食卓からみる世界-変わる環境と暮らし第13回 人口増加と気候変動で変わる首都フナフティの暮らしと食

2019年08月16日グローバルネット2019年8月号

NPO法人ツバル・オーバービュー 理事兼駐在員
河尻 京子(かわじり きょうこ)

南太平洋に浮かぶサンゴ礁の国、ツバル。気候変動による「海面上昇で沈む島」とメディアで紹介されるこの国には、1万782人が暮らしている。九つの島(北よりナヌメア、ナヌマンガ、ニウタオ、ヌクフェタウ、ヌイ、バイツプ、フナフティ、ヌクラエラエ、ニウラキタ)から成り、総面積は26km2と伊豆諸島の新島と同じくらいの大きさである。ほとんどの島が環礁であるため、平均海抜は約1.8m、一番高いところでも3mととても国土が低い。

国際空港や政府庁舎がある首都フナフティは環礁の面積は2.8km2、その中の一つフォンガファレ島に全人口の57%に当たる6,152人が住んでいる。1978年にイギリスより独立すると、離島よりフナフティに人が流れ込み、1973年には871人しかいなかったフナフティの人口が、2012年にはその約7倍に増加した。現在フナフティ島出身の人の数は1,111人しかおらず、離島からの移住者の数が圧倒的に多くなっている。そんなフナフティの暮らしと食の変化を紹介したい。

●ツバルの主食、「プラカイモ」

南太平洋では、ヤムイモ、タロイモやキャッサバなどイモが主食である。ここツバルでは、プラカイモを主食としている。日本ではあまり聞きなれないこのプラカイモは、ズイキの仲間で、人間の背丈より大きく育つ。

各家庭ではプラカイモを大きく育てる門外不出の秘訣が代々伝えられており、昔は祭りなどでプラカイモの大きさの競い合いをしていたと聞く。収穫時イモの大きさが1m近くに達するものもある。

離島より送られて来たプラカイモ

●ツバル人が愛するプラカイモ料理「フェケイ」

プラカイモの食べ方は、ゆでてそのまま食べる、ゆでたものをココナツミルクであえるなどいろいろあるが、ツバル人の間で人気があるのが「フェケイ」である。

プラカイモをすり下ろして、ココナツの樹液を煮詰めて作ったシロップと混ぜて、パンの木の葉っぱなどに包み火に通すと完成である。

すり下ろしたプラカイモに混ぜるシロップは、毎日少しずつココナツの芽を切り採取した樹液を煮詰めたものである。煮詰めると赤い色になるのでカレベクラ(赤いカレベ)と呼ばれる。食感としては、ほんのり甘くモチモチしている。「フェケイ」が大好物というツバルの人は多い。

島コミュニティー集会場の完成を祝うパーティー。「フェケイ」はこういう機会にしか食べられなくなっている。

●特別な機会でしか食べられない理由

現在、この「フェケイ」は、各島の大きなお祭りや集まりでしか食べることができなくなってきている。それには、理由がいくつかある。

1.プラカイモ畑の減少と人口増加

第二次世界大戦中、1942年にキリバスのタラワに南下した日本軍と戦うため、フナフティに米軍が進駐した。その際、沼地やマングローブの林とともにプラカイモ畑を埋め立て、滑走路を建設した。そのためフナフティの人が自給自足するために必要なプラカイモ畑がなくなってしまった。そして、プラカイモを栽培する人も減ったそうだ。

さらに、1978年の独立以降、仕事などを求め離島から人口が移動し、首都に集中してきたため、フナフティでは自給自足の生活をすることが不可能になってしまった。ツバルは、もともとその島の住民だけがその島の土地を所有することになっているため、離島から移住してきた人は、フナフティの人から土地を借りて生活することになる。そのため離島の人にはプラカイモを栽培する畑がフナフティにはなく、プラカイモを栽培する知識はあっても栽培できない状況となっている。

2.輸入米の普及

このような背景もあり、ツバルでは、現在、米、小麦、砂糖、鶏肉、野菜など食料のほとんどを海外から輸入している。とくに離島からの移住者が激増し、人口密度が高くなっているフナフティでは、輸入品がなければ生活できない。

もちろん主食もオーストラリア産の米に取って代わっている。これには、プラカイモ畑が減少したという理由以外に、米の調理の手軽さもある。洗って水と一緒に鍋で炊けばお腹いっぱい食べられる海外からの輸入米に比べると、プラカイモの調理は、手間と時間と体力が必要となる。仕事と家庭、育児、そして、島コミュニティーの活動に忙しいフナフティの日常生活の中で、プラカイモを調理する選択肢はほとんどないに等しい。

3.気候変動の影響

気候変動による海面上昇や干ばつ、サイクロンの影響は、数少なくなったプラカイモ畑にさらに追い打ちをかけている。

毎年2月あたりに見られるキングタイド(極端に大きな潮の満ち引き)の時期には、メディアでもよく紹介される、地面から海水が染み出す現象が見られる。海面上昇の影響もあるのか、この海水が染み出す日数が増えてきているというデータもある。2月はサイクロンのシーズンでもある。キングタイドの満潮時と重なると、波しぶきが道路に流れ込み、近隣の家屋にも影響が出る。プラカイモ畑にも海水が流れ込み、イモが育たなくなってしまう。また、塩害に遭った畑をもう一度元に戻す作業もなかなか根気が必要で、プラカイモ栽培をやめてしまう人も出てきていると聞く。

気候変動による影響は、フナフティだけではなく、離島でも見られる。2015年3月に発生した超大型サイクロンは、ツバル付近を通過したが、建物の倒壊や全人口の45%が住む所を追われるなど大きな被害を出した。このサイクロンの影響で、ヌイ島では、プラカイモ畑に塩水が入り込み、イモが育たなくなってしまった。4年経った2018年にようやく小さいイモが採れるようになったそうだ。フナフティで食べるフェケイは、だいたい離島で栽培したものを、親戚が定期船で送って来てくれたものだ。ただでさえなかなか食べられないのに、気候変動がさらに食べる機会を少なくしている。

これは人口増加と気候変動の影響によって、「フェケイ」が食べられなくなったという単純な話ではない。プラカイモを育て、調理するための伝統的な知識も無くなる可能性があり、ツバル人としてのアイデンティティーに影響を及ぼす話である。ツバル・オーバービューは、各離島に赴き島民全員にインタビューを行うプロジェクト「ツバルに生きる1万人の人類」を通じて、気候変動で沈む島という単純なイメージではなく、そこに住む人びとの暮らしや文化を学校、講演会、国連会議などで紹介し、気候変動対策の推進を呼び掛けてきた。また、適応策として、ツバルの人びとが中心となって行うマングローブ植林にも力を注いでいる。これからも人びとの暮らしや文化が続くよう、ツバルの人びととともに活動を続けていきたい。

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