ホットレポートCOP27の成果と今後の展望

2023年01月16日グローバルネット2023年1月号

地球環境研究戦略機関 気候変動とエネルギー・プログラムディレクター
田村 堅太郎(たむら けんたろう)

2022年11月、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は、気候変動の悪影響に対して特に脆弱な途上国を支援するための基金を設立することに合意し閉会した。この「損失と損害」基金は、小島しょ国が過去30年にわたり求めてきたものであり、その設立が歴史的合意と称されるゆえんである。しかし、基金を動かしていくためには積み残された多くの難題がある。また、損失と損害を最小化するためにも、温暖化を産業革命前に比べ1.5度に抑制するという1.5度目標に向けた排出削減の取り組み強化が不可欠である。この点では、特に前回COP26で採択されたグラスゴー気候合意からどの程度踏み込みがなされるのかが注目されたが、進展は芳しくなかった。以下、それぞれについて詳しく見ていく。

「損失と損害」基金の設立合意と今後の課題

1990年代以来、小島しょ国等は緩和(排出削減)および適応の努力を行っても避けがたい気候変動の悪影響を「損失と損害」とし、先進国に対してその責任を追及してきた。先進国側は、法的責任については受け入れられないという立場をとり続けた。しかし、悪影響の顕在化や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書でも、緩和・適応努力をもってしても生じ得る悪影響のリスクが指摘されたこと等を受け、2016年に採択されたパリ協定で初めて「損失と損害」が独立した条文として記載された。その一方で、パリ協定における記載が「損失と損害に対する法的責任と補償の基礎を提供するものではない」とのCOP決定も同時になされた。そして、その後も先進国は「損失と損害」に対してはさまざまな既存のチャンネルを通じて資金支援をしているとし、「損失と損害」に特化した基金の設置を巡る議論を先延ばしにしてきた。他方で、途上国はアフリカで開催されるCOP27をてこに基金設立の突破口を開こうとし、交渉に臨んだ。

最終的には先進国側が妥協する形で、基金設立を含む新たな資金面の措置を講じることが合意された。先進国は妥協の条件として、先進国のみならず中国等の排出大国も資金拠出を行うことや、排出削減行動の強化についての合意を求めた。誰が拠出するのかについては、今後1年間議論していくこととなった。他方、後述するように、排出削減行動の強化については期待する成果を得ることはできなかった。

このようにして合意された「損失と損害」基金であるが、その運用化にあたっては未解決の難題が多い。前述の誰が拠出するかといった問題に加え、資金規模や支援対象等についても明らかにしていく必要がある。例えば、今回の合意では支援対象となる「特に脆弱な途上国」がどの国を指すのかは明示されなかった。パリ協定では、特に脆弱な途上国の例として後発開発途上国と小島しょ開発途上国を挙げている。仮に支援対象をこれらの国に限定すると、今夏に大洪水が発生したパキスタンは対象外となる。途上国側は支援対象を可能な限り拡大するよう求め、先進国側はなるべく限定するよう求めてきており、今後も争点として残る。

このような基金の運用化に向けた課題を議論し、次回COP28 において勧告を行うために移行委員会の設置も決まった。その委員構成は、先進国が10に対して途上国が14となっており、途上国の声がより反映される構成となっている。途上国の主張が強く反映されると、先進国等の拠出側の協力を得られなくなる懸念もある。実際、気候変動枠組条約の下に2001年に設置された「特別気候変動基金」は、支援対象に産油国の経済多様化も加えたために、先進国側が資金拠出を渋り、「基金はあるが資金はない」という状況に陥った。COP27での損失と損害への資金支援に関する決定には「基金設立を含む新たな資金面の措置」とある。これは、先進国側は基金設立を認めつつも、国際開発銀行等のその他のチャンネルを通じた資金支援も活用することを念頭に置いていることを意味する。新基金の運用化ルール次第では、先進国は基金以外のチャンネルを通じた支援を重視する可能性もある。移行委員会においては、途上国側、拠出側の双方からの納得・理解が得られるような丁寧な議論が求められる。

