続・世界のこんなところで頑張ってる!~公益信託地球環境日本基金が応援する環境団体第11回 マレーシア・ペナンでの漁民による植林活動の継承事業

2023年08月15日グローバルネット2023年8月号

特定非営利活動法人 パルシック マレーシア事業担当
大塚 照代(おおつか てるよ)

特定非営利活動法人 パルシック 民際教育担当
西森 光子(にしもり みつこ)

当団体は2010年からマレーシアのペナンで活動する漁民グループPIFWA(ペナン沿岸漁民福利協会)の環境保全活動に協力、支援をしてきた。きっかけは、当時、当団体が行っていた日本とアジアの小規模漁業や漁村についての調査である。調査で訪れたマレーシアで出会ったPIFWAが行っていた、漁民自身が木を植えるという活動は非常に珍しく、その貴重な活動に感銘を受け、調査の後に活動への協力を開始した。当初はPIFWAのマングローブ植樹活動を当団体が日本から資金面などで後方支援するのみであったが、2015年以降は、日本の高校生や大学生、またペナンを中心にマレーシアの中高生や大学生をPIFWAの植林教育センターや地元の漁村で受け入れて協働で教育事業も実施してきている。この記事では、PIFWAのこれまでの活動の概要と、新型コロナウイルス禍で実施した助成事業の概要、最後に今後の活動の展望について記述する。

 当団体は、アジア太平洋資料センター(PARC)として活動を開始したが、2008 年に団体を分割し、アジア太 平洋資料センター(PARC)とパルシック(PARCIC)の2 団体となった。この調査は、アジア太平洋資料センター 時に行ったものである

 

●PIFWAによるこれまでの活動

マレーシア国ペナン州は、かつては豊かなマングローブ林に沿岸を覆われていたが、急速な開発が水質の悪化を引き起こし、海洋生態系の劣化をもたらしている。零細漁民の団体、PIFWAは1994年に設立され、ペナンのマレー半島側のクリアン川河口のスンガイ・アチェ地域で伝統漁業を営む漁民が自ら環境保全に取り組んできた。具体的には、メンバーで協力して汚染水の流出状況や流出先をモニターして通報したり、マングローブの種から苗木を育てペナンの各地の漁民と共同で植林したりと、他の漁民グループと協力しながら活動を続けてきた。特に、マングローブの植樹活動は、団体設立から現在まで続けており、30万本以上の植樹を行ってきた。

●助成事業での活動(2020年4月~23年3月)

1990年代から精力的にマングローブの植林など河川の沿岸環境の保全や改善に努めてきたPIFWAであるが、活動の中心を担ってきたメンバーは高齢化してきており、その活動の担い手が減りつつある。メンバーの間で女性を含む幅広い住民が参加する活動へと転換する必要があるとの認識はあるものの、漁民グループという制約もあり、女性や若手住民などへと活動の担い手をうまく広げられずにきた。

そこで、本助成事業では、①地域の女性や若手住民がPIFWAの活動の意義を理解し、訪問者への説明や植林活動や環境保全ワークショップを開催できるようになること、また②海洋資源保全のために始めたマングローブ植林を、マレーシア国内の他の環境保全活動と結び付けられるように、マレーシア国内の他の環境保全団体と相互訪問して交流、意見交換する環境保全ワークショップを開催することを、3年間の事業内容の柱に掲げた。

しかし、新型コロナウイルスの感染が急拡大する中で事業を開始し、移動や集会の開催に制限がかかり、植林活動やワークショップの開催、他の環境保全団体との相互訪問・交流ができなくなったため、オンライン・ツールを生かしてオンライン環境保全ワークショップを実施するなど、活動内容を一部変更して、3年間の活動を行った。

(1)マレーシア人や日本の若者を対象に、オンライン・ワークショップを実施
 2020年度後半に、オンライン・ワークショップ開催の準備を進め、2021年と2022年の夏に日本の3校の大学生およびペナンの大学生60人がオンライン・環境ワークショップに参加した。植林活動を行うことはできないが、後述の(3)の動画教材を取り入れたことで、植林活動の様子やPIFWAのこれまでの活動についてわかりやすく伝えることができた。また、オンライン・コミュニケーションツールを使って、学生からの質問にもライブで答えることができ、臨場感のあるワークショップを開催できた。コロナ禍で海外渡航ができない中、オンライン上でも国外の環境保全活動について学び、意見交換でき有意義であったと、参加者からも好評であった。

(2)マレーシア国内の他の環境保全団体を招聘しながら、ワークショップを開催
 上記のオンライン・ワークショップでは、PIFWAや地域の女性や若者たちのみが参加するのではなく、他の環境保全団体もワークショップに招聘し、他の地域での環境保全活動についての講義や質疑応答を依頼した。そうすることで、ワークショップに参加していた日本やマレーシアの若者だけでなく、PIFWAや地元の若手や女性メンバーも、他の環境保全活動について学べる機会となった。

(3)オンライン環境保全ワークショップ用の動画教材を制作
 上記のオンライン環境保全ワークショップで、よりわかりやすくPIFWAの活動やその自然環境や周囲の暮らしについて伝えられるよう、1年次、2年次、3年次で動画教材を制作した。

(4)企業・学校・地域住民の植林活動への参加
 2022年度は、新型コロナウイルス感染拡大によって植林活動を中断していた企業や学校および地域住民に植林活動への参加を呼びかけて、365名が植林活動に参加した。日本からも大学生14名が現地を訪れ、植林体験と環境保全ワークショップに参加した(写真)。行動制限が解かれ、PIFWAの側も積極的に受け入れ姿勢を示したことで、再び植林活動が活発になりつつある。

植林教育センターでペナンの大学生と環境保全について話し合う日本の大学生(2022 年夏)

●今後の活動について

このように新型コロナウイルス禍での制約のある中での活動ではあったが、IT技術に長けた若者が中心となってオンライン・ワークショップを行ったことで、若手世代がワークショップの運営を中心的に担い、活動に積極的に参加することとなった。これは、事業目標に掲げたことの一つであり、今後ともこの流れを推し進めながら、PIFWAと協力して下記の活動を行っていく予定である。

(1)植林教育センターの修復と再活用について
 新型コロナウイルス禍で、マレーシア政府が厳しい行動制限を敷いたため、植林教育センターへの人の出入りがほとんどなかった。その結果、野生動物の繁殖により教育センターの建物や森林公園のように整備された植林地の破壊が進んだ。今後、それらの修復を行い、環境を整備することで、コロナ禍以前のように植林体験や野鳥観察、森林浴により多くの人びとが訪れることができるようにする。

(2)地域コミュニティとの連携を深める
 植林教育センターには、植林を体験し、学ぶために、国内外からたくさんの学生や社会人が来訪する。パルシックも植林体験と同時に、近隣の村でのホームステイを実施し、近隣コミュニティとの交流や近隣の学校の学生との文化交流など、地域コミュニティを巻き込んでの教育事業を実施してきた。今後とも、交流と並行して環境保全を行うことで、漁民グループだけの活動にとどめず、地域の環境保全活動となるよう周辺地域の住民の関心を高め、担い手を広げていく。

(3)活動を次世代に伝え、持続可能なものにする。
 気候変動によるかつてなかった激しいスコールや洪水などによってマレーシアでも土砂崩れなどが頻発しており、政府や人びとの環境保全に対する関心が高まっている。そんな中で、PIFWAは各地での講演や植林作業に呼ばれている。今後とも、PIFWAのこれまでの活動の経験知を受け継ぎ、持続的に行っていけるよう、次世代を教育していくことを大切にしたい。

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