持続可能な社会づくりの模索 ~スウェーデンで考えること第4回 直して使う文化は戻ってくるのか~修理・修繕の復興に向けての試行錯誤

2022年01月17日グローバルネット2022年1月号

ルンド大学 国際環境産業経済研究所 准教授
東條 なお子(とうじょう なおこ)

質の良い物を作り、壊れても代替品を買わずに直して長く大切に使うことは、大量生産・大量消費・大量廃棄社会から脱却し、人一人当たりの資源使用を抑えた持続可能な社会づくりを進めていく上で肝要である。今回は、この中の「直す」に関するスウェーデンの現状や試行錯誤について書いてみる。

後退する修理・修繕と増え続ける消費

OECD(経済協力開発機構)諸国の例に漏れなくスウェーデンでも、数十年前には当たり前に行われていた修理・修繕が買い替えに置き換わられ、新製品の生産増加に拍車を掛けてきた。例えば電気電子機器の出荷量は、2009年から2018年の10年間で国民一人当たり23.5㎏から28.3㎏と20%近く増え、繊維製品の場合、2000年から2019年の20年間で30%増えている。生産増加は原材料の採掘や栽培、部品の加工、組み立てや染色、縫製等、製品上流の諸工程での環境負荷増加と直結し、その削減には、資源循環に向けた取り組みが不可欠である。

製品の修理・修繕促進のための具体的政策の登場

製品の修理・修繕は、再利用と並び、廃棄物処理諸政策の中でも優先されるべきものとして既に70年代から挙げられてきた。しかし現実には優先順位の下位にある焼却・熱回収や適正処理の方に主眼が置かれ、資源循環政策が進められた90年代でも、主だった政策はリサイクル促進で、最優先とされる発生抑制、それに続く再利用や修理・修繕促進のための具体的施策は、質的発生抑制である有害物質規制や再使用・修理しやすい製品設計の促進の一部を除き、あまり進められてこなかった。それが、2000年代後半、資源確保の観点から資源循環の必要性が再認識され、循環経済が2010年代に再台頭する中、どうすれば修理や修繕が進むのかの検討が真剣にされるようになった。

EU(欧州連合)では、2020年に出された最新版の循環経済行動計画の中で、修理しやすい製品設計促進とともに、消費者が信頼に足る修理・修繕関係情報を製品購入時に受け取り、修理・修繕サービス、予備部品、修理・修繕マニュアルを入手できるようにするべく、消費者法の改正を提唱している。また、電気電子機器等の修理がメーカーに制約されてきたことを念頭に、ソフトウェアの更新も含めた、いわゆる「修理・修繕の権利」を確立することも述べられている。また、修理・修繕サービスを推進するため、加盟国が付加価値税率を活用することも挙げられている。

スウェーデンではこの数年、特に税制上の優遇を通して修理・修繕サービスを促進してきた。2016年には、自転車、靴、革製品、洋服および家庭繊維製品の修理・修繕の付加価値税率を、通常の25%から12%に下げた。同じく2016年、白物家電の修理業者の労働代金のうち最大50%が所得税還元という形で修理依頼者(消費者)に補填されることになった。

市民や自治体の活動~消費者本人による修理の促進

修理・修繕の促進は、国レベルだけではなく、市民や自治体でも進められている。一例に、スウェーデン第三の都市、マルメで活動を展開しているリペアカフェがある。マルメのリペアカフェはオランダで始まった国際リペアカフェに触発されて数年前に立ち上げられた、故障した電気電子機器を消費者が自分で修理することを手助けする団体である。市内の多目的施設や図書館等を会場に、毎週日曜日3時間程度、ボランティアが7人ほど集まり、修理に必要な道具を提供しつつ、故障した製品を持ち主自身が修理できるようアドバイスする。会場は自治体が無償で提供し、修繕に必要な道具は地域の廃棄物処理会社Sysavが購入資金を提供している。ボランティアが飲み物とお菓子を用意し、参加者が待ち時間、休憩時間等に飲食できるようにしている。プロによる修理の仕事は奪わないよう、家に出向いての修理サービスや、現場での修理依頼は受け付けない。2017年からボランティアとして活動に参加しているジェシカ・リヒターによると、参加者は少ない時で6人くらい、多いと25人くらいになるそうだ。今後は製縫の心得のあるボランティアにも入ってもらい、繊維製品の修繕も活動に入れていく予定とのことだった。

