ホットレポートFIT対象のバイオマス燃料に持続可能性要件を~バイオマス発電に関する共同提言

2019年08月16日グローバルネット2019年8月号

地球・人間環境フォーラム
飯沼 佐代子(いいぬま さよこ )

●再生可能エネルギーと私たち

電気を購入しているすべての世帯や企業は、再生可能エネルギー(再エネ)発電を促進するための賦課金として、4人世帯で年間8千円から1万円ほどを支払っています。これは2012年、東日本大震災に続く原子力発電所の停止による電力不足と、長期的な再エネの促進のために経済産業省が始めた「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)」によるものです。FITでは電力会社に決められた価格で再エネを長期間買い取るよう求めており、コストの一部を利用者が賦課金により負担します。再エネには太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、中小規模水力などが含まれ、バイオマス発電は20年間、同じ価格で電力を買い取ってもらうことができます。

化石燃料や原子力など従来の主要電源に頼るのが難しくなった現在、再エネ促進制度は非常に重要ですが、一方で「再生可能エネルギー」ならば何でも環境・社会に良いわけではないことが指摘されてきました。

●バイオマス発電に関する共同提言の内容

7月16日、当フォーラムでは森林減少や気候変動、再エネ問題に取り組んできた他団体とともに、「バイオマス発電に関する共同提言」を発表しました。提言では、バイオマス燃料の多くは化石燃料と同じもしくはそれ以上の温室効果ガス(GHG)を排出することを指摘し、「燃料生産の全工程(ライフサイクル)でのGHGの排出量が天然ガスと比べて50%未満」「森林減少・生物多様性の減少を伴わない」「森林減少などの影響がすでに指摘されているパーム油や大豆油を使用しない」「人権侵害を伴わない」などを、FIT対象のバイオマス燃料の要件として挙げています(下記参照)。

バイオマス発電に関する共同提言
1. 温室効果ガス(GHG)の排出を十分かつ確実に削減していること
2. 森林減少・生物多様性の減少を伴わないこと
3. パーム油などの植物油を用いないこと
4. 人権侵害を伴っていないこと
5. 食料との競合が回避できていること
6. 汚染物質の拡散を伴わないこと
7. 環境影響評価が実施され、地域住民への十分な説明の上での合意を取得していること
8. 透明性とトレーサビリティが確保されていること

詳しくはこちらのURL をご覧ください。

●バイオマスはカーボン・ニュートラルか?

植物は成長過程で二酸化炭素(CO2)を取り込むため、植物由来のバイオマスを燃やしCO2を排出してもプラスマイナスでゼロとする「カーボン・ニュートラル」という考え方があります。2006年のIPCCガイドラインに基づいていますが、実際に植物がCO2を固定するには長時間が必要で、樹木の場合には数年から数十年かかる一方、蓄積した炭素は燃やすと瞬時に放出されます。バイオマスがカーボン・ニュートラルであるのは、成長の時間というタイムラグを無視しており、短期的にはCO2排出量が増えます。

パリ協定の長期目標である、温度上昇を2℃未満に抑制するためには、これからの数十年が最も重要で、過去に植物が固定したCO2を放出することは、温度上昇の抑制をより難しくすることになります。

●温暖化を加速するバイオ燃料

バイオマス燃料の中で、最大の問題として議論されているのがパーム油です。アブラヤシの実から採れる植物油で、主に加工食品、洗剤・化粧品などの工業製品に使用されています。西アフリカ原産ですが60年代からマレーシアとインドネシアでの生産が急増し、現在ではこの2ヵ国で世界の生産量の8割強を生産しています。世界の年間生産量は6,600万tに上り、パーム油生産のために熱帯林が大規模に開発され、世界有数の生物多様性の急速な減少が問題になっています。さらに、熱帯の低湿地に広がる「泥炭湿地」が開発され乾燥することで、何万年もかけて熱帯林が水中に蓄積してきた大量の炭素が放出されます。乾燥した泥炭は非常に燃えやすく森林火災の要因となっています。泥炭湿地は地球温暖化への脅威として「地球の火薬庫」と呼ばれています。泥炭湿地を開発して作られたパーム油のライフサイクルでのGHG排出量は泥炭湿地に由来しないパーム油の139倍にも達し、石炭のGHG排出量をも大きく超えてしまいます。経産省は現時点で、FITの対象として「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」による認証パーム油のみを認めています。しかしRSPO認証油であっても、泥炭湿地の開発をしていないことの保証はなく、パーム油による発電は、泥炭地の開発により膨大なGHGの排出に結び付く可能性があるのです。

日本のパーム油消費量は年間75万t程度ですが、現在国内で使われている発電向けパーム油は約13万t、進行中の案件を合わせると30万t超となり、日本の消費量を約1.5倍に押し上げることになります。FIT対象のパーム油が仮に泥炭開発と無縁でも、燃料利用は新たに大きな需要を生み出すため、従来用途を圧迫することになり、間接的に泥炭地開発や森林減少を進める可能性があります。

●輸入燃料とFIT

FITでの一般木質バイオマス発電の調達価格は、2016年度までに認定を受けた場合、24円/kWhと太陽光や風力に比べても有利な価格でしたが、17年度には21円、18年度以降は入札制度となりました。このため、16年度はバイオマス発電の駆け込み認定量が急増し、その多くが輸入燃料由来でした。元来のFITの目的であるエネルギー自給と地域振興のためには、国産の未利用材など地域内の資源をエネルギー源として発電することが重要です。しかし国産の未利用木材を利用はコストが高くかつ安定調達が困難です。そのためパーム油の他、アブラヤシの核殻(PKS)やカナダ、ベトナムからの木質ペレットに依存する発電所の認定が多数を占めますが、これらを日本へ輸入するために、多くの燃料を必要とします。PKSや製材廃材などの副産物、農業残渣などを、燃料として利用することは生産地においては有効活用になりますが、遠隔地から多大なGHGを排出して輸送した燃料は、再生可能エネルギーとして不適切です。

●バイオマス発電と社会問題

アブラヤシ農園は生産国での急速な開発・拡大により土地をめぐる地域住民との紛争が起きている例が数百件も報告され、農園での強制労働、児童労働など労働者の人権侵害も問題となっており、RSPOではこれらの問題への対策が長年議論されています。

日本でも住民とのトラブルが起きています。バイオマス発電所は小規模なものが多く、環境アセスメントの対象外となり十分な情報公開と住民参加の機会がないまま操業が始まる例もあります。小規模でも、悪臭や騒音に悩まされる住民の反対運動に発展した発電所もあります。情報公開や住民参加の機会を定めている環境アセス法の火力発電所の要件(11.25万kW)をわずかに下回る規模の発電所の設置が急増していたり、自治体が独自に定めた環境アセスメント条例の交付直前に申請を出し、その後数年間着工しないなど、環境アセスメント逃れと思われる案件も見られます。

国のエネルギー基本計画では、バイオマス発電に地域との共生や地域活性化に資すること、燃料の安定調達とともに持続可能性の確認を求めています。GHG排出量を増やし、燃料生産地の環境を破壊し、人権・労働問題があり、発電所周辺の住民を公害で苦しめているとしたら、持続可能な再生可能エネルギーとはいえません。私たち利用者は何のために賦課金を支払っているのでしょうか。

バイオマス燃料の認定急増と、上記のような懸念から、経産省は今年「バイオマス持続可能性ワーキンググループ(WG)」を設置し、持続可能性の担保について議論を始めています。環境団体はこれを歓迎し、真に持続可能で再生可能なバイオマスエネルギーの利用促進に向けた今後の議論の流れに注目しています。

タグ: