日本の沿岸を歩く海幸と人と環境と第80回  観光の魅力はスポーツ・自然・食+神話 宮崎県・宮崎市

2023年11月15日グローバルネット2023年11月号

ジャーナリスト
吉田 光宏(よしだ みつひろ)

日南市から海沿いを北上し、宮崎市に入った。波状の岩でできた「鬼の洗濯板」に囲まれた小島、青島(周囲1.5㎞)近くのゲストハウスに投宿し、到着日と翌早朝、弥生橋を渡って青島へ。橋までの途中に青島ビーチパークやカフェ、ホテルなど南国ムードが漂い、砂浜には「幸せの黄色いポスト」。この青島地区は近年、観光客や移住者が増えている注目のスポットだ。青島は神話の舞台であり、縁結びのご利益がある青島神社に通うカップルは幸せそうに見えた。

黄色いポスト(手前)と青島

●人気一番の新婚旅行先

高度成長真っただ中の昭和中期、宮崎県はハネムーンの聖地であった。海外旅行ブームや沖縄の返還の前で、新婚カップルの三分の一が訪れたという。日南海岸にヤシ科のフェニックスを植えたり大型観光施設を整備したりして、南国イメージによる観光振興を大成功させた宮崎交通グループ創業者で「宮崎県観光の父」、岩切いわきり章太郎(1893~1985)氏の貢献が大きい。

ブームの中作られた映画『100万人の娘たち』(1963)は、宮崎交通のバスガイドがモデルの青春恋愛映画で、舞台の宮崎空港、青島海岸、えびの高原などの宮崎県の魅力が全国へ発信された。男性コーラスグループ、デューク・エイセスが歌った『フェニックス・ハネムーン』も宮崎での新婚旅行に欠かせぬBGMだった。

その後、沖縄旅行や海外旅行が人気を集めると、宮崎県の観光ブームは下火に。観光県の復興を目指すことになり、その目玉が1994年、宮崎市に全面開業した巨大リゾート施設「宮崎シーガイア」(現在フェニックス・シーガイア・リゾート)だった。宮崎県や宮崎市が出資する第三セクターで総事業費2,000億円。

だが建設期間中のバブル崩壊、利用客数低迷、経営主体の変更などの変遷を経て、中核的施設の全天候型プール「オーシャンドーム」は閉鎖に追い込まれた。今年4月、その跡地にナショナルトレーニングセンターが誕生した。

こうした変貌ぶりを「宮崎に新しい風が吹き始めたようです」。市役所で観光戦略課係長の鎌田史郎さんは、力のこもった言葉で語った。

初めて訪れた青島の昔日は知らないが、宿泊先から青島への小道の脇には昭和レトロな土産物店や飲食店など何店か生き残っている一方で、植物園「宮交ボタニックガーデン青島」や高級感のあるホテルなどがあり、海外のリゾート地の雰囲気を感じる。昨年オープンした客室6室の超高級ホテルは、ウェブサイトの料金を見ると超富裕層を対象にしていることがわかる。

鎌田さんによると、宮崎県は全国的に「スポーツランドみやざき」として認知されている。温暖な気候はスポーツに最適だ。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で優勝した日本代表チームが宮崎市で行ったキャンプ(2月17~27日)には約18万人が来場、ホテルはどこも満室状態。ダルビッシュ有投手ら「侍ジャパン」に声援を送った。メディアに取り上げられたPR効果を加えた経済効果は70億円以上という。

今年1~3月の間、宮崎県内で春のキャンプ・合宿を実施したのは、プロ野球7球団やJリーグ17クラブを含む336団体、参加者は延べ8万8,424人。うち宮崎市はプロ野球3球団(巨人、ソフトバンク、オリックス)とJリーグは10クラブが合宿した。

