INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第72回 上海市ロックダウンで大気環境改善か? 2021中国生態環境状況公報発表される

2022年06月15日グローバルネット2022年6月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

 

上海市ロックダウンで大気環境改善か?

まず最近の話題として、中国の徹底した「ゼロコロナ」対策を象徴する事例といえる上海市全域のいわゆる都市封鎖(ロックダウン)が、コベネフィット効果としてもたらした大気環境の改善について簡単に紹介しておきたい。上海市では新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナ」)患者隔離施設の管理が不十分で、市内にコロナが拡散したともいわれているが、上海市政府はコロナの拡散防止を広域的に管理するため、3月28日から市内を東西2つの区域に分け、それぞれ4日間封鎖することとした。しかし、その後解除することなくそのまま封鎖を延長して、この原稿を執筆している5月末時点でも、地区ごとにさまざまな形で封鎖管理を継続している。6月には解除するという発表もあるが、本原稿執筆時点では不透明である。

筆者は、ロックダウンを開始した3月28日からの2ヵ月(60日)間、上海市生態環境局が毎日公表している大気環境モニタリングデータを用いて、上海市全域のロックダウンによる大気環境改善の程度を推計してみた。具体的には、ロックダウンが始まった3月28日から5月26日までの60日間について、全市19ヵ所の大気環境モニタリングステーションで計測している主要な大気汚染物質5項目(微小粒子状物質(PM2.5)、粒子状物質(PM10)、オゾン(O3)、二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2))のモニタリングデータを前年同時期のデータと比較することにより推計した。結果はおよび図1のとおりである。

工場の煙突や自動車の排気口から直接排出される汚染物質であるPM2.5、PM10およびNO2の2022年ロックダウン中の濃度平均値は、それぞれ前年同時期と比較して30%、37%および50%と大幅に低下していた。この比較結果をざっくりと評価すると、ロックダウンによる社会経済活動の縮小により工場の稼働(=汚染物質の排出)や物流(=自動車交通量)等が縮小し、これらと深い相関関係のある3つの汚染物質濃度が大幅に低下したといえるのではないか。

一方、大気中の光化学反応により生成するO3は逆に17%上昇していた。O3のコントロールの難しさが表れている典型的な例といえる。NO2濃度が下がりすぎるとO3濃度が上昇してしまう場合があることはよく知られている。PM2.5、O3、NO2および揮発性有機化合物(VOC)をどのようにしてバランスよくコントロール・削減していくかは各国共通の課題になっている。中国でも昨年11月に発表された「中国共産党中央委員会・国務院の汚染防止攻略戦を徹底的に戦うことに関する意見」の(十二)オゾン汚染防止攻略戦に尽力する、の中で「2025年までに、揮発性有機化合物と窒素酸化物の排出総量を2020年比でそれぞれ10%以上低下させ、オゾン濃度の上昇傾向に歯止めをかけ、微小粒子状物質とオゾンの協同制御(コーコントロール)を実現する。」としている。中国ではPM2.5濃度の改善にはおおむね成功したといえるが、O3濃度との同時改善はこれからの重要課題であることをあらためて示している。

なお、SO2については、割合の数字だけで見れば25%と大きく上昇しているが、図1を見て明らかなように、環境濃度はすでに環境基準の十分の一程度の濃度まで下がっており、ベースラインレベルでの小さな変動範囲内といえるだろう。石炭火力発電所などでのSO2超低濃度排出規制は継続しているが、2006年の第11次5ヵ年計画から継続して実施してきたSO2排出総量削減規制は2020年末で終了し、第14次5ヵ年計画では外された。

2021 中国生態環境状況公報発表される

日本でもそうだが、中国でも毎年6月5日の「環境の日」近くになると、中国の環境白書である中国生態環境状況公報が発表される。今年も5月27日に生態環境部のウェブサイトで公表された。誌面の関係もあり簡単にポイントを紹介しておきたい。

【大気環境】大気環境の具体的状況については、2021年の全国の339都市1,734ヵ所の国家モニタリングポイントでのモニタリング結果を総括している。主要汚染物質6項目(PM2.5、PM10、SO2、NO2、O3、CO2)の環境基準をすべて達成した都市の割合は64.3%(218都市)で、前年よりも3.5ポイント上昇した(注:砂塵による影響を除いた割合)。優良天気の日数(注:日平均値の環境基準達成日数)の割合は87.5%で前年よりも0.5ポイント上昇した。6項目の汚染物質濃度について前年と比較してみると、図2のとおりである。主要汚染物質6項目すべてが前年よりも改善されていた。

【水環境】水環境の具体的状況については、国が「第14次5ヵ年国家地表水環境質モニタリングネットワーク設置計画」で定めた全国の3,632ヵ所のモニタリング地点で測定した地表水の優良水質(注:飲用水源一級または二級相当の水質)の割合は84.9%で前年よりも1.5ポイント上昇した。劣Ⅴ類の水質(注:最も悪いランクの水質)の割合は1.2%であった。

河川では長江、黄河、珠江、松花江、わい河、海河、遼河の7大流域およびその他の主要河川3,117ヵ所でモニタリングを行い、優良水質の割合は87.0%で前年よりも2.1ポイント上昇した。劣Ⅴ類の水質の割合は0.9%で前年よりも0.8ポイント下降した。長江主流では前年に全水域が歴史上初めて「優」の水質(注:飲用水源一級相当の水質)であったが、2021年も引き続き同様の水質であった。

湖沼(ダム湖)では、210の重要湖沼(ダム湖)でモニタリングを行い、優良水質の割合は72.9%で前年よりも0.9ポイント下降した。劣Ⅴ類の水質の割合は5.2%で前年と同じであった。

【土壌環境】土壌環境については、第14次5ヵ年土壌環境モニタリング全体計画では、国家土壌環境モニタリングネットワークについて、5年間を1ラウンドとしてモニタリング業務を完成させることとしている。2021年は珠江流域および太湖流域の2,118ヵ所の国家土壌環境基礎点でモニタリングを行ったところ、両流域の土壌環境質は全体として落ち着いていた。

 

公報ではその他に2021年に実施した施策の概要を簡潔に記した総説、海洋環境、自然生態、騒音、放射線、気候変化と自然災害、インフラ施設とエネルギー等の状況について記載されている。

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