INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第75回 「二十大」生態環境保護路線の行き先

2022年12月15日グローバルネット2022年12月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

2022年10月16日から22日まで北京で中国共産党第20回全国代表大会(「二十大」)が開催された。5年に一度開催されるこの大会は、中国で最も重要な会議だ。特に今回の大会は習近平総書記が異例の3期目に選ばれるかどうか、その結果中国がどのような道を歩もうとするのかが大きな焦点で、チャイナウォッチャーのみならず世界の国々が注目していた。結果は承知のとおりで盤石な習近平一強体制が出来上がり、これまでの集団指導体制は実質形骸化することになった。

初日の開幕式では、習近平総書記が政治活動報告を行い、前回の大会(「十九大」)以降の5年間の活動を総括するとともに今後の活動方針などを報告した。5年前の大会では、習近平総書記は約3時間半かけて政治活動報告の全文を読み上げたが、今回は内容を端折って半分の時間、すなわち約1時間45分で報告し、大会終了後の25日に内容が確定した全文が公表された。報告時間を短くしたのは、新型コロナウイルス感染症対策の観点からという説明もある。

今回はこの政治活動報告の中から生態環境保護に関する部分を取り出して紹介するとともに、過去の報告と比較しながら若干の分析を加えることとしたい。

過去5年の活動成果と課題の総括

報告では最初に「過去五年の活動と新時代の十年の偉大な変革」と題して、多くのスペースを割いて過去5年間の活動成果および課題並びに今後の発展の方向性について述べているが、生態環境保護関係の成果に関しては次のように簡潔に総括している。

「われわれは緑の山河は金山・銀山にほかならないという理念を堅持し、山・河・林・田・湖・草原・砂の一体化した保護と系統的な対策を堅持し、全方位・全地域・全過程にわたる生態環境の保護を強化し、生態文明制度体系をさらに整備し、汚染対策堅塁攻略を踏み込んで推進し、グリーン発展、循環型発展、低炭素発展が堅実なスタートを切り、生態環境の保護に歴史的・転換的・全局的な変化が生じ、わが祖国はいっそう青空が広がり、山は緑豊かに、水はきれいになった。」

また、課題に関しては「生態環境保護の任務が依然として困難をきわめている」としているが、5年前の報告「生態環境保護が任重くして道遠しである」と比べると一歩前進した感がある。このことは「グリーン発展、循環型発展、低炭素発展が堅実なスタートを切り」といった表現からも推察することができる。

今後の発展の方向性

次に報告の各論で今後の発展の方向性について詳しく述べている。生態環境保護に関連しては、「十.グリーン発展を推し進め、人と自然の調和的共生を促す」の一項を立て、最初に次のように述べている。

「大自然は人類の生存と発展にかかわる基本的な条件である。自然を尊重し、自然に順応し、自然を保護することは社会主義現代化国家を全面的に建設する上での内的要請である。緑の山河は金山・銀山にほかならないという理念をしっかりと確立して実践し、人と自然の調和的共生という視点から発展をはからなければならない。

われわれは「美しい中国」の建設を推進し、山・河・林・田・湖・草原・砂の一体化した保護と系統的な対策を堅持し、産業構造の調整、汚染対策、生態保護、気候変動対策を統一的に考慮し、炭素排出削減・汚染対策・緑化・経済成長をバランスよく推進し、生態環境優先、節約・集約、グリーン・低炭素発展を推し進めなければならない。」

冒頭に出てくる「自然を尊重し、自然に順応し、自然を保護すること」とは、10年前の「十八大」報告を読むとわかるが、実は生態文明(建設)の理念を指している。すなわち、ここでは「社会主義現代化国家を全面的に建設する上で生態文明の建設は欠かすことができない」ということを訴えている。

続いて4つの重点取り組みについて述べている。誌面の都合上、(一)から(三)は概要を、(四)は全文を紹介する。

(一)発展パターンのグリーン化を急ぐ
産業構造、エネルギー構造、交通運輸構造などの調整・最適化推進を急ぐ。各種資源の節約・集約利用を推進し、廃棄物の循環利用体系の構築を急ぐ。グリーン発展に資する財政・租税、金融、投資、価格関連政策と基準体系を整える。省エネ・炭素排出削減先進技術の研究開発と普及・応用を急ぐ。

