フォーラム随想びっくり停電

2023年06月15日グローバルネット2023年6月号

エッセイスト、ジャーナリスト懇話会理事
森脇 逸男(もりわき いつお)

 「東京電力によって送電が停止されましたので、ベルが鳴りません。ご用の方はドアを強くノックして、こちらの名前を呼んでください。なお固定電話も通じませんので、スマホで次の番号にお願いします。よろしく。森脇」 こんな貼り紙を集合住宅内のわが家のドアに貼り付けた。いや全く思いがけない、送電ゼロの数日間だった。

 送電ゼロ。本当にそんなことがあり得るとは夢にも思わなかった。ある日の午前10時、送電が止まった。放送中のテレビも照明も瞬時にストップ。ちょうど新聞の朝刊を読んでいたところだったが、昼間なので読めなくはなく、停電など予想もしていなかったので、まあ何かの間違いだろう、またすぐ電気が来るだろうと、高をくくっていたように思う。 しかし、明かりがないとやはり不便で、取りあえず電器店に行って、乾電池で灯る室内用の照明具を買って、その夜を過ごした。テレビの代わりは携帯ラジオで、ニュースを聞いた。そういえば東電から「料金未納」という知らせが来ていたかなと、ちょっと気になったが、まあそのうちに送電を再開してくれるだろうと、根拠の全く無い楽観で数日を過ごした。しかし再開の気配は全くない。送電されなければスマホに充電もできない。どうしたことかと東電に電話してみたところ、「何とかの人は1を、他の人は2を押してください」といったアナウンスが流れ、それに従って2を押してみると、「次の番号に3桁の○○の番号を加えて電話してください」という。その3桁がわからない。

 結局、送電再開のめどがつかないまま、何日も過ぎた。まあ電気が無くても生きていけないわけではないが、とにかく困ったのは毎日の食事だ。小生一人暮らしで自炊なので、近くのコンビニなどで適当に食材を買って済ませているが、問題は冷蔵庫。いつも買い込む食材の中には、「保存は必ず冷凍してください」と注文されているものも多い。電気の来ない冷蔵庫に入れておくと、気のせいもあるのだろうが、ちょっと変なにおいがしてくる。以前頂いたまま冷凍庫に突っ込んでおいたウナギのかば焼きなど傷まないうちにと慌てて食べた。  送電停止の理由は簡単で、つまり東電からわが家に送られてくる料金請求を、うっかりして払わないまま日が過ぎたことだ。まあ料金は払わなければいけない。そこで東電に電話すると、改めて請求書を送ってきて、近くのコンビニの「スマートピット」で支払ってくれという。スマートピットなど全く知らなかったが、コンビニに行ってみると入口近くにその機械が置かれていて、現金を投入し、出てくる領収書をレジに渡せばちゃんと払い込めるようになっている。教えられるままに払い込みを済ませたら、現金なもので間もなく送電が再開された。やっと平和な日々が戻ってきた。

 さてそこで、改めて当時を振り返ってみると、問題はやはり小生の料金未納だ。非は全面的に当方にあると思う。だがしかし、われわれの生活に電気はやはり欠かせない。送電ストップの前にもう一度、「未納ですよ。このままでは送電をストップしなければならなくなりますよ」と警告してほしかったと思う。小生のように、料金の請求に気付かず、うっかりして電気を止められるケースは、そうした警告があればストップという緊急の事態は避けられたのではないか。  特に東京電力は、通常の会社とは違って、公共企業だ。送電ストップはやはり伝家の宝刀で、あまり振りかざしてほしくない。  小生の場合は別として、送電をストップされる方には、やはりやむを得ない理由があるかも知れない。勝手なことを言うなと叱られるかもしれないが、人間の生活に欠かせない〝商品〟を扱っている以上、それなりにその行動には配慮があってもよかったのではないだろうか。

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