NSCニュース No. 138(2022年8月)定例勉強会 報告「ESG情報開示の新たな基準を作るISSB」

2022年08月15日グローバルネット2022年8月号

NSC共同代表幹事
横浜国立大学名誉教授
八木 裕之(やぎ ひろゆき)

 ESG情報やサステナビリティ情報の制度開示に向けて、さまざまな開示基準の提案が行われ、各国で開示制度の導入が本格化してきた。国際会計基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)の策定を担うIFRS財団は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB:International Sustainability Standards Board)を立ち上げ、ISSBはサステナビリティ関連財務情報の開示に関連する公開草案を公表した。

 今回は、サステナビリティ情報開示フレームワークの共通化において中心的存在となっているTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)とISSBの動向を中心に勉強会を開催した。

TCFDの気候関連指標と目標及び移行計画のガイダンス(MTT)について

 後藤敏彦NSC共同代表幹事からは、TCFDに関する最新動向について講演があった。まず、企業の環境・CSR問題への取り組みの歴史的経緯とTCFD提言の概要が示され、TCFD提言に関する日本企業の取り組み状況が示された。

 次に、1990年代から広まってきた企業のサステナビリティ情報開示の取り組みが、ガイドラインの国際的な統一と制度開示への導入へと進展していく中で、TCFD提言は、その中心的概念となっていることが明らかにされた。

 最後に、コーポレートガバナンス・コードの改訂、SSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)設立などによって、日本でもTCFD提言の開示制度への導入が進んでおり、こうした状況を踏まえて、TCFDが昨年公表した、指標と目標及び移行計画のガイダンスと改訂付属書の概要が明らかにされた。

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB審議会)の設立と今後の展望

 KPMGあずさサステナビリティ株式会社パートナー齋尾浩一朗氏から、サステナビリティ情報開示基準に関する国内外の動向について講演があった。

国際的動向

 サステナビリティ情報開示もしくは非財務情報開示について国際的に大きな影響を及ぼす動向として、米国SEC(Securities and Exchange Commission)、EU、ISSBの取り組みが示された。

 米国SECは、新たな気候変動関連情報開示制度の構築を目指して、今年の3月に気候関連開示に関する公開草案を公表しており、同公開草案の、TCFD提言とGHGプロトコルを基盤とするフレームワーク、企業への導入方法、今後のタイムラインなどが示された。

 EUでは、サステナビリティに関する一連の規制が進められており、2021年に公表された、企業を対象とするCSRD(Corporate Sustainability-information Reporting Directives)案の概要、開示項目、日本企業への影響などが明らかにされた。

 ISSBからは、IFRSサステナビリティ開示基準案が公表されており、同基準案について、報告対象範囲の決定、Significantなサステナビリティに関するリスクと機会の識別、マテリアルなサステナブルに関する財務情報(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)、報告方法、さらには、気候関連開示に関する、業種横断的指標、Scope3、指標と目標などについて説明があり、既述のSEC提案との相違点が示された。

国内の動向と今後の展望

 国内における、コーポレートガバナンス・コードの改訂、金融審議会によるサステナビリティに係る情報開示の検討、同ディスクロージャーワーキンググループによるサステナビリティ項目新設の提案などの動向が明らかにされ、今後は、国際的動向を踏まえながら、日本国内でもサステナビリティ情報開示の制度化と企業への普及が進められていくことが示唆された。

 会場からは、TCFD関連情報開示のグッドプラクティス、TCFD提言やISSBサステナビリティ情報開示草案で重視すべき内容、ISSBサステナビリティ情報開示基準の策定・運用によるサステナビリティ情報の比較可能性の向上などについて質疑応答が行われた。

 ISSBサステナビリティ情報開示基準やTCFD提言に関する産業界の関心は高く、多くの方にご参加いただいた。NSCでは、継続的に勉強会を開催していく予定である。

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