どうなる? これからの世界の食料と農業第16回 キャベツ価格高騰が意味するもの~野菜と気候変動

2025年02月14日グローバルネット2025年2月号

農家ジャーナリスト、NPO法人AMネット代表理事
松平 尚也(まつだいら なおや)

食卓でよく利用される便利野菜であるキャベツの価格が高騰している。特に高騰が著しかった首都圏においては、キャベツ1玉が1,000円を超え、メディアで連日話題となった。野菜に加えて主食のコメ価格も高騰が続いており日本の食卓の基盤を揺るがしかねない状況である。その原因とは何だろうか? キャベツを入口にその背景を気候変動との関連から考える。

●キャベツ価格高騰の原因

キャベツ価格高騰の原因として農業関係者が指摘するのが、昨年の夏と秋の高温、そして冬の低温とキャベツ産地での干ばつである。特に昨年12月の関東圏での少雨は野菜生産に大きな影響を与えた。雨が降らなければ水やりすればよいという声もあるかもしれない。しかし雨が少ないと畑が乾燥し水が土の中に浸透しにくくなり、水やりしても野菜の根っこまで水を届けるのが難しくなる。また葉に水をかけると、病気の原因になってしまい、さらに畑の水分が少ないと養分吸収にも影響してしまう。さらなる課題は、キャベツの生育には適期に水分がないと後から水やりをしても大きくならない特徴を持つことである。こうした異常気象の影響によりキャベツの生産と流通量が減少し、価格高騰を招いてしまったのである。

キャベツの主な産地は、群馬県、愛知県、千葉県、茨城県などである。その生育適温は15~20℃で、比較的涼しい環境が適している。キャベツの生産は、南から北へ産地をつなぐリレー出荷や、作り方を多様化することで、年中安定した供給体制が築かれてきた。

国産キャベツについて紹介するためにその生産地の基本を共有しておこう。キャベツは、出荷時期によって、大きく春キャベツ、夏秋キャベツ、冬キャベツに分類される。4~6月に収穫期を迎える春キャベツは、千葉県や神奈川県などの海洋性気候の暖かい地域で生産される。夏秋キャベツは、7~10月に収穫され、群馬県や長野県の高原地帯、そして北海道や岩手県などの冷涼地で栽培されている。冬キャベツは、11月~翌3月に収穫され、愛知県や神奈川県などが主な産地となってきた。

キャベツ価格高騰のもう一つの原因は、上述のキャベツ産地で天候不順が影響し、小玉のキャベツが増えてしまったことにある。キャベツは家庭用消費と並んで加工・業務用向けの消費が多い。カット野菜などを手掛ける野菜加工メーカーにおいては、野菜のカット作業が機械化されており、大玉キャベツを必要とする。そのため市場で大玉のキャベツが不足し、価格が高騰する原因となってしまったのである。

1月中旬、サラダ向けのカット野菜を販売する大手メーカーは、キャベツの供給量減少により千切りキャベツなどの商品の量を減らすと発表した。キャベツの確保が難しいと見通したためだ。カット野菜事業者は、対策として海外からの輸入を増やしており、1月中旬までの輸入量は前年同月の12倍と激増した。

キャベツの輸入元のほとんどは中国で、その主な産地は山東省である。ただ中国産のキャベツ価格も高温の影響により平年比で約6割高であり、安定して輸入できる状況にはない。野菜加工メーカーは、今後は安定供給のためにベトナム産や韓国産のキャベツを輸入していく予定だというが、そもそも日本のキャベツ供給量の99%が国産であり、キャベツ輸入はあくまでも補完的なものに過ぎない。

価格が高騰している野菜は、キャベツにとどまらない。農林水産省が1月中旬に発表した野菜の食品価格動向調査では、キャベツが平年比約3.3倍、ハクサイ2.2 倍、レタス8割高、ダイコン7割高と冬野菜全般の価格が高止まりする異常事態となっている(表1)。多くの産地では、昨年の夏の猛暑や秋の高温により野菜の生育が不安定化し、品質不良が相次いでいる状況だ。気候変動による野菜生産の不安定化が顕著になってきていると言ってよい。

●野菜価格・供給の安定を目指した指定野菜制度

歴史をひもとけば、日本では1960年代、農村から都市に人口が移動し都市化が急速に進み、野菜の供給が不足する時代があった。物価の高騰の原因が野菜である、と言われたほど野菜全体の価格が高騰したのである。その中で国が導入したのが指定野菜制度であった。この制度の目的は、消費量が多い野菜について価格とともに、野菜の産地を指定し、日本中で産地リレーして供給を安定させることにあった。

現在の指定野菜は、キャベツ、キュウリ、サトイモ、ダイコン、タマネギ、トマト、ナス、ニンジン、ネギ、ハクサイ、ジャガイモ、ピーマン、ホウレンソウ、レタスの14品目である(表2)。また2026年度からブロッコリーが追加される予定だ。農水省は、指定野菜の安定的な出荷を図るために、「野菜生産出荷安定法」を施行し北海道から沖縄県まで、全国で約870産地を指定している。この法律で重要なのは、指定野菜の価格が下落した際に農家に支援を行い野菜農家の収入安定を目指してきた点である。

近年の気候変動は、こうした指定野菜の制度の想定を超えたスピードで進行している。つまり、いくら野菜産地のリレー栽培を行っても日本全体で天候不順が常態化しているため、野菜価格が乱高下し食卓を直撃しやすくなっているといえるのである。

●食の格差にどう対応すべきか

その中で考えなければいけないのは、食の格差の課題である。最近、値上がりしている食品に加えてコメや野菜を買い控えているという声をよく聞くようになった。中でもコメは前回説明した通り、消費量が年々減少しており、日本の水田の4割を休ませている。価格高騰により消費が減少するというのは本末転倒なのである。野菜についても消費が減って加工食品などに消費が移る可能性もあり、人々の健康への影響が懸念される。

こうした気候変動による農業や食料への影響と食の格差の課題は、今後の食と農を巡る大きな論点となっている。農水省は、その課題と向き合い、対応策を練っていく必要があると考える。その対応策について私からの差し当たりの提案を紹介しよう。

まず食の格差が明らかに起こっている中で、関係する行政や関係者が協力して主食のコメを中心に必要な人々に配布できるようにすべきである。これまで食料配布については、NPOや市民団体が中心となって担ってきた。しかし食料配布を必要とする人々が増える中で、実態の調査とともにまずはノウハウがある団体に事業として委託して食料の適正な配分を目指すべきである。

実際、食の格差が広がる米国においては、食料支援が農務省予算の約7割を占め、さまざまな形で支援策が行われている。私たちはキャベツ価格高騰から気候変動と農業、そして食の格差といった新たに出現している課題について考え、日常の食卓や行動を見直していく必要があるといえるだろう。

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