特集 シンポジウム報告/Refill Japanシンポジウム もっとリフィルを!さらなる脱使い捨て社会へ!〈パネルディスカッション〉リフィル活動を全国に広げるために

2022年05月17日グローバルネット2022年5月号

(モデレーター)
(公財)地球環境戦略研究機関 上席研究員 藤野 純一さん

(パネリスト)
株式会社カマン代表取締役 善積 真吾さん
環境省リサイクル推進室長 平尾 禎秀さん
大津市企業局経営戦略室 仁志出 彰子さん
国立環境研究所 田崎 智宏 さん
水Do!ネットワーク事務局長 瀬口 亮子さん

 全国に給水(リフィル)スポットを増やし、環境負荷の低減と魅力的なまちづくりを推進するプラットフォーム「Refill Japan」が2019 年5 月に発足してから3年。今では「給水スポット」という言葉が多くの企業や自治体でも使われるようになり、これを生かしたまちづくりを実践する地域も増えてきています。
 本特集では、Refill Japan が今年3 月18 日に開催したシンポジウム「もっとリフィルを! さらなる脱使い捨て社会へ!」での、基調講演・報告そしてパネルディスカッションの概要を紹介します。

 

藤野:パネルディスカッションでは、さらにビジネスや政府の取り組みを聞き、リフィルの取り組みをもっと広めるための攻め口を探っていきたいと思います。

リユース容器 シェアリングビジネス

善積:神奈川県鎌倉市内でリユース容器のシェアリングサービスMegloo(メグル―)を実施しています。私は1年前までSONYでモノづくり×サービスづくりの新規事業開発を行っていました。5歳の息子が散歩中にごみを拾ってくれるのですが、偉いなと思う反面、ごみだらけの社会を彼らに残してしまうのは申し訳ないと、ごみ問題に関心を持ちました。

弁当容器は容積比で家庭ごみの15%も占めています。私自身、コロナ禍でテイクアウトを楽しむようになり、食後のごみを解決できないかと思うようになりました。アンケート調査を行うと80%以上の人がテイクアウト後のごみに罪悪感を持つと答えています。

おいしく食べてもごみが出ない、容器のシェアリングサービスの実証実験を昨年10月から鎌倉市で始めました。容器の貸し借りは、LINEのアプリからQRコードを読み取り、利用登録し、オフィスや家に持ち帰って食べた後は、参加店舗や返却ボックス設置場所に返していただきます。容器は私たちのスタッフが回収して飲食店に再配分し、飲食店では食器洗浄機でしっかり洗ったものを次のお客さんに利用してもらい、循環させるシステムです。

もともと環境意識の高く、紙素材の容器を使っている店がありますが、水気の少ない料理が中心になり、50~80円の容器代がかかっています。それに対しMeglooの容器は保温性が良く、密閉性も高いのでこぼれにくい。見栄えも良いので食べたときにおいしく感じるという声もあります。

飲食店から50円頂くビジネスモデルで、プラスチック製の安い使い捨て容器は20円くらいなので割高になりますが、紙製のしっかりした使い捨て容器よりは安くなるメリットもあります。

Megloo利用者に対し、マイボトル割に近い50円割り引きや、大盛無料や一品サービスをしてくれる店もあります。今後は容器にロゴを付けてスポンサー料を得るなど経済的メリットも生み出そうとしています。ドイツでは、来年から小売店はリユース容器の選択肢を与えなければいけないという法律ができ、リユース容器のシェアリングビジネスが進んでいます。

持ち運べて、洗いやすくこぼれない容器が理想です。今は既製品を使っていますが、課題も見えてきたので新しく容器を開発するクラウドファンディングも行います。使い捨ては良くないですが、プラスチックの素材自体は悪くないので、実証実験ではプラスチックを使っています。

Meglooの参加店舗は15店舗に増え、利用者も順調に伸びています。今は実証実験の段階ですが、今後有償化、地域展開、オリジナル容器の開発を行い、鎌倉でロールモデルを作り上げてそれを全国に展開し、「おいしい」で地球をより良くしたいと思っています。

