特集/今、スポーツに求められること~持続可能性の観点から~東京・北京でのオリンピックにおける持続可能性の取り組み

2022年04月15日グローバルネット2022年4月号

グローバルネット編集部

 東京2020大会は2021年7-8月、コロナ禍で無観客となったものの、国内外から数万人の選手や関係者が集まり開催されました。オリンピック・パラリンピックというメガスポーツイベントにおける持続可能性の取り組みの中で、何が達成され、何が達成されなかったのでしょうか。そして、その経験は日本のスポーツ界、ひいては今後の持続可能な社会づくりに向けて、どのようなレガシーを残したのでしょうか。
 今回の特集では、東京2020大会での取り組みを振り返り、今後の日本のスポーツ界にどのようなバトンが渡されたのか。さらに、スポーツの垣根を越えた、企業などとの連携によって、持続可能な社会づくりや、地域振興、環境・社会問題の解決にどう貢献していけるのかを考えます。

 

今年2月、中国・北京で第24回冬季五輪が開催された。中国では、スポーツイベントにおける持続可能性に関する取り組みは進んでいるのか。昨年12月、持続可能なスポーツイベントを実現するNGO/NPOネットワーク(SUSPON)が開催したオンラインイベント「サステナブルな社会の実現にスポーツの力を活用する可能性を探る」に登壇した、中国の環境NGO自然之友の呉驍氏による報告「中国のゼロウェイスト活動」の概要を紹介する。

日本の取り組みに学び、中国の音楽イベントで実践

2017年、私たちは来場者参加型のゼロウェイスト活動を進める日本のNPO iPledgeに声を掛けていただき、日本の野外音楽イベント、フジロックフェスティバルにボランティアとして参加し、大型イベントでのごみ分別やごみ問題の啓発活動について学びました。その有意義な経験をぜひ中国でも広めたいと思い、2018年5月、iPledgeの方を中国に招いて中日の協働チームを立ち上げ、中国の音楽イベントで初めての活動を行いました。

3日間の開催期間中、来場者に分別を呼び掛け、ごみ問題に関する展示も行った結果、最終日には来場者たちが自発的にごみを拾い、リサイクルステーションまで運ぶという光景を目にすることができ、中国でもゼロウェイスト活動を広げることは可能だと確信しました。

音楽イベントでの経験をスポーツイベントに展開

給水のためのリユースカップをゼッケンに留めて走る 選手

その収穫をスポーツイベントでも生かそうと、マラソン大会等でさまざまな取り組みを試しました。何よりもまず、ごみを分別することの意義をわかってもらうことが大事なので、ボランティアには現場で説明ができるよう学んでもらい、現場にはわかりやすい展示や看板等を設置しました。

2017年に杭州市で開催された大会では、会場で回収した生ごみを有機農場に送って堆肥化し、それを肥料とし栽培・収穫した果物を翌年の大会で、給水所の補給食として参加選手に提供しました。

使い捨ての給水カップでなく、組織委員会が用意した折り畳み型のカップを繰り返し使用してくれた選手には「ゼロウェイスト選手」としてバッジやタオルを配布したり、カップをウエアに付けて走り、給水に使ってもらうことも試しました(写真)。

北京冬季五輪では、「ゼロウェイストの開幕式」を目指して組織委員会への働き掛けを続けていました。組織委はすべての競技会場の担当者に対し、「ゼロウェイスト研修」を予定していましたが、大会開催直前に新型コロナウイルス感染者が急増したため、研修は実現せず、結局廃棄物関連の特別な取り組みはありませんでした。

今年9月には中国・杭州でアジア競技大会が開催される予定です。自然之友では関係機関と連携して、ゼロウェイストの取り組みを実現させたいと考えています。

 

一方、東京2020大会での取り組みはどうだったのか。東京大会の成果を記した報告書「アクション&レガシーレポート」(昨年12月公開)について、環境保全団体WWFジャパンが、今年2月15日に公開した声明「不十分に終わった東京2020大会の持続可能性の取り組み」を一部抜粋して紹介する。

多くの課題と疑問が残る報告書

東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)は、残念ながらSDGs時代の国際スポーツ大会に欠かせない「持続可能性」の取り組みについては国内ではほとんど話題になることなく終了した。

東京2020大会は、環境や社会に配慮した「持続可能な大会」として実施されることになっていたが、東京大会の脱炭素に対する取り組みは高評価に値するものの、大会組織委員会が作成した「調達コード」には多くの課題が残されたまま開催に至った。その成果を公開した大会後の報告書「アクション&レガシーレポート」にも、その透明性において疑問が残る結果となった。

残された課題を今後にどう生かすか

重要なのは、大会の持続可能性の取り組みにおいて、何が達成され、何が大きな課題として残り、どうすれば今後に生かされるかを検討することである。WWFジャパンでは、大会前の2016年から、大会の「街づくり・持続可能性委員会」の委員の一人として、持続可能性の取り組みの策定から実施、評価まで密接に関わり、これまで多くの課題を指摘する意見も公開してきた。

大会後の報告書「アクション&レガシーレポート」には、これらの調達コードが不十分なものになったのは、国内の持続可能性の取り組みが進んでいないためとされており、持続可能性の取り組みは、少なくとも東京2020大会によって認知は進んだと組織委員会は報告している。

しかし消費者の意識が低いから、持続可能性の取り組みの基準を緩める、とするのは本末転倒であることは、WWFは繰り返し述べてきた。本来は高い持続可能性が担保できる調達基準を示してこそ、調達する当該企業の意識も向上し、ひいては消費者にも届いたのではないか。

せめて、どの程度、各企業の取り組みが進んだのか、そしてどの程度持続可能性を担保できる認証取得が進んだのか、そして調達物品の中で認証品が占めた割合等を具体的に数値で明示し、公開することが必須であったが、「アクション&レガシーレポート」では残念ながら不十分な報告に終わっている。また運用実績に関する外部レビューも実施されることがなかった(産品ごとの取り組みの課題と報告の問題点、評価については、WWFジャパン声明を参照)。

東京2020大会の教訓を踏まえ、持続可能な取り組みの推進を

東京2020大会は、同様に2021年に延期されたイギリス・グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)と同じ年に開催されることとなった。気候変動についての国際会議で、森林や自然がかつてないほど取り上げられ、「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」が発表されたのは画期的である。ここでは、2030年までに森林減少を食い止めるために140を超える国が協力することを宣言した。しかし、こうした持続可能性の取り組みが加速度的に進む中、東京2020大会の示した持続可能な調達コードは、SDGsオリンピックにふさわしいレガシーになり得たとは残念ながら言い難い。

持続可能性の取り組みは、今やきれいごとではなく、欧州を中心に持続可能な調達が主流化する中、ビジネスの必然となっている。日本企業の国際競争力向上のためにこそ、持続可能な調達の取り組みは加速する必要がある。

オリンピック・パラリンピック大会など国際的に注目されるイベントは、真に持続可能な取り組みを推進するものであることが必須であり、開催地の企業の取り組みを飛躍的に前進させ、世界各国にその普及を図る役割がある。

2025年に日本で開催される国際博覧会(大阪・関西万博)を含めて、今後日本で国際的なイベントを開催する際には、中途半端な持続可能性の取り組みに終わることは許されない。東京2020大会の残した教訓を踏まえていくべきである。

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