環境条約シリーズ 398電池・廃電池による悪影響の防止 新EU電池規則

2025年05月21日グローバルネット2025年5月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

今日の世界において電池は欠かすことのできない動力源であり、また、気候変動対策や循環経済への移行における中核技術である。他方で電池は、原材料の採取から加工・製造・流通・使用・回収・再使用・用途変更・再利用・廃棄・原料取り出し・処分までの各段階において社会(人権)・環境面の悪影響を生じさせている。電池の世界需要は近年急増しており、その需要の17%をEUが占めている。それを受けて、EUは新しい電池規則を23年7月12日に採択した。

本規則は、EUの循環経済・汚染ゼロ政策に則しており、上記の全段階を通じて電池による悪影響の最小化を目的とするとともに、競争力のある持続可能なEU電池産業の振興、清浄な動力源への移行と輸入燃料からの自立も目指している。その適用対象は、携帯用、電気自動車用、始動・点火・照明用、簡易移動手段(電動自転車・電動スクーターなど)用、産業用などの全ての電池(充電の可否を問わず)であり、身近にあるものも多い。それらの適切な回収に向けて、携帯用電池(63%:27年、73%:30年)、簡易移動手段用電池(51%:28年、61%:31年)などの目標回収率が定められている。また、希少金属等の目標取り出し回収率については、リチウム(50%:27年、80%:31年)、コバルト・銅・鉛・ニッケル(90%:27年、95%:31年)などと設定されている。

EUで電池を上市しまたは提供する事業者には、電池に関する「相当の注意義務」が定められており(本誌24年3月)、上記悪影響の特定・防止・対策のために、経営管理・危険性管理の制度、第三者の検証・監査制度を取り入れ、情報公開を尽くさなければならない。そのほか、製品組み込みの携帯用電池を使用者が簡単に取り外し・交換できるようにすること、また、電池の構成原材料・再利用原材料、製造工程における温室効果ガス総排出量などをQRコードで表示すること(13条、3条1(24))も義務付けられている。

本規則は23年8月17日に発効し、設定された義務は一部を除き24年2月18日から適用された。

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