(二)環境汚染対策を踏み込んで推進する
引き続き「青い空、澄んだ水、きれいな土を守る戦い」を踏み込んで繰り広げていく。多種汚染物質の統合的抑制を強化し、重度の大気汚染が基本的になくなるようにする。重要河川・湖・ダム湖の生態系保護を推進し、都市の「黒臭水(黒ずんで臭い河川や水路)」を基本的になくす。土壌汚染の汚染源対策を強化し、新たな汚染物質への対策を行う。汚染物質排出許可制を全面的に実施し、現代的環境ガバナンス体系を整える。中央生態環境保護監察を踏み込んで推進する。

(三)生態系の多様性・安定性・持続性を高める
国家重点生態機能区、生態保護レッドライン、自然保護地などを重点に、重要生態系の保護・復元に向けた重要プロジェクトの実施を急ぐ。国立公園を主体とする自然保護地体系の整備を推進する。生物多様性保護重要プロジェクトを実施する。長江での十年間の禁漁をしっかりと実施する。生態保護補償制度を整備する。バイオセーフティを強化し、外来種被害対策に取り組む。

(四)二酸化炭素排出量のピークアウトとカーボンニュートラルを積極的かつ穏当に推進する
二酸化炭素排出量のピークアウトとカーボンニュートラルの実現は、広範で抜本的な経済・社会全体にかかわる変革である。わが国のエネルギー賦存に立脚し、「確立が先・廃止は後」という方針を堅持し、二酸化炭素排出量のピークアウト行動を計画に沿って実施する。エネルギー消費総量・原単位抑制を整え、化石エネルギー消費を重点的に抑制し、徐々に二酸化炭素排出総量・原単位ダブル抑制へ移行する。エネルギーのクリーン・低炭素・高効率利用を促進し、工業、建築、交通などの分野のクリーン化・低炭素化を推し進める。エネルギー革命をさらに推進し、石炭のクリーン・高効率利用を強化し、石油・天然ガスをさらに探査・開発し、賦存量・生産量の増加にいっそう力を入れ、新型エネルギー体系の計画・整備を急ぎ、水力発電開発と生態保護を統一的に計画し、原子力発電を積極的に安全かつ秩序立てて発展させ、エネルギーの生産・供給・備蓄・販売体系の整備を強化し、エネルギー安全保障を確保する。二酸化炭素排出統計算定制度を整備し、二酸化炭素排出権取引制度を健全化する。生態系の二酸化炭素吸収能力を高める。国際的な気候変動対策に積極的に参与する。

気候変動対策強化が新たな重点に

以上の4つの中で最も目新しい内容は(四)で、前回の「十九大」報告にはなかったものである。これは2020年9月の国連総会で習近平国家主席が初めて示した「ダブルカーボン目標」(二酸化炭素排出量を2030年前にピークアウトさせ、2060年前にカーボンニュートラルの実現に努力するという目標)に基づくものであり、今回は他の3つの重点取り組み内容に比べて1.5倍のボリュームを割いて報告している。

「中国は気候変動対策に本気か」という声もあるが、中国で最も重要な政治活動報告にも書かれ、かつ提案した習近平総書記が少なくとも今後5年間は中国を引っ張っていく体制が決まったことを勘案すれば、あながち嘘ではない。ただし、報告では猪突猛進で突っ走らないようにブレーキをかけることも忘れていない。このことは「穏当に」推進するとか、「確立が先・廃止は後」のような表現からも読み取れる。経済発展とのバランスや、かつて大気汚染対策を推進するために地方政府が暴走して「一刀切り」(個別企業の良し悪しにかかわらず関係する業界全体を一律に稼働停止させるなどの措置)を行い、市民や企業を大いに困らせた苦い経験も踏まえてのことと思うが、どうであろうか。

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