国際セミナー「森林バイオマスの持続可能性を問う〜輸入木質燃料とFIT制度への提言」FITバイオマス発電:持続可能性への取り組みと課題

2020年02月17日グローバルネット2020年2月号

NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長
泊 みゆき(とまり みゆき)

再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の導入により、木質ペレットなどを使ったバイオマス発電事業がここ数年の間で急激に増えましたが、その多くは海外で生産された輸入燃料に頼っています。木材を使った発電は、「炭素中立(カーボンニュートラル)」とされていますが、原料や燃料加工、輸送段階における温室効果ガスの排出を無視することはできず、生産段階での森林・生態系や地域社会への影響も考慮しなければなりません。果たして、輸入森林バイオマスを利用した発電は持続可能といえるのか。
 本特集では、2019年12月4日に東京都内で開催されたセミナーでの国内外の専門家による講演の概要を紹介し、目指すべきバイオマス発電について考えます。

 

再エネ電力を促進するためのFIT制度とは

再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)は、太陽光、風力、バイオマスなど再生エネルギー電力を促進するため、2012年7月から開始されました。その目的は、「環境負荷の低減」「日本の国際競争力の強化」「産業の振興」「地域の活性化」で、中でも「環境負荷の低減」について最も注視されるべきは気候変動問題で、その対応は喫緊の課題となっています。

FIT制度の下では、再生エネルギー発電事業を増やすため、買い取り費用は高く設定されており、その費用を負担しているのは、電力利用者である国民です。私たちが支払う電力料金には10%以上の賦課金が掛けられています。この制度は再エネの普及には役立ちましたが、買取価格が高すぎるなど、制度設計にさまざまな問題があると指摘され、制度の見直しが行われています。その他、発電所の規模別の買取価格になっていない、温暖化対策効果が考慮されていない、熱利用への考慮がない、認定量の9割が輸入バイオマスに集中している、などの問題も指摘されており、これらについても、ある程度の対策が講じられるようになっています。

急増した輸入バイオマス

2019年6月現在、FIT制度で認定されたバイオマス発電の燃料のうち、9割が輸入バイオマスで占められ、その内訳はパーム油2割、PKS(パームヤシ殻)6割となっています。

輸入バイオマス急増の原因は、FIT価格が高すぎたことにあります。一般木質バイオマスのこれまでの買取価格24円(1kWhあたり)は他国に比べあまりにも高く、2019年度の賦課金総額は2.4兆円となる見通しです。このようにFIT価格が高いため、日本に木質バイオマスを輸出すればもうかるという期待が世界で高まり、日本でバイオマス発電の一大フィーバーが起きたのです。

木質ペレットとPKSの輸入量は急増し、2018年にはそれぞれ100万トンを超え、2019年9月末時点でペレットは116万トン、PKSは168万トンに上っています()。

問題を引き起こす可能性のあるバイオマス

バイオマスは世界で最も多く使われている再生エネルギーですが、持続可能性に配慮しないと経済・環境・社会面でさまざまな問題を引き起こす可能性があります。バイオマスは炭素中立(カーボンニュートラル)とされますが、実際にはその生産・燃料加工・輸送の過程で温室効果ガス(GHG)を排出し、また、伐採後、土地利用転換によりバイオマスが再生産されない場合は炭素中立とはなりません。また、森林再生に数十年以上かかる場合は、一時的に二酸化炭素(CO2)の増加となります。そのため、温暖化対策効果を担保するため、国際的にGHG排出基準が導入されており、日本でも2012年からはバイオエタノールについて導入されています。

また、2019年4月から経済産業省でバイオマス持続可能性ワーキンググループが開かれ、この問題に関する議論が始まっています。本セミナーの主催団体も、2018年7月、バイオマス発電に関する共同提言「ライフサイクルでのGHG排出LNG火力発電の50%未満を要件に」を発表し、GHGの排出を十分かつ確実に削減していること、森林減少・生物多様性の現象を伴わないこと、パーム油などの植物油を用いないこと、などを訴えました(提言全文はこちらをご覧下さい)。

バイオマス燃料の持続可能性

前述のワーキンググループで、ようやくバイオマス燃料の持続可能性を議論することとなりました。その資料によると、パーム油を燃料として利用する場合、また北米産木質チップの場合はその輸送だけでLNGコンバインドの排出量と同量程度のGHG排出量となっています。一方、国産の木質チップの場合のGHG排出量はかなり低くなりました。

私たちNGOは、輸入木質バイオマスを燃料とするバイオマス発電をFITの対象とするのは間違いではないかと長い間訴えてきており、このような試算では土地利用変化の可能性や森林再生の速度なども加味する必要があると考えていますが、ここに来て、国レベルでこの問題を議論する機運が出てきたといえます。

2019年11月に開かれたワーキンググループの中間整理では、バイオマス燃料の持続可能性基準について、合法でなければならないという視点に加え、「環境」「社会・労働」「ガバナンス」の視点も加えることとなりました。このワーキンググループでは、「FIT制度下における持続可能性評価基準」「個別認証への適用」などについて中間整理され、GHGの排出基準の導入についても議論となりましたが、最終的にこの基準は入りませんでした

この中間整理に対し、私たちNGOは、「バイオマス発電燃料の温室効果ガス排出基準の2年後を目途にした導入」や、「食料との競合回避(例えばパーム油を燃料とするものをFIT対象としない)」「発電事業者による情報公開」などを提案しました。

(※)2020 年1 月の調達価格等算定委員会においてバイオマス燃料のGHG 排出を確認する方向へ方針が転換された。

バイオマスの温室効果ガス基準

私たちは20年にわたり、バイオマスの温室効果ガス基準(化石燃料によるライフサイクル温室効果ガス排出と、バイオマスの生産・加工・輸送などによる排出を比較した値)の設定の必要性を主張し続けてきました。日本ではエタノールについては前述のように2011年に導入されており、EUやイギリスでも設定されています。

輸入バイオマスと国産のそれとは温室効果ガス削減効果が異なるにもかかわらず、同じバイオマスとして補助するのは、法律の目的に反することになり、社会的コストを少なくしながら効果を担保することが重要です。基準は、化石燃料の50%以下の値が国際的潮流であり、日本もそのようにするべきであると私たちNGOは主張しています。

輸入バイオマス発電の問題点と今後の課題

私たちは輸入バイオマスによる発電の問題点について、①輸送時にGHGが排出される分、温室効果ガス削減効果は低くなる、②輸入原料を使うため、日本国内、地域の経済的波及効果は限られる、③発電のみでは非効率であるため、熱利用もすべき、④燃料を購入するバイオマス発電は、将来的にコスト低減に限界がある、⑤新規バイオマス発電は、熱電併給にシフトすべき、と考えています。

今後はGHG排出基準など、GHG排出を考慮した制度を導入する必要があると考えます。また、バイオマスの持続可能性についての研究も必要です。そして、熱利用をしない、燃料を購入するバイオマス発電のFIT後の自立は困難であるため、熱電併給、あるいは熱利用を基本としたバイオマス発電を促進する必要があると考えています。

タグ: