特集/セミナー報告 Refill JapanオンラインカフェVol.2 脱プラ、脱使い捨ての行方(1) ~地球が求める方向性、コロナ禍でベクトルは変わるのか?プラスチック問題から脱使い捨て社会へ

2020年09月15日グローバルネット2020年9月号

国立研究開発法人 国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター
 循環型社会システム研究室 室長
田崎 智宏(たさき ともひろ)

 ここ数年、多くの国でレジ袋の規制や有料化、使い捨てプラスチックの使用規制が法制化されるなど、使い捨てから持続可能な資源利用を進める方向に転換しつつありました。
 しかし、新型コロナウイルスのパンデミックにより、飲食店でのテイクアウト販売や食品の個別包装など、さまざまな場面で使い捨て用品の利用が急増し、脱使い捨ての社会とは逆行する状況にあります。
 本特集では、6 月24 日に開催されたオンラインセミナー「Refill Japan オンラインカフェ Vol.2『脱プラ、脱使い捨ての行方(1) ~地球が求める方向性、コロナ禍でベクトルは変わるのか?』」(主催:水Do! ネットワーク)における3 人の登壇者の発表と議論の内容を紹介します(2020年6月24日、オンラインにて)。

 

 

プラスチックの問題は海洋プラスチックごみやマイクロプラスチック、とくに生物への影響が話題にされていますが、実はもっと大きく複雑な問題で、いくつかの問題が絡み合っています。

また、「量の問題」であることも認識していただきたいと思っています。エレン・マッカーサー財団が2016年に出した報告の中でも、このままでは2050年には海洋中のプラスチックの量が魚類の量よりも多くなってしまうと示されています。

このため、プラスチックの問題は解きほぐしが必要だと私自身は感じています。海洋プラスチック汚染の問題のほかに、石油資源という非再生資源に依存しているという問題、地球温暖化の問題、その根っこにある社会構造としての大量生産・大量消費・大量廃棄の社会という四つの問題をきちんと視野に入れることです。この問題を解決するためには「脱炭素」「脱使い捨て」という方向性が重要になります。その四つの問題すべての解決に貢献できるのがリデュースなのです。

大量生産・大量消費・大量廃棄の社会は、地球の環境容量を超える

私たちの人間活動を面積で表した指標であるエコロジカル・フットプリントでは、日本人は一人当たり5.0ha、世界の人びとが日本人のような暮らしを始めたら、地球が約2.9個必要です。また、地球の環境容量(プラネタリー・バウンダリー)という考え方があり、すでに不安定な領域を超えてしまっている環境問題があると警告されています。

さらに世界全体を見ると、物の消費が2000年代に入ってから、とくにアジアで増えています。人口の増加のほかに、私たちが量的な豊かさを追求し、物を大量に使う豊かな生活を送っていることが一大要因となっています。さらに、物を増やす方向の技術への変化も要因として挙げられます。

成長主義や物質主義で私たちは幸せになれるのか

私たちは物の豊かさでは幸せになったかもしれませんが、では今後はどうなのでしょうか?

私も統計データを調べてみたのですが、経済成長や効率性の向上は私たちの経済活動の中でも良しとされるのですが、他の面では良くなるというよりも悪くなってきているというのが今の私たちの社会状況です。

生活の満足度についても、平均所得が増えたとしても生活の満足度はある程度以上は増えないという状況です。「心の豊かさか、物の豊かさか」という世論調査(内閣府、国民生活に関する世論調査、2008年 6月)では、1970年代にはすでに心の豊かさの方が重要だと考える人の方が多くなっています。

物にこだわる「物質主義」という言葉がありますが、物質主義が強まると、人生の満足度は下がるという研究が1980年代からあります。物質主義者というのは、物を手に入れることが中心で、それが幸福への道、社会的な成功を意味すると考えているので、物質主義が強まるほど満足度は下がるのです。なぜ満足しないかというと、物質主義者は物を購入することを最も重視し、実は物を保有する、使うということでは満たされないといわれています。だから物にこだわっているようで実はこだわっていない。マーケティングなどいろいろな情報、消費の動向に踊らされているのです。さらに物への欲望は尽きず常に飢えている状態です。また、経験することを重視せず、物を手作りする楽しさなどのプロセスを楽しまない傾向にある。こういう点が人生の満足度に貢献しないということを私たちは注意しなければいけないと思います。

幸せにならない、環境にも悪い、というのになぜ続けるのか。私たちはなぜ今の生活スタイルを続けなくてはいけないのか、疑問です。使い捨てを見直すことから、大量消費社会と物質主義からの脱却を考えていったらどうでしょうか。

