INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第77回 李克強首相最後の花道~全人代での政府活動報告

2023年04月14日グローバルネット2023年4月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

第14期全国人民代表大会開催

去る3月5日から13日までの9日間、第14期全国人民代表大会(「全人代」、日本の国会に相当)第1回会議が北京の人民大会堂で開催された。全人代は5年を1期としており、今回は第14期の最初の年に当たる。昨年10月に開催された中国共産党第20回全国代表大会で選出された中央委員会総書記、中央政治局常務委員会委員、中央政治局委員等の新体制を反映した政府要職人事の刷新、国務院新執行部の体制等が決定された。また、国務院の一部機構改革も行われた。習近平国家主席が満票で前例のない3期目の国家主席に選ばれたのとは対照的に、既に共産党の要職から外れていた李克強首相(国務院総理、写真)は、今回の全人代を最後に政治の表舞台から完全に去ることになった。後任には名前は似ているが政治背景は全く異なる共産党序列2位の「李強」氏が選任された。全人代会期の冒頭ではまだ首相の座についていた李克強首相が政府活動報告(注:所信表明に相当)を読み上げ、2022年および過去5年間(第13期)の活動について報告するとともに、2023年政府活動についての提案を行い、退任前の最後の花道を飾った。この政府活動報告が全人代の審議を経て正式に採択、発表されたのは李克強氏が既に去った会期終了後の3月14日であった。

2023年3月5日、政府活動報告を説明する李克強首相(国務院総理) (出典:中国中央政府ネット)

生態環境が持続的に改善

それでは、今年の政府活動報告のうち、生態環境保護に関連する報告内容をピックアップして若干の分析をしてみることとしたい。

はじめに、冒頭の「Ⅰ.昨年および過去5年間の活動の回顧」では、(昨年は)生態環境が持続的に改善された、と総括した上で、過去5年間の活動を次のように回顧している。

「生態環境が明らかに改善された。単位GDP当たりのエネルギー消費量と二酸化炭素排出量がそれぞれ8.1%、14.1%低下した。地区級都市および地区級以上の都市の微小粒子状物質(PM2.5)平均濃度が27.5%低下し、重度大気汚染の日数が50%以上減少し、優良な地表水の割合が、67.9%から87.9%に上がった。第1期国立公園を設立し、さまざまな自然保護地は9,000ヵ所以上となった。「美しい中国」の建設において重要な一歩を踏み出した。」

全人代の各期の期間と5ヵ年計画の期間が一致しないので、5ヵ年計画目標との厳密な比較はできないが、以上の報告内容をざっくりと直近の5ヵ年計画と比較するとのようになる。このように比較してみると、単位GDP当たりのエネルギー消費量と二酸化炭素排出量の低下が必ずしも順調には進んでいなかったことがわかる。

緑の山河は金山・銀山

次に、過去5年間の取り組みに関する各論の報告では、黄河流域の生態系保全と質の高い発展を促進、都市部のインフラ整備を強化し排水管網を63万kmから89万kmに延伸、農村の居住環境を持続的に改善し農村の上水道普及率が80%から87%に上昇などと紹介した上で、「(八)生態環境保護を強化し、グリーン・低炭素発展を促進」の一項を立てて次のように詳しく報告している。

「緑の山河は金山・銀山にほかならないという理念を堅持し、生態文明制度体系を整備し、経済成長と環境保全を両立させ、サステナビリティを不断に高めた。汚染対策と生態系保全を強化した。的確で科学的かつ法に基づく汚染対策を堅持し、汚染対策の重点事業を踏み込んで推進した。複数の汚染物質の統合的対策と汚染対策の広域連携を重視し、地区級都市および地区級以上の都市の大気質優良日の割合が4ポイント増の86.5%となった。地区級都市および地区級以上の都市の「黒臭水」はほとんどなくなり、重要河川・湖沼と近海の汚染対策が進んだ。土壌汚染リスク防止と浄化にいっそう力を入れ、固形廃棄物と新汚染物質の対策を強化した。耕地・恒久基本農地レッドライン、生態系保全レッドライン、市街化区域を全面的に画定した。山・川・林・田・湖・草原・砂の一体化した保護と系統的な対策を堅持し、一連の重要生態系保全プロジェクトを実施し、河長制・湖長制・林長制を全面的に普及させた。長江流域の重点水域での10年間の禁漁をさらに実施した。生物多様性の保全を強化した。生態保護補償制度を整えた。森林被覆率、湿地保護率がそれぞれ24%、50%以上に達し、土壌水食、砂漠化、砂化した土地面積がそれぞれ10万6,000km2、3万8,000km2、3万3,000km2純減した。人びとはよりいっそう自然豊かな暮らしが送れるようになった。

省エネ・低炭素化を着実に推し進めた。エネルギーの安全で安定した供給とグリーン・低炭素化を総合的に考慮し、二酸化炭素排出量のピークアウトとカーボンニュートラルを科学的に計画的に推進した。エネルギー消費構造を最適化し、超低濃度排出の石炭火力発電ユニットは1,050ギガワット以上となり、再生可能エネルギー発電設備容量は650ギガワットから1,200ギガワット以上に増加し、クリーンエネルギー消費の割合が20.8%から25%以上に上昇した。資源節約の取組を全面的に強化し、グリーン産業と循環型経済を発展させ、省エネで環境に配慮した技術と製品の研究開発と応用を促進した。環境金融を強化した。エネルギー消費基準を見直した。気候変動に関する国際協力に積極的に参加し、中国はグローバル気候ガバナンスの推進に貢献をした。」

以上のほか、回顧の締めくくりで李克強首相は、生態環境保護の任務は重く道は遠い(前途多難)とも述べている。

2023年政府活動についての提案

今年の主な所期目標について、GDPの伸び率は5%前後とすることなど7つの目標を挙げたが、そのうちの一つに「単位GDP当たりのエネルギー消費量と主要汚染物質の排出量を引き続き減少させ、化石燃料の消費を重点的に抑制し、生態環境を着実に改善する」ことを挙げた。生態環境保護を重視している証左である。また、冒頭で紹介したように第13期の期間中、単位GDP当たりのエネルギー消費量の低下が必ずしも順調には進んでいないことを受けて強調したのではないかと推察される。

最後に、今後の生態環境保護に係る具体的な活動内容として「(七)発展パターンのグリーン化の推進」を挙げている。

「環境汚染対策を踏み込んで推進する。都市・農村部の環境インフラ整備を強化し、指定地域生態系保全・復元重要プロジェクトを継続して実施する。クリーンで高効率な石炭利用と関連技術の研究開発を進め、新型エネルギー体系の整備を急ぐ。グリーン発展支援策を整え、循環型経済を発展させ、資源の節約・集約利用を推し進め、重点分野の省エネ・低炭素化を進め、「青い空、澄んだ水、きれいな土を守る戦い」に継続的にしっかりと取り組む。」と結んでいる。

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