特集/レジリエントな社会構築のための気候変動適応策を考える未来のための気候変動適応を推進するために~設立5周年を迎えた気候変動適応センター

2023年11月15日グローバルネット2023年11月号

国立環境研究所気候変動適応センター センター長
肱岡 靖明(ひじおか やすあき)

 今年9月14日、NASA(アメリカ航空宇宙局)は今年夏(6~8月)の世界の気温について、1880年以降の記録で最も暑い夏だったという分析結果を発表しました。国連のグテーレス事務総長も7月の記者会見で「地球沸騰の時代が来た」と述べ、各国政府などに気候変動対策の加速を求めました。日本列島もかつて経験のない猛暑が続き、命に関わる異常気象を多くの人が実感することとなりました。
 地球上で気候変動による影響や被害が顕在化している状況、また、昨年から依然続いているエネルギー価格の高騰も踏まえ、日本でも気候変動への適応策を加速させる必要があります。本特集では、日本社会が今後レジリエントで持続可能な社会を構築するための国、自治体、市民の具体的な活動を紹介し、重要な柱となるべき気候変動適応策について考えます。

 

わが国において気候変動適応に関連する最初の総合的な報告書は、2008年6月に公表された「気候変動への賢い適応」でした。2013年7月には、中央環境審議会地球環境部会の下に設置された気候変動影響評価等小委員会は、日本で懸念される気候変動影響7つの分野を特定し、科学的知見に基づき、重大性、緊急性、確信度の観点から評価を行いました。この影響評価結果を受け、政府として初の気候変動適応計画となる「気候変動の影響への適応計画」が2015年11月に閣議決定されました。

このように適応への取り組みが進展していく一方で、気候変動影響が顕在化しつつある中、適応の必要性について理解が深まるとともに、政府や地方公共団体などさまざまな立場から適応策に関する法制度を求める声が強まってきました。これらの背景を受けて、気候変動適応法(適応法)が2018年2月20日に閣議決定され、国会に提出された本法案は衆議院および参議院いずれにおいても全会一致で可決されました。そして、同年7月20日に公布、同年12月1日に施行され、2023年に5年目を迎えます。適応法は、①適応の総合的推進?②情報基盤の整備?③地域での適応の強化?④適応の国際展開等の4つの柱を基礎とし、20条から成る三章で構成されています。

国立環境研究所(国環研)の役割

適応法第三章の第十一条に国環研の業務が規定されています。国環研は長きにわたり大学や所外の研究機関と連携し、「地球の温暖化影響・対策に関する研究」に取り組んできました。また、国際的な活動として気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第2作業部会(影響・適応・脆弱性)の報告書に複数の執筆者を輩出してきています。これまでの取り組みで得られた知見や経験を生かして、2016年に気候変動戦略連携オフィスを立ち上げ、同年8月に関係府省庁連携の下で気候変動適応に関する情報基盤「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT:Climate Change Adaptation Information Platform)」を立ち上げました。このような実績と能力から、適応法においてわが国の適応情報基盤の中核として、国環研には「気候変動影響および気候変動適応に関する情報の収集、分析、整理および提供」「都道府県又は市町村に対する地域気候変動適応計画の策定又は推進に係る技術的助言その他の技術的支援」「地域気候変動適応センター(LCCAC)に対する技術的助言その他の技術的援助」の3つの役割が規定されています。

気候変動適応センター

国環研は前述の3つの業務を推進するために、適応法施行と同日に「気候変動適応センター(Center for Climate Change Adaptation:CCCA)」を設立しました。CCCAは「気候変動適応推進室」、「気候変動影響観測・監視研究室(2021年度から「気候変動影響観測研究室」に室名を変更)」、「気候変動影響評価研究室」、「気候変動適応戦略研究室」の4室でスタートしました。第5期中長期計画(2021~2025年度)開始と合わせて「アジア太平洋気候変動適応研究室」を新設し、アジア太平洋地域の関係機関とのパートナーシップを構築し、2019年に立ち上げたアジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(AP-PLAT:Asia-Pacific Climate Change Adaptation Information Platform)の拡充・運用にも取り組んでいます。