プラ問題に対する国内外の施策

平尾:リサイクル推進室長と循環室長の両方を兼任しており、プラスチック等の資源循環の促進等に関する法律(プラ法)の成立に関わってきました。2000年の循環型社会形成推進基本法から、リデュース、リユース、リサイクルに取り組みましたが、海洋プラごみ、気候変動、中国のプラごみ輸入禁止や昨年のバーゼル条約の改正でプラごみの輸出には輸入国の事前同意が必要になることなど、さまざまな事象に対し国内でしっかり資源循環する、3Rをしっかり進めていくことを柱にした法律になりました。ライフサイクル全体で取り組むことがポイントで、3Rに加え、再生素材やバイオマスプラスチックなどRenewableも含めたことが法律の趣旨です。

設計段階で指針を作り、認定して、グリーン購入法で配慮していく取り組みに加え、プラ法ではカトラリー類とホテルのアメニティ、クリーニング屋さんのハンガーと衣類のカバーなどについても取り組みが必要になります。

容器包装リサイクル法では容器包装の回収を市町村が担っていますが、容器包装以外の製品プラスチックは対象外だったので、同じプラスチックなのにリサイクルに回せないというところを改善しました。自分で返す、店頭で自主回収するのが当たり前の世の中にしたいという思いから、自主回収の認定制度を作りました。また、「プラスチックはえらんで、減らして、リサイクル」という特設WEBサイト〈https://plastic-circulation.env.go.jp/〉を作成し、消費者に環境に良いものを使い、使い捨てのリデュースや、リサイクルに協力してほしいことを紹介しています。

私は2月末からケニアのナイロビで開催された国連環境総会(UNEA)に出席しました。国連環境計画(UNEP)の意思決定機関ですが、「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて」という決議などが採択されました。プラスチック汚染は世界的な問題だから皆で取り組もうと、2024年までに条約を作ることになりました。世界に向けたロールモデルを国内でも作っていきたいと考えています。

ステークホルダーの連携

藤野:リフィルの視点から、新法(プラ法)をどう捉えて活用したら良いでしょうか。

田崎:プラ法は関係者が連携して取り組むことに重点が置かれています。リサイクルの仕組みをつくる点でも、小売業者、自治体、排出業者のいずれもが連携を強く意識しているので、SDGsの達成に向けて、連携しながらプラ法を使っていくことが大切です。

瀬口:ホテルの使い捨て歯ブラシなどの無償提供を規制できないかと韓国の取り組みを参考に環境省に提案したこともあり、今回のプラ法にこれに近い内容が盛り込まれたことは歓迎しています。一方で、ペットボトルをどれだけ減らすかという削減目標が掲げられたわけではありませんが、飲料メーカー側も容器なしで売ろうという動きもあり、その後押しになれば良いと思います。リフィルの活動も新しい展開につながるのではないかと期待しています。

平尾:どの取り組みも一社だけ、一業界だけでは難しく、この法律はバリューチェーンを変えるためのツールです。その中で消費者がどのように協力していくのか、リフィルの活動が協力の素地を高めていくと考えています。

UNEAではプラスチック問題に、さらにはライフサイクル全体でマルチステークホルダーが取り組むという合意ができ、国際社会が協力することの重要性も認識されたと思います。

藤野:2024年度までに国際拘束力のある条約を作るとのことで、リフィルの役割も大きいと思いますが、目下の課題は何ですか。

瀬口:例えばレジ袋を紙袋に切り替えると、紙袋の方が重くてCO2の排出が増える例もあります。脱プラとして、紙への切り替えが急に進んでいますが、環境負荷が高まるという情報発信をしたり、無包装にこだわりすぎると、食品ロスが出てしまう、マイレージのことを考えないで、海外製の液体洗剤の詰め替え利用がエコなのか、など考えなければなりません。

藤野:環境負荷について科学的観点から、田崎さん、アドバイスをお願いできませんか。

田崎:基本的に個々のケースで判断しなければいけませんが、何回使ってリフィルするならこっちが良いとか、境界条件をきちんと発信することが今後は大切になります。

善積:CO2とエネルギーに関して、6回以上リユースすれば使い捨てより環境負荷は低くなるというデータがありますが、Meglooの実証実験では100回以上使えるものを使用しています。

仁志出:水道水は最大の量り売りと思っていて、容器も必要ありません。当たり前に蛇口から水が出ることの大切さをこれまで皆さんに伝えられなかったのは私たちの責任だと思っています。

