続・世界のこんなところで頑張ってる!~公益信託地球環境日本基金が応援する環境団体第4回 ニカラグア・ワスパン郡の共同体における住民主体の水源地保全活動体制の構築

2022年06月15日グローバルネット2022年6月号

特定非営利活動法人おおた市民活動推進機構
中野 真弓(なかの まゆみ)

 

この事業は、中央アメリカ中部に位置するニカラグア共和国の北部、ホンジュラスとの国境に隣接する、北部カリブ海自治地域のワスパン市の森林消失を食い止め、同時に水源地保全を図ることが目的です。現地の女性団体ワンキタグニと連携し、水源地の調査を行い、水源地保全に向けた7,000株の植林を行います。また、住民を対象に、水源地保全の重要性を啓発するイベントを開催し、地域住民の環境保全への意識向上を促し、地域の人びと自身で環境保全の活動を持続的に実施していく下地を作る活動です。

●地域の女性団体ワンキタグニとの連携

ニカラグア共和国は、中米の肺と呼ばれるほど濃密な森林が広がっていたのですが、薪炭材の生産、焼き畑による無秩序な開拓、大型台風の影響などで、毎年500km2の森林が消失しているのが状況です。

私たちは、ニカラグアの中でも特に先住民族の人びとが15のテリトリーを作り自治区として地域を構成しているワスパン市で活動を行いました。

ワスパン市は先住民族の多く住む地域で、ミスキート語などが現地の言葉です。公用語はスペイン語ですが、現地語の方が日常的に使われているようです。

事業の連携団体は、女性の地位向上のためにさまざまな活動を行っているNGO、ワンキタグニで、団体代表のローズ・クニンハムさんは昨年からワスパン市の市長を務められています。

●環境保全の実践と意識啓発を目標に

この事業は、目標を大きく二つ掲げました。

一つ目の目標は、「河川が枯渇している地域の流域に、7,000株を植林する」です。台風の影響により川の流れが大きく変わり、たくさんの木が流され地盤が弱くなっている箇所や、川の流れがなくなったことで乾燥地帯になってしまっている場所など、ワンキタグニのメンバーが数年間かけて地域調査をした結果を基に、植林場所を確定し地域住民の手で植林を行うこととしました。

事業目標の二つ目は、「地域住民の植林への意識向上を促す」です。地域の課題を地域住民自身が良い方向へ変えていく、自治していく、そういう力を強めて自身の住む地域をより良く改善していける力をつける。そのための学習や情報収集などを行いました。

●植林活動

1年目は苗を育てる、育苗です。黒いビニール袋状のものに種をまいて育てます。カシューや、カカオなど実を収穫する木と、マホガニーのような木材として利用する木など、何種類かを合わせて育てました。

カシューやカカオなど実を収穫する木と、マホガニーのような木材として利用する木などの種をまく

2年目になると育苗も、いろいろな対策を立てられるようになってきました。育苗に使う種を地域から提供してもらうこともできて、育苗数は飛躍的に伸び、2年目ですでに計画の3倍以上の育苗数1万を超える苗を育てることができました。これは高温多湿、強い日差しなど育苗を妨げる要因への対策(遮光布の活用、高床式の育苗棚の活用など)が、さまざまなテクニックを駆使し行われた成果です。

遮光幕を張った育苗場

ワンキタグニの代表ローズさんがワスパン市長になられたことで、ワスパン市全体での協力が多く得られることとなりました。地元の高校生も協力しての植林活動では、5種類の木の苗を1,500株以上植えることができました。学生や、市職員も大変協力的で、70人以上の人たちが植林活動に協力してくれました。

高校生による植林活動

ワスパン市の皆さんの間ではこの頃から「ショクリン」という言葉がはやり言葉のようになったという話も聞かせていただき、大変うれしく感じたものです。

●意識啓発活動

1年目は、ワンキタグニのメンバーとリオ川流域の住民の方々へ聞き取り調査を行いました。調査からはハリケーンの影響や、生活水として活用している水の水質汚染や水の減少などの問題などが浮かび上がってきました。また、ニカラグア内で育苗・植林に実践例を持つ地域に視察旅行に出掛け、具体的なアドバイスもたくさん聞くことができ、たくさんの収穫をもらって帰ることができました。

植林地域の重要なポイントであるリオ川の下流域の状況の視察も行いました。地域住民の意識向上への働き掛けとして、自分たちの活動を多くの人に発信する力をつけてもらう研修と発表の場を設けました。写真の撮り方のワークショップや、パソコンで写真や音声を使って「私の物語」を作るデジタルストーリーテリングという手法を学ぶ研修会などを実施しました。参加した人たちの作品発表会も行いました。皆さん自分の住む場所の大切さを自覚し、守っていこうという強い気持ちの表れた作品を作ってくれました。

ワークショップ修了証を持って記念撮影

●コロナ禍を超えて

この活動は3年間を一くくりとして計画を進めてきました。残念ながら2年目の後半から新型コロナウイルス感染症拡大が世界中を席巻し、海外へ行くこともままならなくなりました。ワスパンは郵便も届かない、インターネット環境も万全ではない場所で、連絡を取り合うことも難しい中での活動となりましたが、ワンキタグニを中核に、ワスパン市の皆さんがこれまでの経験を生かしてワスパンに森を復活させる活動を進めてくださっています。

これからも持続的・継続的に、森を守り育てることを地域の住民が中核となって進められるよう応援していきたいと思います。

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