特集/広がるリユース~循環型社会実現のための切り札~使い捨てない社会を目指して~リユースによる新たな循環システムとその効果

2023年10月13日グローバルネット2023年10月号

(一財)地球・人間環境フォーラム
天野 路子(あまの みちこ)、中畝 幸雄(なかうね ゆきお)

 これまで、国内のリユース容器は、主にお祭りや音楽・スポーツイベントなどで導入が進んできました。一方、世界に目を向けると、フランスでは循環経済法に基づき、段階的に使い捨てプラスチック容器包装の市場投入が禁止されることを受けて、ファストフード店などでリユース容器の導入が進み、台湾・台北市ではコンビニチェーンなどでリユースカップの活用が進んでいます。これらの国際的な動きに沿って、日本国内でも日常的なシーンで利用できるリユース容器のシェアリングサービスが生まれています。
 本特集では、広がりを見せるリユースの事例と、リユース容器の導入による環境負荷の低減を示すLCA 分析結果を紹介し、循環型システムへの転換による「使い捨てない社会」について考えます。

 

地球・人間環境フォーラムでは2000年代初めから、使い捨て容器に替えて繰り返し洗って使用する「リユース食器」「リユースカップ」などのリユース容器の普及活動に取り組んできました。お祭りやイベントを中心とした単発の利用から、近年では日常の場面も含めたさまざまな場所でリユース容器が活用されています。広がりを見せるリユースの事例と多面的な効果を紹介します。

非日常から日常へ

1990年代初めよりドイツのサッカー場やイベント会場で利用されていたリユースカップを参考に、国内でもお祭りやサッカー場など、単発のイベント会場を中心にリユース食器・カップの導入が広がっていきました。

京都市内で毎年7月15~16日に開催される祇園祭宵山では、2014年より毎年約20万個のリユース食器・カップが屋台などに導入されています。国内外から60万人にも上る観光客が来場する日本三大祭の一つとも呼ばれるお祭りで、2,000人近くのボランティアが参加し、大幅なごみ減量を達成しています。導入初年度は21.0%だった紛失破損率は2022年には3.5%となり、年々定着を見せています。翌週の7月24~25日に大阪市内で開催される、同じく日本三大祭りの一つと呼ばれる天神祭でも2017年よりリユース食器・カップが導入され、ごみの削減に寄与しています。

さらに学園祭や区民祭り、環境イベント、食のイベントなど、さまざまな規模のイベントでもリユース容器が使用されています。

自治体においても、住民向けにリユース食器のレンタルや利用料の補助を行うなど、リユースを普及させるための施策が行われています。例えば東京都は、2019年6月に「都庁プラスチック削減方針」(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/zeroemission_tokyo/strategy.files/plastic_strategy.pdf)を策定し、都主催イベントでの使い捨てプラカップの使用禁止を目指し、積極的にリユース容器の活用を進めています。

一方、コロナ禍で急増したテイクアウトやデリバリーに大量の使い捨て容器が使用された飲食店やカフェでも、さまざまなリユース容器のシェアリングサービスが始まっています(本号別記事参照)。

NPO法人スペースふう(山梨県)の「ホットス」は、おおむね産後0~6ヵ月のお母さんが利用できる、リユース容器によるお弁当宅配サービスです。容器を届ける・回収するという2回の接点がちょっとしたおしゃべりの機会として活用される、リユースのお弁当箱がつなぐ地域デザイン事業として好評を得ているそうです。

オフィスでのリユースカップの導入に関心のある企業も急増しています。マイボトルやマイカップを推奨しても、洗浄・保管場所が確保できない場合や、パソコンを持ち歩くようになり、ボトルが荷物になるため浸透しないという背景があり、従業員や来客向けに導入する例や、食品工場で利用されている例もあります。

こうして、日常的な場面でもリユース容器が利用されるようになり、今や洗浄施設が足りないという状況です。地域内に洗浄施設を設けて小さく循環させることが必須であることからも、当団体ではすでに洗浄設備を有している飲食店や給食施設、大学の生協など、通常業務の空き時間に洗浄委託できるような洗浄施設の開拓も進めています。

リユースがもたらす地域への効果

このように利用が広がっているリユース容器ですが、これまでの使い捨て容器による一方通行(リニア)型の消費システムとリユース容器による新たな循環型システムとの違いを見てみましょう()。

使い捨て容器は、大量に調達して短期間に消費し、大量の廃棄物を残すという消費システムです。使い捨て容器を地域外から調達する場合、お金を域外に払い続けます。大量に残る廃棄物を自治体が分別回収するコストや、処理コストがかかりますが、それらは住民の税金で賄われています。廃棄物の回収・焼却施設の耐用年数の問題や最終処分場の残余年数が迫る中で、新たな資源を消費し続け、廃棄物を出し続けます。

一方、リユース容器は使用した容器を回収して洗浄し、再使用するという循環を繰り返します。洗浄施設で新たな雇用が生まれる一方、廃棄物は大幅に減少し、その処理コストも少なく済みます。リユース容器を域内で循環させることで、地域外に流出する費用を最小化し、地域内で資金の循環をもたらす新たな循環型システムです。

使い捨てよりまずはリユースを

プラスチック問題への関心の高まりからも、使い捨てのプラスチック製容器を紙やバイオマスなどさまざまな別の素材に転換する動きが加速しています。プラスチックを減らすことは重要ですが、バイオマス原料を利用する場合は、食料との競合や生産地での環境社会問題を引き起こしていないか、生分解性プラスチックの場合は特別な条件下でないと生分解しないものではないかといった視点での検討も必要です。また、化石燃料由来の原料と合わせて作られている場合は、石油由来の成分のみが分解されずに残ってしまうことになり、異なる素材が混ざることによって従来のプラスチックと同様にリサイクルできずに焼却処理するしかありません。

優先すべきはリユース容器の利用による新しい循環型システムに切り替えることです。消費システムを変えるという大きな変革が必要になりますが、利用が増えれば洗浄や輸送が効率化され、利用者にとっても返却場所が増えるなどの利便性も高まります。リユース容器がさまざまな場所で当たり前に使用される「使い捨てない社会」を目指していきたいと思います。

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