リユースによるコストと負担

瀬口:名古屋市がレジ袋有料化還元基金で給水機設置のための助成をしていて、自治体が給水機を作るときにどうやってお金を捻出するのか、発生抑制の事業が発生抑制の事業につながる良い例だと思います。レジ袋の場合、消費者が負担するようになったら一気に削減効果が上がったので、誰がコストを負担すべきか、制度設計が大事だと思います。

善積:まず意識が高く、使い捨て容器にコストをかけていた飲食店から置き替え、それが文化として広がっていくと、量が増えるので単価が安くなり、だんだん普及していくと思います。

田崎:リユース容器が良すぎると返さない人が出てきてしまうので、返すメリットも必要です。そもそも使い捨てするところが一番損をする社会になっていないといけない。そこがなかなかできないので皆さん苦労しているのだと思います。今後、世界の動きに合わせてどうしていくのか、日本でも議論しないといけません。

藤野:この点について、自治体サイドの問題意識や取り組みの可能性について、一言お願いします。

仁志出:給水機を設置するには費用がかかりますが、水道事業者側には環境省などの補助金や助成金の情報が入ってこないので、部局間の連携や民間企業が独自に実施してくれる仕掛けづくりができると給水機を増やせると思います。

平尾:いろいろなアプローチがありますが、今回はグリーン購入法を配慮し、需要側で引っ張るという施策を取りました。人の行動はなぜ変わるのかを考慮することは政策を考える上で非常に重要です。

善積:飲食店側は容器にコストをかけて環境対策しているようなところ。利用者側は大企業や組織の中の人がアーリー・アダプターででしょうか。企業や鎌倉市役所の人たちはコロナ禍で外食できない分、Meglooを利用して使い捨てプラスチックごみを減らしています。

藤野:行政にプレッシャーがかかると使う市場が広がり、大企業にも広がっていくと脱プラの動きが進んでビジネス市場になるような北風と太陽政策。やりたい人のサービスメニューを広げるための後押しもないと市場は広がりません。

仁志出:意識改革が必要だと思います。環境意識のあまり高くない人たちを対象にした仕掛けをこれから考えていきたいと思います。

さらにリフィルを広げるために

瀬口:まずは制度として、使い捨てにチャージする仕組みが望ましい、そして連携が鍵だと思います。東京の場合、日本で最も給水機の設置数が多く、都営地下鉄ではすべての駅に設置されています。ただ、行政が粛々と進めているがために、その有難みを都民はあまりわかっておらず、もったいないです。ロンドン市はNGOと協同で「ここに給水機を設置しましょう」と公募するキャンペーンを展開しています。行政とNGOの連携がうまく機能して大きな成果が出ました。日本でもそんな展開をしていきたいです。

田崎:リフィルを広げるには、一定の規模が必要です。利便性につながり、今まで興味のなかった人の利用にもつながります。リフィルの拠点や選択肢を増やすことが大切です。

善積さんのような新しいチャレンジャーが出てきて、ニッチのところでしっかり取り組む中で、主流層や企業が連携して、今の費用負担はおかしいと変化がないと社会転換は起こらない。企業を単純に敵対視するのではなく仲間にすることも大切です。今後国連の動きが活発になり、国以外のアクターの活動が重要になるといわれています。Refill Japanの活動はイギリスとも連携しているので、国際的なアピールも重要だと思います。

仁志出:一人ひとりの行動変容が大切だと思います。私たちは琵琶湖の水を飲み水にしているので、市だけでなく滋賀県とも連携して取り組んでいきたいと思います。

平尾:UNEAの会議では給水機の横に使い捨ての紙コップはなく、マイカップで対応していました。ほんのちょっとしたことですが、輪が広がると一気に普及することがあるのではないでしょうか。

善積:リフィルの活動を広げていくために自分に言い聞かせていることが三つあります。一つ目は2回目の回収はコストと手間的に合わないという課題を令和の時代ならではのテクノロジーを駆使して利便性を高めていくこと。二つ目は、利用者も飲食店側にもメリットがある、持続可能なビジネスモデルをつくること。最後は楽しさをつくること。それができれば、おいしくて気持ち良いというポジティブな気持ちで環境問題に取り組めるようになると思います。

藤野:リフィルが楽しく、おしゃれで、わかりやすく、いろんな人に広がっていくヒントをたくさんいただきました。これからさらに、Meglooのような活動が日本で広がることを願っています。

(2022年3月18日、会場+オンラインにて)

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