環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページ東京都の脱炭素戦略「ゼロエミッション東京」は有効か?

2022年04月15日グローバルネット2022年4月号

クリエイトブックス、山と溪谷社
岡山 泰士(おかやま やすし)

約1,400万人の人口を抱える東京都の温室効果ガス(GHG)排出量は6,211 万トンと巨大だ。国のカーボンニュートラル宣言に先立ち、東京都は2019年12月、「ゼロエミッション東京戦略」を発表。2021年3月のアップデート版では、2030年までのGHG排出量の半減を目標として掲げている。これはGHG排出量とエネルギー消費量を2000年比で50%削減、再エネ電力利用割合を50%程度にするという意欲的な計画だ。東京都にはどのような課題があり、具体的にどう取り組みが行なわれようとしているのだろうか。

感染症と気候変動の危機を越えて

「ゼロエミ東京戦略」が発表された直後、コロナ禍が日本を襲った。社会が大きく変わる中、東京都の環境政策はどう変わったのか。環境局環境政策課長の三浦さんに概況をお聞きした。

「東京都としては、感染症の危機と気候変動の危機の両方を解決して行かなければ明るい未来は開けません。コロナからのサステナブル・リカバリーのためには、気候危機への対処が非常に重要なファクターなのです」

特に2030年までが極めて重要で、2030年にGHG排出量を2000年比で50%削減するために、自動車、建物、資源などに関する総合施策を策定した。

「最終目標は2050年に実質ゼロにしていくことなので、2030年にどういう東京の姿になっているかが2050年にものすごく効いてくると思います。ですので、2030年までに2050年に向けた東京のシステム、仕組みを整えるめの動きをしようというのが今回のコンセプトで、非常に重視しています」

実際、「ゼロエミ東京戦略」はインフラや制度設計、助成などを通じてあらゆる分野に及び、高い目標設定と具体策に迫力も感じる。しかしあえて厳しい言い方をすると総花的であり、時間も予算も限られるなか、あと8年で本当に「半減」できるのだろうか?

予算構成から見えてくること

令和3年度予算で「ゼロエミッション東京の実現」に充てられた403億円で大きな比重を占めるのが補助金だ。

ゼロエミッション・ビークル(ZEV)の普及促進に116億を充て、EV1台当たりでは最大60万円の補助金を都が支給する。これは国の補助、減税、ガソリン車との燃費差などを考慮すると、同等のガソリン車よりも安く買えることになる。

また、排出量の7割を占める「建物」への対策は、省エネ対策の推進として112億円が充てられている。中でも、中小規模事業者向けの省エネ型換気・空調設備の支援に51億(その後補正予算がつき約66 億に拡充)、大規模事業者向けには「キャップ&トレード制度」といわれる、CO2排出量の削減義務を課して排出量取引制度と組み合わせた仕組みに5億円が予算化。省エネ性能の高い一般住宅の普及には、新築住宅を対象に総額24億円が補助される(その後約43億に拡充)。これは、戸建住宅で1戸当たり50万円、集合住宅でも20万円/戸と大きな金額だ。

さらに照明のLED化推進費が145億で、ZEV、省エネ(建物)と合わせた三大予算で実に93%を占める。

一方、資源対策関連で近年注目が集まるプラスチック対策費は19億円、食品ロスに至っては1億円弱の予算だ。

個々の課題よりも全体設計が重要

公共用充電設備の設置に13億、水素ステーション設備には21億の予算が組まれた。もちろん、これらは排出量の多い運輸部門への対策として欠かせないが、欧米での投資額と比べると桁違いに少なく、より一層の拡充が求められる。

一方で、食料廃棄の削減の方が、EV導入より7倍のCO2削減効果があるという試算もある(ポール・ホーケン著『ドローダウン』より)。

幸い、1月に発表された令和4年度予算案では、「ゼロエミッション東京」関連は971億という大幅な増加が見込まれている。水素と太陽光発電への比重が大きい中、断熱・太陽光住宅の普及拡大事業に247億の新規予算がついたことは高く評価できる。

今後はCO2削減量と予算との関係を明確にした上で、政策評価をしていくことが欠かせないのではないか。

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