWの2ヵ所の県営水力発電(写真、同160万450kg)などから小売電気事業者を通じて再生エネ電力を調達して、区立の保育園、児童館などの施設や希望する区民に供給している。

長野県伊那市の高遠水力発電所

さらに政府の国・地方脱炭素実現会議で、新潟県津南町の桑原悠町長より豊富な自然エネルギー資源の活用について検討している旨の発言があったことから、世田谷区は津南町へ新たな電力連携に向けた検討を依頼し、調整を進めてきた。2021年8月19日に協定を締結。電力連携により津南町営の39kW小水力発電を、希望する区内の企業を中心に電力供給する。

また世田谷区は区民、事業者で、区内の再生エネの利用拡大を進める「せたがや版RE100」を展開している。ロゴマーク()を公募で決めてPRに活用。賛同者は21年7月7日時点で、個人77人、企業19社に上る。前述の池田課長は「賛同企業は環境への取り組みの紹介などを区のホームページで掲載するので、企業PRに活用してほしい。区の率先行動として19年4月から区役所本庁舎に再生エネ100%電力導入を達成。毎年、再生エネに特化した入札を実施している」と胸を張る。

「せたがや版 RE100」のロゴマーク

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