続・世界のこんなところで頑張ってる!~公益信託地球環境日本基金が応援する環境団体第8回 スマトラ島のオランウータン~その未来のために

2023年02月15日グローバルネット2023年2月号

NPO 法人日本オランウータン・リサーチセンター 代表理事
黒鳥 英俊(くろとり ひでとし)

当団体は2016年に設立され、オランウータンに関する①野生下の調査研究・保全活動の支援、②国内動物園での調査研究および動物福祉の支援、③教育普及、④情報発信を行う団体です。長年、野生ボルネオオランウータンの調査研究を行っている研究者が所属しており、学術研究の側面からも活動していることが当団体の大きな特徴です。

助成事業ではインドネシア・スマトラ島のオランウータンに焦点を当て、現地調査、教育普及および情報発信を行いました。

●野生オランウータンの現状

オランウータンはわれわれ人間と同じヒト科に属する大型類人猿です。またインドネシアのスマトラ島とマレーシアのボルネオ島のみに生息する「アジアの隣人」です。2016年に行われた生息数調査の報告によると、現在スマトラ島にはスマトラオランウータンが約1万3,000頭、タパヌリオランウータンが約800頭、ボルネオ島にはボルネオオランウータンが約5万7,000頭生息していると推定されています(Wich et al. 2016; Orangutan Population and Habitat Viability Assessment 2016, 2019)。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、スマトラは2010年、ボルネオは2016年、タパヌリは2017年に、それぞれ絶滅の可能性が最も高い「絶滅寸前種(CR)」に指定されています。

彼らが絶滅の危機に瀕している原因は、農地開発(オイルパーム・プランテーションに代表される)・違法伐採・鉱山開発によって生息地である熱帯雨林が破壊され、密猟が横行していることが主な原因です。パームオイルや輸入木材は日本でも広く使われていますが、彼らの絶滅の危機にわれわれの身近な生活が関わっている現状は一般にはあまり知られていません。

●スマトラ島現地で視察や保護活動の支援

活動開始当時、スマトラ島のオランウータンに関する現地からの情報は少なく、日本語で得られる知見は多くはありませんでした。

助成事業は生息地の現地視察や現地団体と連携して保護活動を支援、また国内で正確な情報を発信し保護の機運を高めることを目的に実施しました。

2019年に野生オランウータン生息地(ブキットラワン・タパヌリ地区)と、オランウータンのレスキューなどを行っているOrangutan Information Center(OIC)、保護個体を養育するリハビリテーション・センターなどを運営するSumatra Orangutan Conservation Project (SOCP)を訪問しました。

レクチャーやリハビリテーション・センターなどの視察を通じて、分断された生息地の状況、レスキュー活動の様子、保護個体を野生へ戻す事業について深く知ることができました。

またスマトラ島で一番大きな都市メダンから広大なオイルパーム・プランテーションが両脇に広がる道を通って熱帯雨林へ移動し、森林開発の実際を直接目にすることもできました。

2019年11月、スマトラ島より研究者のマシュー・ノヴァク氏(PanEco財団)を招聘、動物園など3ヵ所で「スマトラ島における類人猿の調査研究および保全活動に関する報告」と題した講演会を実施しました。総勢300名以上の参加があり、活発な質疑応答を含め手応えのある機会となりました。

写真①  現地から研究者を招いて実施したSAGA 22(第22 回アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)での講演の様子

●パンデミック期間中も現地視察や情報発信

COVID-19の世界的なまん延により、2020年の渡航計画は断念しました。その後現地の感染状況が落ち着いたため、2021年冬にブキットラワンを、2022年春にタパヌリ地区を訪問し、生息地の撮影や、コロナ禍の現状に関するインタビューなどを行い、動画で発信することができました。

タパヌリ地区を訪問したスタッフによると、生息地の森ではダム建設が進行中で、それによりオランウータンの生息地が分断され、個体群が孤立することが危惧されているそうです。工事による爆発音が森中に響き渡っており、そんな現状を、一人でも多くの日本の方に知ってもらうことが大切だと感じたようです。

また、オンラインでも情報を発信しています。YouTubeで公開中の動画の一部を紹介しますと、

①OICの活動紹介:森林破壊の現状や、生息地が開発されて孤立したオランウータンをレスキューする様子などを紹介。また植林活動の成果として、荒れた森が大きく回復する様子も紹介しています。

写真②  リハビリテーション・センターの保護ゲージの前
で現地の担当者から説明を受ける視察メンバー

②タパヌリ訪問記:2017年に新種として報告されたタパヌリオランウータンが生息する地域の訪問記。日本でほとんど紹介されていない場所の、素朴さや雄大さを感じてもらうことができます。

また、2020年12月から国内動物園の協力を得て「バーチャル動物園」と題したオンライン講演会を実施しています。これまでに札幌市円山動物園、市川市動植物園(千葉県)、鹿児島市平川動物公園、日本モンキーセンター(愛知県)、よこはま動物園ズーラシア(横浜市)で実施しました。飼育されているオランウータンの特別な映像や、オランウータンの生態講座、絶滅の危機にある生息地の現状など多角的な情報を発信しています。総計約1,000名のご参加があり「オランウータンにより親しみがわいた」「オランウータンの現状に危機感を持った」などの声を頂いています。

写真③  樹上のスマトラオランウータン母子(インドネシア・ブキットラワン)

●スマトラ島のオランウータンの未来のために

助成期間の3分の2がコロナ禍に当たり、現地での視察や関連団体との関係強化が当初の想定ほどできなかったことは残念でしたが、今後も現地団体と連携し、日本からスマトラ島のオランウータン保全支援の手が少しでも届くよう、活動を地道に続けていき、その未来がより明るい方へ向くように努力していきます。

公式サイトhttps://www.orangutan-research.jp/に、紹介した動画や、オランウータンに関するより詳しい情報を掲載していますので、是非ご覧ください。

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