CCCAは主に、【業務①】気候変動適応に関する地方公共団体やLCCACの活動支援、【業務②】情報基盤の整備、【業務③】気候変動適応に関する研究の推進の3つの業務に取り組んでいます。

業務①・②に関してこの5年間の主な取り組みを紹介します。

A)国への貢献:関連する複数の委員会への委員派遣や、事業へ専門家としての助言や提言。気候変動適応計画(2021年)策定や各種ガイドブック作成などへの貢献。

B)LCCAC支援:地域の気候変動適応計画策定や適応策推進、LCCAC、気候変動適応広域協議会に対する技術的助言と援助。地方公共団体職員・LCCAC向けの研修や意見交換会の実施。講演会への講師派遣、検討会や勉強会、気候変動適応広域協議会への委員やアドバイザーとしての参画。地方公共団体等が作成した計画やパンフレットに対する助言、研修教材やパンフレット等の提供。

C)連携:21機関が参画する「気候変動適応に関する研究機関連絡会議」およびLCCACの参加の下、「気候変動適応に関する研究会」のシンポジウムおよびワークショップの開催。気候変動リスク産官学連携ネットワークを立ち上げて事業者等との意見交換を実施。

D)国際協力の推進:アジア太平洋地球変動研究ネットワークに委員を派遣し、アジア太平洋地域における気候変動適応研究の人材育成に貢献。国内外関係機関との連携推進。毎年、気候変動枠組条約締約国会議(COP)において適応情報プラットフォームに関する国際ワークショップを主催。パリ協定の実施促進に有用な情報源としてGlobal Stocktake Information PortalへAP-PLATに係る情報を提供。

E)情報基盤の整備・拡充:〈A-PLAT〉府省庁や国立研究機関等の取り組み紹介の拡充、気候変動影響の将来予測データの追加、COPやIPCC WGII AR6の特集ページの公開等を行い、国内外の適応に関する情報発信を強化。子ども向けのサイト「A-PLAT Kids」の公開やA-PLAT英語版のリニューアル、スマートフォンアプリ「みんなの適応A-PLAT+」の開発、TwitterやFacebookを通じた情報発信の強化。〈AP-PLAT〉収集したCMIP6データや影響予測データのWebGISによる可視化・公開やAP-PLATのWebサイト改修。

【業務③】に関しては、戦略的研究プログラム「気候変動適応研究プログラム」や気候変動適応に関するLCCAC等との共同研究等に取り組んでいます。気候変動適応研究プログラムは3つのプロジェクトから構成され、さまざまな分野・項目を対象として、気候変動による影響の検出・予測、適応策実施による影響低減効果の評価、及びそれらの知見に基づく適応策の策定・実施に必要な手法開発や政策研究等を行っています。また、LCCACとの共同研究を立ち上げ、LCCACの活性化を図るとともにA-PLATへ地域センターを含めた研究活動情報の集積を目指しています。現在、6課題(情報デザイン、暑熱・健康影響、影響検出モニタリング、グリーンインフラ、自然湖沼、サンゴ礁)について共同研究を実施しています。

今後に向けて

適応法施行5年を迎え、2023年9月現在、59のLCCACが設置され、適応法第12条に基づき策定された地域気候変動適応計画は都道府県で47件、政令市で19件、市区町村で173件の合計239件に達しています。次の5年を見据えて、CCCAは次の5課題に重点的に取り組みます。第一に、中長期的な視点に基づいたLCCACの役割・機能とそれを実現するための取り組みの方向を整理し、地域における適応実践を強化します。第二に、事業者の適応を加速するために、多くの関係者を巻き込んだ実践的な支援に取り組みます。第三に、個人の適応支援に資するコンテンツ開発に取り組みます。第四に、AP-PLATの運営・開発を通じてアジア太平洋地域の関係者と本格的な連携を推進します。最後に、一から四の課題に取り組むためには、CCCAの研究力をさらに向上させていきます。

適応に取り組むべき主体や関連する分野は多様であるため、多くの関係者との協働が不可欠です。関係機関の皆さまのますますのご協力・ご支援いただきながら、CCCAは気候変動適応に関する国内の拠点として国内外の適応の取り組みにまい進していきます。

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