特集 シンポジウム報告/Refill Japan シンポジウム もっとリフィルを!さらなる脱使い捨て社会へ!〈基調講演〉脱使い捨ての潮流とその先のアプローチ

2022年05月17日グローバルネット2022年5月号

国立環境研究所 資源循環領域 資源循環社会システム研究室長
田崎 智宏(たさき ともひろ)さん

 全国に給水(リフィル)スポットを増やし、環境負荷の低減と魅力的なまちづくりを推進するプラットフォーム「Refill Japan」が2019 年5 月に発足してから3年。今では「給水スポット」という言葉が多くの企業や自治体でも使われるようになり、これを生かしたまちづくりを実践する地域も増えてきています。
 本特集では、Refill Japan が今年3 月18 日に開催したシンポジウム「もっとリフィルを! さらなる脱使い捨て社会へ!」での、基調講演・報告そしてパネルディスカッションの概要を紹介します。

 

リサイクルだけでは不十分

日本ではプラスチック資源循環戦略をはじめ、さまざまな対策が取られていますが、世界はさらに動いています。今年3月の国連環境総会では、出席した全175の加盟国が賛成して、2024年までに国際的に法的拘束力のある協定を策定することを決議しました。

2019年のG20で策定された大阪ブルー・オーシャン・ビジョンでは、「2050年までにプラスチックごみによる海洋汚染の追加的汚染をゼロにする」という野心的な目標が掲げられています。これを実現するには、クリーンアップ(清掃)量が環境への流出量より大きくなるという条件を満たす必要があります。流出量を減らすには、回収量を増やすか、利用量を減らす必要がありますが、努力や気合いだけでは限界があります。クリーンアップ量を大きくするには清掃活動をもっと活発にする必要がありますが、それにはお金がかかります。一方、利用量を減らすことで生産・素材の費用も下がるため、それによって経済と環境が両立する可能性があります。今後は、「リサイクルしているから十分」ではなく、リデュースやリユースにも取り組む必要があります。

プラスチック問題は海洋プラスチック汚染、非再生資源依存(石油依存)、地球温暖化、そしてそれらの根本を成す大量生産・大量消費が複合して起きている問題であり、リサイクル、素材代替(バイオマス起源プラスチックや生分解性プラスチック)、収集システム・クリーンアップといった政策を組み合わせて対処する必要があります。ただこれらの政策だけでは大量生産・大量消費という問題には対応できず、そこに対応できるリデュース・リユースは、他のすべての問題に効果があるのです。

第一歩は「気付くこと」

リデュース・リユースの第一歩は「気付くこと」だと思っています。そのための一番の方法は「計る」こと。重さや容積、袋の数でもいいので、実際に使っているプラスチックの量を計ってみることです。また、使い過ぎや食べ過ぎ、飲みすぎといった過剰性は、いずれも中毒のようなもので自分では気付きにくいので、他の人との対話を通して、当たり前を問い直す作業が必要になります。

こうした「気付き」を台無しにするのが、行動する時に「仕方ないよね」と諦めてしまうことです。諦めないでやってみることで、良い未来を築く第一歩になります。例えば、「自分たちはこんなにプラスチックを使っている」という問題意識を持ち、ランチの時に使うプラスチック容器を減らそうと市長に働き掛けたニューヨークの小学生たちを描いたドキュメンタリー映画『マイクロプラスチック・ストーリー』がありますが、そのように自分たちだけでやるのではなく、いろいろな人とつながり対話することが大切です。

インフラやルールを見直す

自分で減らすだけでなく、インフラやルールを見直して多くの人ができる状態を作り出すことが重要です。例えば、ニューヨーク州では昨年12月、ホテルでシャンプー等の入っている使い捨ての小さな容器を2025年から使用禁止にする法案が成立しました。対象は350ml未満のリユースできないような小さな容器です。ニューヨークには客室が11万室以上あり、2,000万個以上の容器を減らせると見込まれています。今後はリフィルできる大きな容器に置き換えられ、今ある在庫品は2025年の施行までに使い切る予定です。大切なのは市のホテル協会、州のツーリズム協会も賛同し、消費者と事業者団体が対策を打ち出すことで法案ができたことです。

また台湾では、コンビニ、自治体、環境NPO、社会的企業、Plastic Free Allianceが連携してリユースカップの使用促進運動を実施しています。店舗では、スマホを使って自動販売機のような機械からリユースカップを借り、返却できます。レンタル料はカップ持参時のディスカウント分と同じ20元(80円)で、累積15万個の使用済み容器を削減しています。

一方、法律を作って大きく動いているのがフランスです。循環経済に向けた脱廃棄(アンチ・ウエイスト)法が2020年2月に成立しています。2040年までに使い捨てプラスチック容器包装を最終的には禁止するという点で野心的です。その35条によると、食品以外の売れ残り商品は生産・輸入・流通業者がリユースもしくはリサイクルしなければなりません。焼却や埋め立ても駄目ということで、これは世界で初めてだと思います。フランスでは年間6.3億ユーロの売れ残り商品が発生しているといわれており、この法律の効果に期待がかかります。

フランスでは2021年8月に気候変動法も成立しており、2030年までに面積が400m2以上の小売店における量り売りの割合を少なくても20%にすることが求められています。販売面積、品目数、売り上げのどれを指標にしてもよく、面白いのは「対象外の小売店も、3年間の実験を行って包装を用いない方法を検討する」という点です。目標を打ち出した上で社会実験を行い、難しい課題があるのはわかった上で挑戦し、社会実験をベースに最終的なやり方を決める。そこがフランスの取り組みのすごさだと思います。

求められる協働実施型の取り組み

個人や個社ではない協働実施型の取り組みが始まっています。最初から「みんなでやろう」という宣言をして、やり方を議論する。そして、「これは良さそうだ」というアイデアを、少数精鋭で具体的に考えた後に、みんなで試行・実施してみる。このような、創発、試行、実施という三段階でいろいろな取り組みが行われています。

私が参加した研究プロジェクトでは、これをEnvisioning-based Policy Makingと呼んで、「Envisioning(創発する)」という点を強調し、エビデンスに基づく政策形成をすべきだと主張しています。「目標を立てる」「試行錯誤」というチャレンジを政策決定者だけが考えるのではなく、社会全体で学習(ソーシャル・ラーニング)していくことが大切です。そのためには失敗を許せる空気の醸成も大切で、一緒に悩みながら取り組んで行くことが大切です。

プラスチック問題の解決に必要なのは、素材代替やリサイクルよりもリデュース・リユースを通した「脱使い捨て」が重要で、個人でやれることから始めることです。そして効果を見極め、いきなりプロを目指すのではなく、ステップアップしていくこと。個人、個社では限界があるので、最後は協働連携してインフラやルールなどを変えていくチャレンジをする。この三つがポイントだと思います。

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