マダガスカル・バニラで挑戦!~アグロフォレストリーでつなぐ日本とアフリカ第7回 協同組合という成功事例
2025年02月14日グローバルネット2025年2月号
合同会社Co・En Corporation 代表
武末 克久(たけすえ かつひさ)
前回話に出した協同組合。実はマダガスカル国内で成功事例として知られています。今回はバニラの生産者であるこの協同組合のことを紹介します。まずは、組合のディレクターと組合員である農家に対するインタビューの記録から始めます。
●規模の拡大よりも持続可能性

協同組合のディレクター、セルジ
セルジは協同組合のディレクター。事務方のトップです。元々は農家でしたが、協同組合設立以来、この運営に携わっています。口数が少なく、一見とっつきにくそうなのですが実は優しい人です。歌と踊りが好きで、一緒にカラオケに行って歌ったりもします。
質問:一番大切にしていることは何ですか?
セルジ:組合を持続可能なものにしたいと思っている。組合の規模を拡大させることにはそれほどこだわっていない。それよりも、組合員のやる気をどう引き出すかが大切だと思っている。
質問:いま力を入れていることは何ですか?
セルジ:若手の教育に力を入れている。若手の教育については、組合から奨学金を提供して大学に送り出している。若者に大学でしっかり勉強してもらい、それを組合にフィードバックしてもらいたいと思っている。
質問:楽しみは何ですか?
セルジ:新しいお客さんを見つけるのが喜びだ。私たちにはまだまだキャパシティーがある。もっと市場を拡大させて、いろいろな国でたくさんの人に私たちの製品を楽しんでもらいたい。
●息子に跡を継いでほしいと思うようになった

組合員の農家、ジョセフ
ジョセフの家は、代々農業を営んできました。彼自身は1975年から農業に従事。2009年から協同組合に加入しています。私がマダガスカルで一番初めに訪れたのが彼の畑でした。ジョセフには、3人の娘と1人の息子がいますが、息子には農業を継がせたくないと思っていたそうです。農家の社会的地位が低く貧しいからです。しかし、協同組合に加入してその考えが変わったそうです。
協同組合に加入してから、ジョセフは収入が増えたと言います。稼いだお金は、家族の健康や教育に使いたいとのこと。新しいバイクを買ったことを自慢していました。作物を運ぶのが楽になったそうです。また、「ヨーロッパやアメリカでは農家は裕福だと聞いた。自分もそうなりたい」。そう話してくれました。
質問:なぜ協同組合に加入したのですか?
ジョセフ:協同組合は収穫した作物の全量を買ってくれる。売り先が確保できるからなんだ。
質問:協同組合に加入して良かったことは?
ジョセフ:売り先が確保されること、技術的な指導をしてくれたり生産量を上げるように後押ししてくれること、作物を一般的な価格よりも高く購入してくれること、かな。日本からわざわざここまで来てくれるだけでもすごくうれしいよ。僕らが育てたバニラが日本でも買ってもらえたらこれほどうれしいことはないな。
●協同組合の仕組み
私たちが取引している協同組合は、2008年にフランスのNGOの支援を受けて設立されました。500を超える農家が参加しています。現在支援は終了し、マダガスカル人だけで自立的に運営されています。運営は民主的で、年に数回開催される組合員(農家)による総会が最高の意思決定の場です。また、組合員から理事が選出され理事会が組織されて、ここで日々の運営の判断がなされています。理事会とは別に事務局があり、組合の運営を担っています。日本の一般社団法人によく似た組織構造です。
事務局は組合の運営業務や事務管理を行うとともに、アグロフォレストリーを導入、普及させるための技術的指導や苗の提供、作物の買取、売買のあっせん、バニラビーンズ、コショウ、シナモン、クローブといった香辛料の加工、販売、輸出を行っています。協同組合はフェアトレード認証、オーガニック認証、GLOBALG.A.P.認証を取得しており、事務管理能力は高いといえます。このディレクターが前出のセルジです。
組合員に「協同組合に参加して良かったと感じることは?」と尋ねると、「技術的な指導をしてくれること」と話す人も多いのですが、最初に挙がるのは「生産物を買ってくれること」という回答です。組合にとっての最重要任務は、作物の売り先を確保することのようです。バニラビーンズ、クローブ、ライチが主要な輸出品で、フランスとドイツに販路を持っていますが、それ以外の輸出先を常に探しています。バニラビーンズでいうと、価格が高騰した際に販売先が私たちだけになったこともあり、まだ安定しているとはいえません。輸出できない場合は国内に安価で流通させるしかなく、日本への輸出量を増やすことで彼らの取り組みを支えることができる、その余地は大いにあると感じます。
●成功の要因
私が観察する限り、彼らの成功要因としては主に次の4つが挙げられます。まずはリーダーの養成がうまくいったこと。ディレクターのセルジは組合設立当初からリーダーとして活躍しています。組合の運営や販売先の開拓をするだけでなく国外で開催される国際会議に参加することもあります。安定したリーダーの存在は組合の持続的な活動にとって欠かせません。
組合の運営がとても民主的であることも要因の一つだと思います。理事会や総会だけではなく、ワークショップを開催するなどして組合農家の声をくみ取っています。会合には老若男女が集まります。年配の人だけではなく若者も積極的に意見します。また女性の参加が多いことにも驚かされます(ちなみにマダガスカルの2024年のジェンダーギャップ指数は0.72で世界66位)。私がグリーンバニラを注文したときは、どの地域からどの程度の量のグリーンバニラを出すか(販売するか)を各地域の代表者が集まり話し合っていました。
また何より、販売先を確保できていることがもっとも大きな成功要因だと思います。農家にとって一番の関心は自分の収入を増やすことです。組合はこの声に応えなければなりません。協同組合は作物の加工と輸出までを手がけています。マダガスカルには農家による協同組合は多く存在しますが、加工、そして輸出まで行えているところはまれです。立ち上げ当初からヨーロッパへの販売ルートが織り込まれていたこと、そしてそれが今も継続していることが組合にとって非常に大きな財産になっています。
売り上げの一部を使って、井戸を掘ったり、学校や道を整備するなど地域社会に貢献していることもまた、別の要因として挙げられます。これらの活動を通して地域からの支持を得ています。
そして、アグロフォレストリー(森林農法)を奨励していることも彼らの成功の秘訣でしょう。そのための技術的な指導体制も整っています。組合員はアグロフォレストリーを導入することで収入が安定します。地域に森が広がることは、実は農家の人たちにはあまり評価されていませんが、長期的には必ずそのメリットに気が付くはずです。
ここに挙げた5つの要因のうち最初の4つは一般的なことかもしれませんが、最後のアグロフォレストリーにはなじみがない方も多いでしょう。次回は、このアグロフォレストリーについて詳しく説明します。