特集/ストックホルム会議から50年~日本社会へ、若者からの提言 Stockholm+50を終えて~これからの若者参画への道

2022年10月17日グローバルネット2022年10月号

ストックホルム環境研究所(Stockholm Environment Institute)アジア地域支部
プログラム・コーディネーター
山田 晃平(やまだ こうへい)

1972年の国連人間環境会議から50年の節目である今年、「全ての人の繁栄のための健全な地球、私たちの責任と機会」をテーマにStockholm+50会議は開催された。

個人的には、ストックホルム環境研究所(SEI)のユースレポートの執筆を通じて会議の一連のプロセスに関わった。SEIとしてはこのユースレポートに加えて、サイエンスレポートの作成も手掛けた。いずれのレポートもSEIとインドの国際環境シンクタンクであるCouncil on Energy、Environment and Water(CEEW)との共同で作成され、議論をサポートする目的で本会議に先立って出版された。本稿では、SEIが出版したこれらの2つのレポートに焦点を当て、核となるメッセージを今一度まとめStockholm+50後の世界がどうあるべきかについて考えていく。特に、本会議のエンゲージメント・プリンシプルの一つでもある世代間の責任の観点から、若者の果たす役割について着目していく。

浮き彫りになるアクションギャップ

サイエンスレポート(Stockholm+50:Unlocking a Better Future)は、現代の科学データや情報分析に基づき、1972年から50年間の人間社会と地球環境の歩みを振り返る機会を提供する目的で作られた。また既存のシステムや傾向の矛盾や問題を指摘した上で、特に各国の政策決定者に向けた政策提言や、本会議の中心テーマである全ての人の繁栄を実現するには不可欠な行動を盛り込んでいる。その中でも特筆すべきは、過去50年の振り返りとともに、世界的な「アクションギャップ」を指摘している点である。1972年から2022年現在に至るまで国際社会で合意された数百にも上る環境や持続可能な開発に関わるターゲットのうち、既に達成、または有意義な進展を見せているのは、全体のわずか10分の1にとどまっている。国際的に合意したはずの「意図」と実際の「結果」との間に、顕著なギャップが存在している。現代社会では地球環境に関する情報や問題に対する解決策も多く共有されている。この点において、このギャップは十分な政策ターゲットや戦略の不足などの政策レベルでの努力不足から派生したものではなく、既存のターゲット達成に向けた行動の欠如、この一点に尽きると指摘されている。

このギャップを解消していく上で、今こそ重要な転換期だということが本レポートを通して見えてくる。これは変化を作り出すために必要な環境がこれまでより整っているためであり、そのさまざまな要因の一つが若者のリーダーシップの台頭である。この若者の果たす役割や若者参画について、もう一つのレポートであるユースレポートを通して考えていく。

真の若者参画に向けて ~ユースレポートが伝えたかったこと

サイエンスレポートに沿う形で出版されたユースレポートは、若者の視点から見る未来のビジョンを提示し、環境問題に対する彼らの声を代弁するものとなっている。Stockholm+50では世代間の責任や若者のリーダーシップが大きな柱となっており、実際、会議中の数々のセッションにおいても若者の果たす役割が議論され、若者参画の重要性やさらなる促進が取り上げられた。

このユースレポートは、SEIとCEEWに所属する12人の若手研究者により執筆された。本レポートの作成にあたりその根幹を成すのが世界の若者を対象に実施されたグローバルサーベイである。実際の若者の声に耳を傾けることに重きを置き、このサーベイを通して、91ヵ国からの900人以上の若者世代の環境問題に関する率直な意見や認識をデータとして収集、分析した。この若者の視点の分析結果は本レポート全体を通して議論の礎となっており、特に若者が直面する問題の特定や克服に向けた政策の提示などに重要な役割を果たした。

なぜ若者?

では、なぜ今こそ若者に焦点を当てるべきなのか。本レポートの著者をはじめサーベイに参加した若者は、ストックホルム宣言が採択された50年前にはまだ生まれていない。この数十年で地球環境は著しく悪化の道をたどり、その上、この世代や次世代はさらに悪化するであろう気候や環境の影響下でこの先何十年と生きていく当事者である。また、2022年時点で世界人口の約半分は30歳以下の若者で構成されている。このような前提の上、ユースレポートは過去50年間に対するレスポンスとして社会を担う若者の声を届ける目的で作成された。

若者は現在の環境問題をどのように捉えているのか。サーベイによると、若者世代の89%が気候変動の影響を直接経験している。そして、半分以上の若者が気候変動に対して不安に感じ、19%が無力感を抱いているという。また、98%の若者が気候変動の影響を抑えるために、自身の生活を工夫し、順応することに前向きな姿勢を持っている。レポート作成のプロセスに携わる中で、積極的に環境問題に関わる意思を持っている若者が大多数を占めることがわかった。だが現状、若者が直面する課題は多い。若者参画を取り巻く主な課題やそれに対する必要なアクションとは何か。

若者参画の課題と機会

一つは、ガバナンスにおける若者の声をくみ取るメカニズムの必要性である。ユースレポートでは、過半数である57%の若者が環境分野での主な国際政策協議の場において若者の参加が不十分だと考えている。加えて、これに関連して挙げられたのは「建前主義」からの脱却である。近年、国際的な傾向としてユースをステークホルダーとして含める政策フォーラムや国際会議も数多くある。しかし、中にはたとえ若者がそのようなプラットフォームに参加しても、彼らの参加自体で主催者側のインクルージョンの目的が達せられたとみなされる場合もあり、形式的な若者参画も現状として多い。このような環境下では、若者の意見が価値のあるものとして扱われにくく、政策協議・決定の一連のプロセスに若者の視点は加味されづらい。若者参画が標準化していく中で、建前上の若者参画ではなく、若者の視点を構造的にくみ取るシステムが必要ではないか。

そして、教育を通じたエンパワーメントの必要性も高まっている。若者参画の障壁の一つとして指摘されているのが、関連経験と知識が不足している、または他の世代からそう認識されていることである。実際に、サーベイに参加した20%の若者が気候変動に対してアクションを起こす自信がないと回答した。若者の自発的な行動を促す土台作りとして、基礎教育の段階から気候変動や環境問題を教育カリキュラムに組み込み、クライメート・リテラシーや問題解決能力の育成に各国が力を入れることが必要だろう。

Stockholm+50とその後

最後に、本会議では全体を通して若者の視点が着目され、これからの地球について考えていく中で、若者にも焦点を当てた重要なマイルストーンとなったと感じる。特に若者に関しては、若者が抱える二面性にも議論が及んだ。

一つは社会的弱者としての若者。これまでも、若者は社会的・経済的な力が限られる中でさまざまな脆弱性に囲まれていると考えられてきた。そして近年、新型コロナウイルスで若者が教育、雇用、健康の面で特に大きな被害を受けている。これに加えて、若者の持つ社会のリーダーとしての側面も議論の注目を浴びた。世界中で現在の地球環境に危機感を抱いた若者が立ち上がり、変化を作り出している。

このような多様な面を併せ持つからこそ、彼らの視点を政策協議の場に構造的に取り入れることが重要なのではないか。ただ、若者は決して同質な社会グループではなく、多様性が存在する。若者参画を促進する流れの中で、若者の中の違いにも配慮し、本当の意味でのインクルージョンを目指すべきだと考える。

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