排出削減目標・行動の強化に向けた議論

グラスゴー気候合意は、パリ協定では努力目標として位置付けられていた1.5度目標について、その追求への「決意」を示した。その一方で、これまでに各国が提出している国別削減目標(NDC)では不十分であるために、2022年末までにNDCの見直し、強化を各国に求めるとともに、1.5度目標の達成に向けて決定的に重要となる今後10年間での排出削減の実施強化に向けた作業計画をCOP27で採択することとした。加えて、「対策の講じられていない石炭火力の段階的削減」や「非効率な化石燃料補助金の段階的廃止」「メタン排出削減の対策強化」等の行動目標が盛り込まれた。つまり、グラスゴー気候合意はパリ協定より一歩踏み込んだ内容となっていた。今回のCOP27ではどの程度、対策の強化や具体的な実施が打ち出されるのかが注目された。

NDCの見直し、強化については、33ヵ国が更新版NDCを提出した。これは、前回COP26に向けて140余りの国・地域が提出したことに比べるとかなり低調であったといえる。今般のエネルギー危機に加え、COP26までに多くの国が更新版NDCを提出しており、1年程度の期間を挟んで、さらに追加的に削減目標を積み上げることは難しかったと推測される。

一方で、ロシアへの化石燃料依存からの脱却を図る欧州諸国は短期的にはガス火力や石炭火力のたき増しをしつつも、中長期的に再エネ導入目標の強化を打ち出しており、それらを反映した新たなNDCを欧州連合として提出することを明らかにしている。また、G7を中心とした先進国と「公正なエネルギー移行パートナーシップ(GETP)」を結び、早期の石炭火力の閉鎖や再エネ導入の拡大を目指す南アフリカ、インドネシアやベトナムが、実質的には削減目標引き上げにつながるような国内目標を掲げている。化石燃料の高騰を受け、今後、再エネ導入がどの程度、加速するのかが注目される。

排出削減の実施強化に向けた作業計画には、1.5度目標の達成に向けて決定的に重要となる今後10年間での具体的な削減行動を促す内容が期待されていた。具体的にはセクターごとに1.5度目標に整合するようなベンチマークを設定することや、グラスゴー気候合意に含まれる行動目標の定量化、あるいはその進捗状況のチェック等である。そして、それらの成果を閣僚級ハイレベル会合に報告・提言することで各国の国内政治プロセスへメッセージを発信することも期待された。しかし、最終的には、作業計画の内容は、意見交換のための対話を年2回開催するといった具体性を欠くものとなった。また、毎回COPへ報告されるという形での政治プロセスとのリンクは確保されたものの、新規目標にはつながらないとのただし書きがあるものとなった。各国の削減目標の強化や実施規模の拡大につながるのか疑問の残る内容となった。

COPでの個別交渉議題ごとの決定事項とは別に、COP全体の総括、さらには交渉議題を超えて、気候変動問題への国際社会の取り組みの方向性を全締約国の総意として示すものに全体決定(カバー決定)というものがある。COP26の全体決定がグラスゴー気候合意に当たる。COP27の全体決定を巡る交渉では、欧州連合等80ヵ国が石炭のみならず石油や天然ガスを含む「全ての化石燃料の段階的削減」を全体決定に盛り込むことを支持したが、産油国の強い反対で実現されず、グラスゴー気候合意をほぼ踏襲する形となった。

COP28に向けて ~日本の役割

こうして振り返るとCOP27の評価は厳しいものとならざるを得ない。次回COP28はアラブ首長国連邦が議長国となる。「損失と損害」基金の運用化に注力し、排出削減努力の強化が再度、おろそかになる恐れがある。日本はG7議長国として、これまでも年々強化されてきたG7の排出削減へのコミットメントをさらに強化することで、国際的な取り組みをけん引していくことが求められる。例えば、GETPの拡大に向けて、現在、インドとセネガルとの協議が進んでいるが、さらに参加国を拡大すべく、率先して新興国に働き掛けることが求められる。

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