ホットレポート「森は誰のもの?~森林コモンズを考える~」 森林と市民を結ぶ全国の集い2022 報告

2022年07月15日グローバルネット2022年7月号

グローバルネット編集部

森づくりに関わる市民が、情報交換やネットワーク化を図ることを目的に日本全国から集まるイベント「森林と市民を結ぶ全国の集い」が5・6月にオンラインで開催された(主催:国土緑化推進機構、『森林と市民を結ぶ全国の集い』実行委員会)。26回目の開催となる2022年は「森は誰のもの??森林コモンズを考える?」をテーマに、これからの社会における新しいコモンズとしての森林を再認識し、市民が積極的に森林と関わるような行動変容を促すために、何が必要でどんなアクションを起こすべきかについて2つの基調講演、4つの分科会で議論が展開された

※ 基調講演の動画(ショート版)はhttps://moridukuri.jp/moridukuri/tsudoi.html で視聴可能。

実行委員長を務める哲学者・内山節さんは、基調講演「これからのコモンズと森林」で、森が日本の山村の暮らしの中でどのように共有されてきたのかを振り返り、「都会人がかけがえのない森を持つことができるのか」、そして森とともにある暮らしから離れてしまった現代の日本で、市民が森とどう関わっていけばよいのか考えてみようと問い掛けた。

●パートナーシップで森を未来に残す

分科会1「森林コモンズとビジネス」では、冒頭にコーディネーターの水谷伸吉さん(more trees事務局長)が、脱炭素経営にかじを切る企業が増える世界的な潮流を受け、国内でも森づくりや木材利用、カーボンオフセットなどが脱炭素経営の一つの手段として注目を浴びている現状を紹介した。ミッションを気候変動と地域課題をビジネスで解決すると掲げ、大手企業のデジタル・マーケティング支援を行う(株)メンバーズ執行役員の原裕さんは、「社会課題をビジネスで解決しないと、地球も企業も我々も子孫も持続しない」と危機感を訴え、「顧客と企業が共創し、良いお金の循環を促す。それによって社会課題を解決し、同時に持続可能な利益を生み出す」とビジネスの力で日本の森の課題を解決する可能性があることを語った。

鳥取県智頭町へUターンし、まちづくりから林業まで幅広い分野で活動する國岡将平さん(合同会社MANABIYA代表)は、「智頭の山と暮らしの未来ビジョン」(2020年3月作成)を紹介。町の93%を占める山林と住民がどう向き合い、地域の持続可能性を維持していくのか、その課題と解決に向けた取り組みについて触れた。そして「林業の課題は林業では解決できない」と地域の林業が暮らしと結び付いた中で維持していくことの難しさを語った。

山村地域の多様な価値を持つ森をコモンズとして未来に残していくために、都会の企業と山村地域の関係者など、業種や地域を超えたパートナーシップが求められていることが改めて浮き彫りとなった分科会であった。

●森林コモンズと災害・復興

分科会3では、「森林コモンズと災害・復興」〈九州北部豪雨による森林被害と復興〉をテーマに、森づくりのコミュニティや森の資源を生かした復旧・復興に携わった関係者が登壇した。

認定NPO法人山村塾は、福岡県八女市黒木町笠原地区を拠点に、都市と山村の住民が一緒に棚田や森林を保全する活動を展開している。黒木町は2012年7月の豪雨災害で県内で最も大きな被害を受けたが、それまで森林や棚田保全のボランティアとして多くの市民や団体と連携してきた山村塾は、そのつながりを生かして「笠原復興プロジェクト」を開始。集まったボランティアは、避難所の運営支援や被災住居の片付け、用水路の土砂をかき出す作業などを行った(写真)。

被災住居を片付ける「笠原復興プロジェクト」のボランティアたち(写真提供=山村塾)

理事長の小森耕太さんは「森林ボランティアの中にはヘルメットや移動のための車両を持っていて、集落の林道や細かい道を把握している人が多い。一方、棚田保全ボランティアには、くわやスコップなどの道具の扱いに慣れた会員がたくさんいるなど、災害ボランティアと棚田保全・森林のボランティアには、親和性があり、共通する部分が多い。また、日頃のボランティア活動で培った運営の仕組みや組織形態を活用して、比較的スムーズに活動できた」と語った。この経験を、2016年の熊本地震や翌年の九州北部豪雨災害時も生かし、中山間地域の被災地で、ボランティアの募集をはじめとした復興支援の立ち上げを手伝ったという。

次に、彫刻家の知足美加子さん(九州大学芸術工学研究院教授)は、自身が取り組んだ災害被災地での制作活動について語った。知足さんは、2017年の豪雨災害時、朝倉市で大量に発生した流木を使って、水の守り神とされている龍を彫刻したり、廃校になった小学校を利用した美術館の前に、豪雨災害で発生した岩を使用したアートガーデンを造り、そこに住民参加型で木を植えたり、被災木を使った東屋を制作したりした。

以上の経験を踏まえて、知足さんは「復興は、出会わないはずのものを出会わせ、協働体をつくる。それを持続するには、一人ひとりが『創造の主体』として関わるための仕組みと『楽しいからする』という能動性が必要」と、森を生かしたアートによる持続的な災害復興や地域づくりの可能性について語った。

●横のつながりで農山村を支える

分科会3の後半のディスカッションでは、災害が多発する現代に、地域のレジリエンスを高める方法について意見が交わされた。

「日本はたくさん災害が起きてきた。それを乗り越える過程で、いざ何かあったときの初動対応をしやすくするためのコミュニティを作ってきた。それが文化の中にも、『縦のつながり』として含まれていると思う。例えば、地域の祭りなどにもそういう機能があったのではないか。その役割を森が担うのは良いことだと思う」と語った知足さん。一方で、小森さんは「山村の過疎化・高齢化は着実に進んでおり、昔だったら、集落の中に知恵や特技を持った人がいて、その人たちが祭りをやったりしていたが、今は難しい。そこで今後は森林ボランティアや棚田保全ボランティアなどの『横のつながり』が重要になっていくと思う。熊本地震や朝倉市の水害の時も、被災した地域に、つながりのあったボランティアの方がいたので、お手伝いに行くことができた」と横のつながりの重要性も強調した。

コーディネーターの朝廣和夫さん(九州大学芸術工学研究院准教授)は、「農山村コミュニティだけでなく、新たなコミュニティが手を組んで農山村を支えることで、災害の時に力を合わせて、早い復興を支えていくことができる」とした上で、「(知足さんのような)アートを媒介にしたコミュニティ形成も大事だと思う。アートによって、森に興味が無い人も森とのつながりに巻き込むことができる」とまとめた。

●森に対する「申し訳なさ」の共有

クロージングセッションで、内山さんは、各分科会で紹介された企業や市民による森づくりの事例を踏まえて、次のように締めくくった。

「伝統的に日本には、社会というのは生きている人間だけでなく、自然と生者と死者のものであり、その社会を支えているのは神仏だという考え方がある。そして、森という共有の世界は、実は神仏の世界になる」「日本の森を守るためには、契約を超えた神仏的世界観、すなわち、森は私たちにとって有難いもの、守らないといけないものという世界観が復活しないといけない。それは、森に対する『申し訳なさ』ではないかと思う。森は完全な個人の私有財産ではなく、共有財産でもあり、それは神仏との共有でもある。私たちの戦後史は、その森を荒らしてきてしまった。そのことに対する『申し訳ない』という気持ちが、これからは共有されていくと思います」

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