ゴルフも人気だ。宮崎市内だけで15コースあり、ダンロップフェニックストーナメントや女子ツアー最終戦「リコーカップ」も開催される。

●サーファーの移住者も

盛んなサーフィンとゴルフを示す「サーフ&ターフ(芝生)」。南北に長い宮崎県の海岸線は、いい波が押し寄せるサーファーズパラダイスになっていることを示す。宮崎市内では木崎浜や青島のサーフポイントが有名。全国大会や世界大会も開催されている。

宿泊したゲストハウスで会ったサーファーの女性は、サーフィンの魅力に取りつかれて会社を辞め、1ヵ月ほどここでサーフィンざんまいだという。サーフィンを目的に移住者も増えている。

観光と仕事を両立させる「ワーケーション」や遊牧民のごとく各地を移動しながら働く「ノマドワーカー」も言葉が知られる以前から存在した。

さらに食の魅力もたくさんある。宮崎牛や地鶏、マンゴーなどの果物や野菜が有名で、水産物もイセエビなど新鮮な魚介類が豊富だ。「宮崎の食の宝庫」とされる繁華街「ニシタチ」はさまざまな味が堪能できる。

青島漁港にある宮崎市漁業協同組合直営の「漁師の味 港あおしま」に足を運んだ。注文した定食の汁には、イセエビの半身がど~んと入っていた。そういえば、鎌田さんが「地元では新鮮でおいしい魚は当然なのですが、来訪者に楽しんでもらう観光資源としても多くの方に知っていただければ」と話していた。

「漁師の味 港あおしま」の定食

宮崎市がPRに力を入れている青島近くの双石山ぼろいしやま(標高509m)もユニークだ。ハチの巣のような変わった形をした山は、照葉樹林や亜熱帯の植物、野鳥や動物の種類が豊富で、アウトドア派の関心を集めている。

●神話ブーム到来の予感

西郷隆盛が起こした西南戦争のほか、宮崎には鹿児島県からの分県運動、太平洋戦争時の空襲などの歴史がある。それでも宮崎といえば、やはり神話だろう。

青島参道南広場に「迩迩芸命ニニギノミコト木花之佐久夜姫コノハナサクヤヒメの家族団欒像」がある。迩迩芸命、木花佐久夜姫とその間に生まれた火照命ホデリノミコト(海幸彦)と火遠理命ホオリノミコト(山幸彦)ら3人の子が並ぶ。

『古事記』には迩迩芸命が天の国から初めて地の国に降臨したことが記されている(天孫降臨)。その場所は高千穂とされるが、高千穂町(宮崎県)なのか霧島(鹿児島県)なのか、今も結論は出ていない。山幸彦の孫である神倭伊波礼毘古命カムヤマトイハレヒコノミコトは、日向から大和の橿原(奈良県)へ移り、初代天皇の神武天皇となる。

宮崎県は「記紀編纂1300年記念事業」(記紀=古事記と日本書紀)と銘打って2012年から9年間キャンペーンを展開するなど、神話を生かした観光誘客に力を入れてきた。系図は少々複雑だし、漢字も読みにくいのだが、日本人のルーツに関わる神話は興味深い。

宮崎県内には神話につながる神社が数多くあり、宮崎市内にも宮崎神宮、青島神社、江田神社などがある。

一ッ葉地区にある江田神社を訪ねた。国生み神話で知られる伊邪那岐命イザナギノミコト伊邪那美命イザナミノミコトを祭っている。黄泉よみの国から戻った伊邪那岐命がけがれをはらった、みそぎ池がある。目を洗うと天照大御神アマテラスオオミカミが生まれたという。静かな池と周辺の松林。その切れ目に近代的なシェラトン・グランデ・オーシャンリゾートとコンベンションセンターが見えた。たまたまSNSの投稿にあった「モノの幸福感は一瞬、魂の幸福感は一生」を思い出し、神話と現代が共存する宮崎には、内側から人を幸せにしてくれる素材がいくつもあるように感じた。

お城ブームや御朱印のブームが続き、旅慣れた外国人は日本のディープな話題に目を向けてきた。神話のブームは、これからやってくるかもしれない。

みそぎ池

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