IPCCシンポジウム報告 「IPCC第7次評価報告書へ向けて~未来のために今私たちが行動しよう~」AR6の振り返りとAR7に向けた展望〈発表3〉

2023年12月28日グローバルネット2023年12月号

芝浦工業大学工学部土木工学科教授(IPCC AR6 WGⅡ 第4 章LA)
平林 由希子(ひらばやし ゆきこ)さん

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、今年3月に第6次評価報告書(AR6)サイクルの統合報告書を公表し、7 月には議長団選挙が行われ、第7次評価報告書(AR7)サイクルが開始されました。
 本特集では、10月23日に東京都内の会場で対面方式・オンライン方式併用で開催されたIPCCシンポジウム『IPCC第7次評価報告書へ向けて~未来のために今私たちが行動しよう~』(主催:環境省)における、AR7 の副議長、第2作業部会(WGII)共同議長、インベントリタスクフォース(TFI) 共同議長の基調講演と、AR6報告書の国内執筆者によるAR6の振り返りとAR7に向けた取り組みや展望についての発表の概要を編集部でまとめ、報告します。
 なお、発表資料は、https://www.gef.or.jp/news/event/231023ipccsympo/をご覧ください。

 

前回の報告書に比べて、AR6のWGIIでは、証拠に基づく適応策についての記述が増えました。例えば水の章では、調べた文献1,891本のうち、適応策の効果が定量的に評価されていた論文は359本ありました。水に関する適応策の事例はすべての対象地域に存在しており、特にアジアやアフリカに多く見られました。水に関する適応策で最も多かったのは、グローバルサウスにおける農業に関する適応です。先進国の多いグローバルノースでは、都市セクターに関する適応策の事例が多く見られました。

適応策にどのくらい費用がかかるのか、適応が進まない場合にどのくらい被害が増加するのか、という記述も増えました。日本の研究者による研究も貢献しているのですが、水や食料などのセクターにおいて、全球の適応費用や気候変動による経済被害の推計が報告されました。

いくつかのセクターでは、適応の限界に達しつつあること、温暖化が進むと、さらに多くの場所、また多くのセクターで適応の限界に達する地域が増加することも指摘されました。例えば、島しょ地域や、融雪や氷河の融解水に依存する地域では、水資源がハードな適応限界になりつつあることが記述されています。また、3℃上昇という非常に温暖化が進んだ場合には、多くの地域で水管理がソフトな限界に達すると予測されており、ヨーロッパの一部では水がハードな限界に到達する可能性があります。

その他特筆すべきこととして、ティッピングに関する定性的な記述が初めて登場したことも挙げられます。ティッピング現象とは、南極やグリーンランドの氷床が崩壊するような、確率は低いが、万が一起きた場合の不可逆的な現象であり、人間と自然にとって大きな脅威となります。AR6では、このティッピングが万が一生じた場合の、海面上昇予測やその影響についても定性的な評価が行われ、温暖化がより進行したシナリオではティッピングが生じる可能性が増えることも指摘されました。

AR7までに必要な研究としては、まず、将来における適応の評価が挙げられます。例えば、AR6のWGIIにおける水の章では、適応の効果について体系的にレビューを行いました。しかし、現在までに実施された適応策の効果と、将来のリスクに対応するために必要な適応との間にはまだギャップがあると考えられます。また、過去に実施された適応策のオプションの多くは、現在の気候下において効果があることがわかっていますが、適応の限界に達する可能性など、将来気候においても有効であるかどうかについて、十分に評価できていません。リスクが非常に高い沿岸都市での定量的かつ詳細な気候変動リスクの評価も重要です。ティッピングについても、より詳細かつ定量的な影響評価をする必要があります。

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