INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第78回 中国国内での環境情報収集の限界

2023年06月15日グローバルネット2023年6月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

改定「反スパイ法」が成立

今年4月26日、第14期全国人民代表大会常務委員会第2回会議で中華人民共和国反間諜法(以下、「反スパイ法」)の改定案が可決され、2023年7月1日から施行されることになった。この反スパイ法は、1993年に公布された中華人民共和国国家安全法(以下、「旧国家安全法」)を基礎に2014年に反スパイ法として公布され(旧国家安全法は同時廃止)、そして今回の改定に至ったものである。なお、名称が同じで少しわかりにくいが、2015年7月1日に国家の安全の各分野を統括する総合的な法律として、改めて新しい国家安全法(以下、「新国家安全法」)が公布施行されている。

反スパイ法改定案を可決した第14期全国人民代表大会常務委員会第2回会議(出典:全国人民代表大会ウェブサイト

改定後の反スパイ法第4条では、「スパイ行為」の定義(例示)がより広範に詳細に規定された。具体的には以下のとおりである。

  1. 中国の安全に危害を及ぼす活動。
  2. スパイ組織への参加、スパイ組織およびその代理人の任務引き受け、スパイ組織およびその代理人を頼ること。
  3. 国家秘密、インテリジェンス(情報)、その他の国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料、物品を窃取、偵察、買収、不法に提供する活動。
  4. 国家機関、機密に関与する部門、重要情報インフラ等のネットワークに対する攻撃、侵入、妨害、支配、破壊等の活動。
  5. 敵のために攻撃目標を指示。
  6. その他のスパイ活動。

下線を引いた行為が今回の改定により新たに追加されたものであるが、③の「その他の国家の安全と利益に関わる」の内容が曖昧で、恣意的に解釈運用される恐れが私たちの不安を増長させる。

なお、「国家の安全」については、上述の新国家安全法第2条で「国家の政権、主権、統一および領土保全、人民の福祉、経済社会の持続可能な発展その他国家の重大な利益が、相対的に危険がなく、内外からの脅威を受けない状態であり、もって安全な状態の持続を保障する能力」と定義されている。

環境情報の収集は反スパイ法等に抵触するか?

本稿では、中国国内における環境情報の収集行為が反スパイ法等関連法令に抵触する恐れがあるかどうか、どのような行為が危険(リスクが高い)か若干の考察をしてみることとしたい。

私の限られた経験に基づいて言うと、これまで数多くの研究者、コンサルタント、企業あるいは中国での環境調査業務等を発注する者(国際組織を含む)は、旧国家安全法、反スパイ法およびその他の関係法令等による環境情報収集の制限等に比較的無頓着であったのではないかと推察するが、これからは以前にも増して改定後の反スパイ法をはじめとする関係法令等に違反する恐れがないか慎重に見極めながら行動する必要があると思われる。環境情報も時と場合によっては国家機密、国家の安全と利益に関わるデータ等に該当すると見なされる恐れもあるから、収集等にあたっては慎重の上にも慎重を期する必要がある。

外国人が中国国内で環境情報にアクセスしたり、収集を試みようとする場合のリスクについて、以下の3ケースに整理してみた。

【比較的安全と考えられる例】
比較的安全と考えられる情報収集行為(明らかにスパイ行為等に該当しないと思われるもの)は非常に限定的で、①中央・地方政府または事業単位と呼ばれるその下部組織(以下、「政府機関等」)が現にウェブサイトで公開している情報(政策文書、調査報告書、モニタリングデータなど。以下同じ)の収集および、②政府機関等から公式な公文書(組織の印鑑を押した文書)として提供される情報の収集に限られるのではないか。ただし、①の場合でも中国国内からでしかウェブサイトにアクセスできないように設定されているケースもあり、このような情報を中国国内でダウンロード(保存)して国外に持ち出そうとする場合には注意が必要である。また、②の場合も同様に、内容によっては国外への持ち出し(越境移転)に係る規制が適用される恐れがあるので注意が必要である。

【注意が必要と考えられる例】
次に少し注意が必要な情報収集行為(スパイ行為等と見なされる恐れのあるもの)としては、③政府機関等が過去にウェブサイトで公開していたが現在は削除している情報、あるいは一時的にウェブサイト上で公開した情報の収集、④政府機関等が作成した印刷物(資料)の収集、⑤政府機関等から非公式に入手あるいは閲覧した情報、などが該当する。

ここは少し解説が必要であろう。③は、一定の時間が経過し単純にウェブサイトから削除した場合もあるが、中国共産党・中央政府等の指導方針が変わり、国家の利益を害する恐れがあるなどの新たな判断により削除したケースも想定されるからである。一時的にウェブサイト上で公開した情報の例としては、全国各都市の大気汚染の一時間値データなどがある。ウェブサイト上で保存できない形態で一時的に公開している情報を強引に保存すれば、かつそのデータが高濃度汚染を示すデータなど後々不都合な情報であれば、国家の利益を害する恐れがあるデータの窃取、偵察と見なされることも想定される。④については、当該印刷物(資料)が関係者のみに限定的に配布されたものなのか、社会に向けて公開されたものかよく確認する必要がある。前者であれば②のケースに該当しない限り収集は控えるべきである。後者の場合でも収集は可能だが、国外への持ち出しができない恐れもあるので注意が必要である。⑤は中国側の政府関係者等と親しくなった場合や良好な協力関係が構築されている場合にしばしば見られる例で、まだ公開されていないあるいは公開予定のない情報を見せてもらったり、非公式に提供してもらうようなケースである。大気汚染や水質汚濁のシミュレーション共同研究や技術指導を行う際に非公開の発生源情報や環境モニタリング情報、気象情報、水文情報等を閲覧したり入手するケースもこれに該当する。

【ハイリスクと考えられる例】
最後にハイリスクと考えられる情報収集行為の例を挙げると、⑥自らまたは他人に依頼して中国国内で環境調査を実施し、サンプリング・分析することにより得た独自情報や、⑦政府機関等以外の組織が調査・発表(印刷物またはウェブサイトでの公開)している情報(特にNGOが調査・発表している情報)の収集などが該当する。⑥は環境大気および公共用水域の水質調査、自分が管理している土地以外の土壌・植物調査、廃棄物その他すべての調査等が該当し、採取した大気、水、土壌、植物、廃棄物等のサンプルを所定の手続きを経ずに国外へ持ち出すことはできない。反スパイ法のほか、中華人民共和国海外非政府組織国内活動管理法、気象法、水文条例、さらには核安全法、生物安全法、国家情報法などの関連法規にも抵触する。⑦は政府機関等以外の組織が非合法的に収集して発信している情報の可能性もあるし、それらの組織を通じて不法に情報を収集していると見なされ、連座責任を問われる恐れもある。

以上のように考察してみると、中国国内における環境情報の収集に関して、私たちは政府機関等が現に公開している情報や研究者が学会誌等で発表した論文、市販の書籍から得られる情報に頼らざるを得なくなる。中国国内で独自の情報を得ようと活動すればほとんどの場合関連法規に抵触することになるから、もはや手も足も出ないと言っても過言ではない。そして、仮に無事に収集できたとしても、それを国外へ持ち出そうとすれば、次にデータの越境移転に係る規制が待ち受けている。

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