動き出したメーカーや業界

民間業者も動き出している。例えば、家電メーカー大手のエレクトロラックス社は、消費者が自分で直せない製品を、一律価格の出張サービスで修理している。筆者がこの夏、電子レンジの故障時にサービスを頼んだ折に来た専門員(写真)によると、依頼は多く、基本的に勤務時間中は毎日予約で埋まっているとのことだった。上述の修理業者の労働代金の補填が始まったことと、修理代を代替部品の価格も込みで一律にしたことでサービス依頼が増えたように思う、と言っていた。

専門員が出張サービスで電子レンジの故障を直しに来てくれた。料金は代替部品も込みで一律。

また、電気電子機器はEU、スウェーデンでも拡大生産者責任法の対象となっているが、廃製品の回収拠点からの運搬、リサイクル率の達成、といった生産者の義務内容の実施を生産者に代わって取りまとめる組織(Producer Responsibility Organisation:PRO)の意識も変わってきている。EU某国のPROの代表いわく、「これまでは葬式のビジネスにいたが、これからはリハビリのビジネスにも関わることになる」。つまり、廃製品の回収やリサイクルのみではなく、回収された製品を修理して再度使えるようにする業務も活動範囲に入った、ということだ。これまでリサイクル率達成を主眼にしてきたPROとしては画期的である。

アパレル業界でも、本誌368号でも紹介したとおり、例えばジーンズメーカーのNudie Jeansでは、自社製品であれば無料で修繕を行っている。修繕を頼むと数週間かかることもあるが、店には修繕を待つジーンズが数十本並んでおり、このサービスが重宝されていることがわかる。

それでもなかなか進まない修理・修繕

このように、多方面から進められている修理・修繕だが、実はその活動が社会全体に広がっているわけではない。この夏に出された修士論文によれば、スウェーデン人の多くは、修理・修繕は環境保全や社会に有益なものと認識しているものの、修理・修繕に対し、複雑で時間がかかり、高い、という負のイメージを持っているという。電気電子機器が故障した際、一般的にスウェーデン人がするのは買い替えであって、修理ではない。スウェーデンはIKEAを生んだ国で、家具の組み立てどころか、古い家を買って週末にこつこつ修繕していくのが趣味、といった人も珍しくない。また、のみの市は賑わっているし、BlocketやTraderaといった中古市場サイトの使用者も多い。そんな中でなぜ、修理・修繕は進まないのか。スウェーデン人の夫に話してみると、小型家電やアパレル製品等の場合、代替新製品の安さに加え、修理方法がわからないことによる不安感、修理のしにくさ、時間、修理後の見た目、道具の欠如、家の修繕等と比べた場合の達成感の少なさ等によるのではないかと言っていた。よっぽど愛着がない限り、新しい物を買った方が安上がりということになる。

リペアカフェといった取り組みは、修繕方法のアドバイス、道具の提供等、スウェーデンで修理・修繕が広がらない理由の一部の改善に寄与している。ただ、最終的には、製品そのものの質や価値を上げ、数は減っても消費者個人個人にとって価値のあるものにする、という製品づくりの大方向転換をしないと、「直しの文化」の再導入は難しいのかもしれない。

  Lopez Davila, Mariana.(2021). Behavioral Insights into Personal Electronics Repair: Accelerating the Swedish Transition to a Circular Economy. IIIEE Masters Thesis 2021: 11, Lund: IIIEE, Lund University

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