INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第81回 2023年度中国気候変動白書

2023年12月28日グローバルネット2023年12月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

去る10月27日、中国政府(生態環境部)は「中国気候変動対応政策と行動2023年度報告」(気候変動白書)を発表した。この白書は2008年10月に初めて発表されて以降、毎年10~11月頃、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)開催の直前に発表される。最近では白書の最後にその年に開催されるCOPに向けて、「中国の基本的立場と提唱」についても記載され、COPに臨む中国の対処方針を推測する上で大いに参考になる。私の手元の記録によれば、2008年の第1回白書は中国語のみならず、英語、フランス語、ロシア語、ドイツ語、スペイン語、アラビア語および日本語の8ヵ国語で作成され、同時発表している。このことからこの白書は中国国内向けだけでなく、国際社会に対する広報活動、特にCOP参加国に対する事前宣伝も狙いにしていると推察できる。

今年の白書は2022年以降の中国の気候変動対応の新たな進展と成果を包括的にまとめたもので、中国語版で全37ページの豊富な内容になっている。今回はその構成と概要について紹介したい。

前文
習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想、特に習近平の生態文明思想の指導の下で、最近の政策および行動が進められていることと2022年の主な実績について記述している。具体的には、①2022年の単位GDP当たりの二酸化炭素排出量は2005年に比べて51%以上低下、②2022年末には非化石エネルギーの消費割合は17.5%に達し、再生可能エネルギー総設備容量は12億1,300万キロワットに到達、③2021年の全国の森林被覆率は24.02%に到達、等である。

なお、白書には記載されていないが、発表時の記者会見で②に関連して、2023年上半期の再生可能エネルギーの総設備容量は13億2,200万キロワットに達し、総設備容量の約48.8%を占め、石炭火力の設備容量を(初めて)上回ったと紹介している。

1.中国気候変動対応の新しい配置と要求
全体的な計画調整の強化、グリーンで低炭素な発展方式への転換加速、ピークアウト・カーボンニュートラルを積極的・安全に推進、気候変動対応のグローバルガバナンスに積極的に参加、等の方針について簡潔に記述している。計画調整強化の一例として生態環境部は「気候変動対応重点任務(2023-2025)」を制定通知したことを紹介している。

2.気候変動を積極的に緩和
この部分は白書全体の中で10ページと最もボリュームを割いている。

(1)産業構造を調整
産業構造の最適化・グレードアップを積極的に推進し、高エネルギー消費・高汚染排出・低レベル(「両高一低」)プロジェクトの盲目的発展を厳格に抑制した。

(2)エネルギー構造を最適化
非化石エネルギーが大きく発展し、化石エネルギーのクリーン利用レベルが上昇した。新型エネルギー貯蔵の発展が加速した。

(3)交通運輸構造を調整
鉄道、水路貨物輸送の割合が継続的に上昇し、大口貨物のグリーン集約輸送割合が不断に増加し、中長距離輸送の「道路から鉄道、道路から水路への転換」を継続して推進した。

(4)省エネルギー効率向上を促進
工業分野の質と効率の向上を推進し、建築物のエネルギー効率レベルの向上を加速し、グリーンで低炭素な総合交通輸送体系を積極的に構築し、公共機関がけん引してグリーンで低炭素な行動を徹底して実行した。

(5)二酸化炭素以外の温室効果ガスの排出を抑制
メタンの排出を抑制し、フッ素含有温室効果ガスの排出を抑制した。

(6)生態システムの炭素吸収能力を統合的に改善
森林・草原の炭素吸収を高め、湿地の炭素吸収を増強し、農地土壌の炭素吸収を増加させ、海洋の炭素吸収を高め、カルストとその他の炭素吸収を発展させた。

(7)汚染物質排出削減と二酸化炭素排出低減(「減汚降炭」)のコベネフィット効果を推進
2022年6月に「汚染物質削減と二酸化炭素低減のコベネフィット効果向上実施方案」を制定通知する等、減汚降炭コベネフィット政策を(新たに)登場させて実施した。減汚降炭協同イノベーションパイロット事業を重層的積極的に展開し、環境質の改善と炭素排出の協同管理を強化した。

3.気候変動適応を主導

(1)「国家気候変動適応戦略2035」
2022年6月に17の部・委員会の連名で制定通知したほか、省レベルの気候変動適応行動計画編制ガイドラインを制定通知した。

(2)気候変動モニタリング早期警戒とリスク管理を強化
気候変動影響のリスク評価と管理を強化し、気候変動ハイエンドモニタリング早期警戒技術研究開発と応用を強化し、総合防災減災面での気候変動適応能力を強化した。

(3)自然生態システムの気候変動適応能力を向上
水資源、陸地生態システムおよび海洋と海岸地帯の気候変動適応能力を高めた。

(4)経済社会システムの気候変動適応能力を強化
農業分野、都市、健康分野および交通等のインフラ分野の気候変動適応能力を強化した。

(5)気候変動適応の地域類型を構築
防災減災救災資源配置の最適化等を実施した。

(6)重要な脆弱(ぜいじゃく)地域の気候靭性を向上
チベット高原および黄河流域の気候変動適応能力を強化した。

4.全国炭素排出権取引市場建設を加速推進

(1)制度枠組体系を初歩的に構築
法規制度体系を整備し、全国温室効果ガス自主削減取引市場メカニズムの整備を推進した。

(2)全国炭素市場取引が活発化
全国炭素排出権取引市場第一履行期間に発電業界の重点排出企業2,162社が参加し、履行完成率は99.5%であった。第二履行期間が全面始動した。

(3)炭素排出データの質管理を完備
炭素排出データ管理の制度規範を強化し、日常の監理監督業務メカニズムを確立し、法執行を強化した。

(4)管理とキャパシティビルディングを強化
全国炭素市場管理プラットフォームを構築し、研修とキャパシティビルディングを強化した。

5.政策体系と保障サポートの整備を継続
誌面の都合上、見出しだけ紹介すると、(1)立法、政策および基準の制定を推進、(2)経済政策を整備、(3)温室効果ガス排出統計計算モニタリング体系の建設を加速、(4)科学技術イノベーションサポートを強化、(5)人材養成を加速、(6)低炭素都市パイロット事業を深化、(7)グリーン低炭素全国民行動を展開、について記述されている。

6.気候変動対応のグローバルガバナンスに積極参加

(1)気候変動対応ハイレベル交流を深化
習近平国家主席の気候外交が全世界の気候ガバナンスの凝縮力を高め、ハイレベル対話の交流が政治コンセンサスを凝縮した。

(2)多国間気候変動交渉を推進
気候変動枠組条約とパリ協定等の主要ルートでの国際交渉プロセスに全面的に深く参加するとともに、条約外のルートでの交渉プロセスも協同して推進した。

(3)気候変動対応国際協力を強化
気候分野の多国間協力メカニズムを深化し、南南協力を積極的に進展し、手を携えて「グリーンシルクロード」を構築した。

7.COP28への基本的立場と提唱

中国は全力を挙げて開催地であるアラブ首長国連邦を支持し、大会を成功させる、とした上で、次の5点を提案している。

  1. 条約およびパリ協定の目標、原則および制度手配を共同堅持すること
  2. パリ協定履行状況の点検(グローバル・ストックテイク)を集中実施すること
  3. 発展途上国の長期的懸念に十分な回答を行うこと
  4. 公正なグリーン転換を実用的に推進すること
  5. 団結して気候変動対応に協力すること

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