フロント/話題と人宮本 芳彦さん((株)宮本卯之助商店 代表取締役社長)

2023年06月15日グローバルネット2023年6月号

日本の伝統技術で自然と人をつなげたい
~「森をつくる太鼓プロジェクト」を展開~

宮本 芳彦(みやもと よしひこ)さん
(株)宮本卯之助商店 代表取締役社長

日本で古来、地域の祭礼や伝統芸能で使われてきた太鼓。1861年に創業し、東京・浅草で太鼓や神輿を製造・販売する宮本卯之助商店は、国際的なFSC認証を受けた太鼓を製造し、「日本の森や自然、人の心を豊かにしたい」というメッセージを発信している。

宮本さんは同社の8代目。コロナ禍で地域の祭りも演奏会も中止となり、「伝統産業は何をすべきか考えた」という。地域の安寧や五穀豊穣を祈る役割も果たす太鼓。その本来の姿を再確認し、「自然との共生」につながるモノづくりをしなければいけないと考えた。ちょうどその頃、東京・檜原村のFSC認証林を紹介され、都会の近くにも豊かな資源があるのに十分活用されていないという事実を知ったことから、その森のスギを使って太鼓を作り、豊かな森づくりにつなげる「森をつくる太鼓プロジェクト」を始動した。

都内の人工林で伐採された間伐材は、従来太鼓作りに使用してきた寒冷地の樹齢の高い木材とは大きく違うが、職人たちには何度も森へ通ってもらい「違いを楽しんでもらえるようになった」という。そして完成したのが、通常とは違う木目や塗装も楽しめる、「東京の技と材」による斬新な「森をつくる太鼓」だ。

「『モノづくり』だけでなく『コトづくり』で現代人と伝統文化との接点を作りたい」と言う宮本さんは、ワークショップや海外に向けたオンラインレッスンなど体験型のイベントも積極的に手掛ける。また、今年に入り、製造途中に出た割れなどで「太鼓になれなかった木材」を使った家具などの製作もプロジェクトの一環として始めた。「森をつくる太鼓」については昨年、檜原村の森で、太鼓の音を聴き、森や林業の現状について学び、木や太鼓にも触れられるワークショップを開催。今後も毎年続けていく予定だ。

「今の社会は人とのつながりや自然との関わりが希薄になってしまったが、『森をつくる太鼓』で日本人が大切にしてきた価値観や自然に対する思いを伝えていきたい」と宮本さん。創業以来160年以上かけて培われてきた伝統と技で、文化継承の危機を、文化のさらなる価値創造と人と自然が共生できる社会の実現に向けたチャンスに変えようとしている。48歳。(絵)

※ 持続可能な森林活用・保全を目的とする「適切な森林管理」を認証する国際的な制度

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