特集/広がるリユース~循環型社会実現のための切り札~LCAで試算、リユースシステムの温室効果ガス削減効果

2023年10月13日グローバルネット2023年10月号

(一財)地球・人間環境フォーラム
天野 路子(あまの みちこ)、中畝 幸雄(なかうね ゆきお)

 これまで、国内のリユース容器は、主にお祭りや音楽・スポーツイベントなどで導入が進んできました。一方、世界に目を向けると、フランスでは循環経済法に基づき、段階的に使い捨てプラスチック容器包装の市場投入が禁止されることを受けて、ファストフード店などでリユース容器の導入が進み、台湾・台北市ではコンビニチェーンなどでリユースカップの活用が進んでいます。これらの国際的な動きに沿って、日本国内でも日常的なシーンで利用できるリユース容器のシェアリングサービスが生まれています。
 本特集では、広がりを見せるリユースの事例と、リユース容器の導入による環境負荷の低減を示すLCA 分析結果を紹介し、循環型システムへの転換による「使い捨てない社会」について考えます。

 

使い捨て容器の代替としてリユース容器を導入することは、廃棄物の発生抑制につながりますが、リユース容器は繰り返し使用するために洗浄が必要であり、運搬を伴う可能性もあることから、新たな環境負荷の発生を危惧する声も聞かれます。複雑化する環境課題の中で、廃棄物の減量のみにとどまらないリユースシステムの効果を示すためには、複数の視点から、公平性のあるデータを用いた分析が必要となります。

そこで、当団体では、リユースカップの導入によってどれくらい環境負荷を低減することができるのか、ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)による検証を行ってきました。LCAはある製品・サービスの資源採取から、生産・流通・消費・廃棄・リサイクルに至るまで製品の一生(ライフサイクル)を通じた環境負荷を定量的に分析、評価する手法です。環境省請負事業において、東京大学安井研究室の協力を得て、2003年に大分県のサッカー場でリユースカップが日本のサッカー場で初めて運用された際の利用条件を基に、使い捨て紙カップ使用の場合と比較しました。

使用回数による環境負荷の低減効果は、固形廃棄物は4.7回以上、CO2排出量は2.7回以上、水消費量も2.7回以上、エネルギー消費量は6.3回以上再利用すると紙コップより環境負荷が低減されるという結果になりました※1

※1 詳細は「平成15年度リユースカップ等の実施利用に関する検討調査報告書」を参照

オフィス利用を想定したLCA分析

リユースカップはサッカーの試合やお祭りなどのイベントを中心に単発(低頻度)の利用が中心でしたが、昨今のプラスチック汚染への危機意識や、気候変動対策の現実的な手段として、オフィスや街中のカフェや飲食店など日常の場面にも広がってきています。

夏から秋に集中する季節のあるイベントに対し、オフィスや工場では年間を通じて利用され、回収率も高く、より環境負荷の低い結果が期待されることから、囲みの定義を基にオフィスでの利用を例にLCAシナリオ分析を行いました。

洗浄時の負荷量

リユースカップの洗浄は利用ごとに行われる工程であることから、環境負荷量に大きく影響します。洗浄施設では、一般的に①下洗い、②業務用食器洗浄機による洗浄・すすぎ、③消毒保管庫を用いて乾燥、④検品・梱包という工程で衛生管理が行われています。今回の分析では当団体が事務局を務めるリユース食器ネットワークの参加団体である横浜市資源循環公社が実施する、上述の①~③までの工程における水や電力量等を1年間計測した実測値を引用しました。

2011年に横浜LCA 環境教育研究会に委託したリユース食器(どんぶり、皿)のLCA分析※2では、リユース食器の方が使い捨てのPSP(発泡ポリスチレン)容器よりも水の消費量が多くなったことからも、洗浄時に大量の水や電力、ガスを使用すると環境負荷量が使い捨て容器より高くなる可能性もあり得ます。また、冬季はお湯を沸かすためのガスやボイラーなどの使用量増などの季節変動があることから、年間を通じたデータの平均値を用いることで季節によるばらつきを考慮しました。その結果、1個のリユースカップを1回洗浄する際にかかる温室効果ガス排出量は約0.009㎏-CO2となりました。

リユース食器をはじめとする食器の衛生管理について、食品衛生法には「清潔で衛生的であること」と記載されているだけで、衛生管理の方法や数値的な指標や基準は設けられていないことから、洗浄施設により保有する洗浄機や消毒保管庫の種類など状況が異なります。衛生レベルと環境負荷量の両方を見ながら、最適な洗浄方法や工程を模索することも必要になります。

※2 reuse-network.jp/upload_documents/lci_report_ver3.pdf

洗浄委託の場合は輸送がポイント

リユースカップの洗浄をどこで行い、どのように洗浄施設まで運ぶかによって、温室効果ガス排出量が大きく異なることがわかりました。

1日に100個、年間累計2万4,000個(240日分)のカップをオフィスで利用するケースを想定、オフィスから片道20㎞離れた洗浄施設に250個(2.5日分)を自家用車(2トン車)で輸送すると、カップの輸送にかかる温室効果ガス排出量が使い捨て容器のライフサイクル(製造・廃棄)全体の温室効果ガス排出量よりも大きくなりました。

使用後のカップを洗浄施設に輸送する必要がある場合、毎回洗浄の負荷に加えて輸送時の負荷量がかかることから、いかに輸送にかかる負荷量を下げるかが重要です。20㎞ほど離れた洗浄施設まで自家用車で輸送する場合は、一度に約1,000個以上をまとめて輸送しなければ温室効果ガス排出量の削減にはつながらないことがわかりました。

輸送方法としては、イベント等へのレンタルに多く利用される宅配便を利用する方法もあります。理論上、宅配便は他の荷物も一緒に積載することから(本分析では積載率80%で計算)、温室効果ガス排出量を抑えることができ、使い捨て紙コップを利用する場合よりも1年間で413㎏-CO2を削減する試算となりました。

リユースカップの利用数に応じた宅配便の利用や、近隣でカップを利用する事業所の分もまとめて配送するなど、輸送時の負荷をいかに減らすがポイントになります。

輸送負荷がゼロになる社内洗浄

さまざまなオフィスでリユースカップの導入が広がっていますが、社員食堂やカフェなどが併設されていて洗浄できる場合は社内洗浄が行われています。

は紙コップと、リユースカップの利用回数に応じた温室効果ガス排出量を示したものです。リユースカップを3回以上繰り返し利用すると、使い捨ての紙コップよりも1回あたりの温室効果ガス排出量が低くなりました。年間累計2万4,000個のリユースカップの使用により、424㎏-CO2の削減につながると推計されます。

オフィスで毎日リユースカップを利用し、社内で洗浄して繰り返し使用する場合は、非常に短期間で使い捨て容器の利用時よりも温室効果ガス排出削減を達成できることとなりました。特に工場や倉庫など24時間365日稼働しているような場所での利用はさらに効果が高まります。小さな範囲で循環させることが望ましいことから、当団体では給湯室などにコンパクトに設置できる業務用食器洗浄機のレンタルなども提案しています。

今後は環境と衛生面のバランスを取りながら、リユースカップを安心安全に利用してもらい、環境負荷をさらに減らす工夫を行いながら、利用拡大を目指していきたいと思います。

 

タグ: