日本の沿岸を歩く海幸と人と環境と第72回 食文化育んだ漁港の復権目指すー青森県・八戸

2023年03月15日グローバルネット2023年3月号

ジャーナリスト
吉田 光宏(よしだ みつひろ)

太平洋に面する八戸漁港。特に重要な漁港である特定第三種漁港(全国に13港)の一つ。かつて水揚げ量日本一の記録を持つが、近年水揚げ量の減少が著しく、地域経済への影響も懸念されている。漁港復活を目指す取り組みが続く中で、日本最大級の館鼻たてはな岸壁朝市のような漁業をベースにした九つの朝市、漁港町で育まれた食文化などの魅力が再興への足掛かりになるのだろうか。

●水揚げ量日本一の栄光

江戸時代には「八戸浦」と呼ばれ、三陸海岸の交易港、避難港の役割を果たした八戸港。現在は八戸漁港を含み、商業港、工業港としても存在感を示している。

八戸漁港が水揚げ量で全国1位になったのは1966(昭和41)年から3年連続を含めて過去6回ある。最も多かった88(昭和63)年は81万9,423tだった。

水揚げする魚市場は3ヵ所に分散し、第一魚市場(巻き網)、第二魚市場(中型底引き網や定置網)、第三魚市場(巻き網、大・中型イカ釣り船)に役割が分かれている。

昨年6月中旬の午前6時30分、小中野地区にある第二魚市場に到着した。魚市場を開設している八戸市水産事務所の中里公亮さんと鬼栁知拓さんの案内で競りを見た。広い場内は鮮魚が入ったケースが並べられ、買受人(市が承認)が魚を見て入札。競り人を中心に集団が広い場内を移動していく。

近海もののいろいろな種類の魚が並ぶ。赤いフルーツのようなホヤ、ヒラメ、タコの白子やタラのカマ、見慣れない黒い魚は北日本に多いクロソイだった。

見学の後に聞いた説明では、八戸漁港へ水揚げされる主な魚種はイカ、サバ、イワシで水揚げ量全体の約8割を占めるが、近年の海水温上昇や外国船の乱獲などいくつかの要因が重なり、水揚げは減少を続けている。取材後公表されたデータによると昨年は2万8,876tで全国14位。金額99億8,159万円で15位。数量はピークの4%以下、金額は11%以下と深刻だ。

第二魚市場での競り

●観光客呼び込む食文化

「イカの町八戸」として知られ、イカの水揚げ量は日本一を誇る。八戸漁港の水揚げ金額の53%を占めている(2020年)。第三魚市場(B棟、C棟)に専用の荷さばき施設があり、近海、日本海や北太平洋のイカが水揚げされる。北太平洋の中型イカ釣り船は1~2ヵ月操業し、船内でアカイカなどを冷凍する。春先を除き年中水揚げの光景が見られる。

夏から冬にかけては、夕方に水揚げされた生のイカをその日のうちに食べる「昼釣りイカ」が人気だ。館鼻岸壁朝市のゆるキャラ「イカドン」もあり、イカへの親しみと誇りを感じさせる。

それだけにイカの水揚げ量減少が深刻だ。全国的なスルメイカの不漁があり、特に主力となっている日本海で漁獲される「船凍スルメイカ」が激減している。今後水揚げが回復するのかどうか不透明だ。

もう一つの看板魚であるサバも同じように水揚げ量が減少している。「八戸前沖さば」は、八戸沖で海水温が低下する秋に漁獲されるサバで、脂肪分が多くおいしさは全国的に有名だ。

市場見学のときに岸壁に着岸した漁船からはサバが次々と水揚げされていた。第三魚市場にはEUへサバを輸出するための衛生管理を徹底したA棟が整備されているが、近年は不漁のため役目を果たしていない。

サバの水揚げ

漁獲とは別に、八戸には水産基地の繁栄がもたらした豊かで成熟した魚食文化があるようだ。第三魚市場のそばにある館鼻岸壁朝市は2004年、民間主導で別の場所から移転し新規拡大した。市場が休みの毎週日曜日に開かれ、約800mにわたって300軒以上の店が並ぶ。3月中旬から12月の間、日の出から午前9時ごろまで開かれる。生鮮魚介類、野菜、果物、加工品などがそろい、その場で食べることもできる。九つの朝市がある八戸は、漁港の漁師の生活に合わせる「早朝文化」が定着し、商店や銭湯も早朝から動き出す。

陸奥湊駅近くにある八戸市魚菜小売市場もユニークだ。1953(昭和28)年の開設以来、八戸市や周辺町村の台所として人びとに親しまれてきた。老朽化に伴い、2021年5月から改修工事が始まり、昨年12月にリニューアルオープンした。鮮魚、刺身、塩干物などの加工品、焼魚、海藻類、漬物などを販売、新鮮な魚介や総菜を自由に選ぶ「朝ごはん」も人気だという。

取材時にはちょうど改修中だったが、車で陸奥湊駅前朝市が開かれている通りを走り、魚介類を運ぶ人びとの忙しそうな様子を見た。朝市の他にも食のテーマパーク「八食センター」のような大規模な施設もある。

●沿岸を楽しむ自然歩道

朝市のほか、夜に住民や観光客でにぎわう「横丁」の食文化もある。パンフレットを見ると、みろく横丁など八つもあり、昭和レトロの雰囲気が漂う。魚料理を南部杜氏が作る地酒で味わえば最高だろう。南部せんべいに水煮缶のサバを乗せて食べるのもよし。郷土料理の「八戸せんべい汁」の応援ソング『好きだDear! 八戸せんべい汁』には地元愛を感じる。

一方、施設は充実している。第三魚市場A~C棟まで順次整備し、2年前の第二魚市場(D棟)竣工で高度衛生化に対応した荷さばき所の整備が完了した。「新しい八戸を創造しよう」と訴えて2021年に初当選した熊谷雄一市長が公約に掲げた「八戸水産アカデミー」も昨年から本格的に動き始めた。メンバーは漁業者、水産加工業者、学識経験者に加えて金融、観光などの異業種の専門家で構成し、水産業の未来を考える。養殖などの「つくり育てる漁業」や輸出による販路開拓などの新規事業も含み議論している。

水揚げだけでなく、その後の加工や流通などの機能も充実し、水産加工業25企業、冷凍・冷蔵関係43企業95工場、冷蔵能力は29万6,000t(2020年)と全国でも有数の水産都市・八戸が大きく変わろうとしているようだ。レガシー(遺産)から新たな付加価値を生み出してほしいものだ。

現状は厳しいが、進化論者ダーウィンは「変化できる者が生き残る」と言う。加工などで付加価値を高めたり、観光や教育など異業種と連携したりして「ピンチをチャンスにする」転換期であり、地域の盛衰をかけた総力戦かもしれない。「けっぱれ(頑張れ)ですね」。筆者は期待する思いを伝えた。

魚市場の取材を終えると、海岸線を南に下り種差たねさし海岸を目指した。三陸復興国立公園の北端にあり、長さは12km。途中に見えた蕪島かぶしまはウミネコの繁殖地(国の天然記念物)。鳴き砂の大須賀海岸や岩場など変化に富んだ海岸線に小さな漁港が点在している。蕪島から福島県相馬市松川浦まで南北約1,000kmの長距離自然歩道「みちのく潮風トレイル」が整備されている。

立ち寄った種差海岸インフォメーションセンターでは、国の名勝である天然芝生地が緑のじゅうたんのように海に向かって広がっていた。この海岸の沖に、自然が変調を来した漁場があるのだ、と思った。

種差海岸の天然芝生地

タグ:,