新型コロナウイルスで何が変わったか

さて、新型コロナウイルスは私たちの生活、そして環境問題にどういう影響を与えたのでしょうか。

まず、大気汚染が減りました。皆さんが移動をしなくなったということで、中国でもエベレストの山が見えるようになったという話もありましたし、温暖化に関してもCO2の排出量が17%減で一時的には減っています。IEA(国際エネルギー機関)の試算で年8%減という予想もあります。しかし残念ながら、大気中のCO2濃度への影響はほぼないということなので、一時的に排出量は少なくなっただけで、温暖化問題はまだまだ続きます。地球温暖化に対する脱炭素のアクションは、引き続き進めなければならない状況です。

消費生活の変化については、いくつかのマーケティング会社が調査をしています。(株)インテージの調査結果(インテージ(2020.5.28)「行動自粛要請下のサービス利用 新規感染者の抑制で利用意向は上がった?」  )によると、食品購買に関しては、4種類の消費変化があったそうです(表1)。まず、①食材を備蓄する。それから②家で食べるような「内食」が増えた。そして、③バラエティを広げて食を楽しみたい。さらに④巣ごもりの食生活をもっと楽しみたい、という変化です。これは、調理されているものを買って家で食べる「中食」の増加にもつながっています。

家庭系のごみの三大組成というと、生ごみ、プラスチック、紙で、この三つを減らすことがリデュースの取り組みで重要となるのですが、このような食品購買の状況ではいずれも増えたと思っています。

また、小売・販売においては、包装された商品が増えています。マイボトルなど、リユースを止める動きもあり、今は環境配慮よりも衛生・安全性を重視する状況になっています。そして、消費・生活の変化に関する調査結果を見ると、ネット販売が在宅生活で増え、料理、お菓子作りなど内食に関係するようなことも増えています。一方、外食やスーパーなどで物を購入するといったことは減っています。いずれにせよ、輸送包装材の増減については注意すべきだと思います。

新型コロナウイルスによる変化は続くのか

今後こういった変化がどれだけ続いていくのか。元々コロナ前の使い捨て商品の購入割合が多い人ほど増えたのではという印象を私は持っているのですが、研究で明らかにできればと思います。

今後、人びとの行動は変わるのか。人は行動意図があって、実際行動するのですが、さまざまな理由や状況で行動できないことがあります。しかし、行動モデル自体が基本的に変わっていなければ、コロナ後は驚くほど簡単に戻ってしまうのではないかと心配しています。とくに、ワクチンができた瞬間に今までの議論が吹き飛んでしまうくらい戻ってしまうのではないでしょうか。

もし行動モデル自体が変わるとしたら、例えばテレワークなど、今までしていなかったけれど、実際に良さがわかって行動意図が変わった場合はコロナ後も続くと思います。職場としてもテレワークが良いワークスタイルだということで新しいルールができると、さらにやりたい人が増え、変わっていくと思います。

つまり、今後どう変わっていくかということは、私たちがどれだけ認識を変えられたか、そしてそれに沿った社会のルールが変わっているかというこの2点が重要だと思っています。

Afterコロナではどうなるか

コロナ後がどうなるかということについて、6月に参加した持続可能な消費に関する国際会議の中で四つのシナリオがありました(表2)。今、私たちはちょうどこの表の真ん中にいると思ってください。今後、消費はモノ消費の方に戻るのか、もっとコト消費になるのか。また、社会との結び付きもコロナで離れていたが故に、じかに会うことを大切にするという物理的なつながりが中心になるのか、オンラインのつながりが中心になるのか、この四つの方向に分かれるのではないかというシナリオが提示されています。

どのシナリオに向かうかという問題には現時点では答えがないです。それよりも各シナリオに行ったときにどういうアクションが脱使い捨てにとって効果的かを考えるのがよいと思います。

今後の生活が元の方に戻るとすると、コロナによる衛生安全面と環境配慮のバランスをどう考えるかが大きな論点になってきます。

それから、オンラインでのモノ消費がどんどん増えていくと、オンライン消費と脱使い捨てをどう両立させていくかということが大切になると思います。コト消費になると、エネルギー消費や温室効果ガス排出に関するアクションを展開した方が効果的でしょう。複数の行き先を見据えてアクションを検討してはどうかと思います。

「脱使い捨て」すべき理由

海洋プラスチックやマイクロプラスチックの問題では、ショッキングな写真などで多くの人の気持ちをつかんだことは良かったと思いますが、この問題は複雑で、私たちの社会・経済・生活に深く関わっており、いくつかの問題に絡まっている問題ですので、マスコミや研究者はもっと上手に説明すべきだったと思います。

今は、使い捨てすべき理由というよりは、使い捨てをしない理由を説明する時代になってきたと感じています。環境省と経済産業省の「サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環ファイナンス研究会」の委員を務めていますが、なぜ使い捨てしないのかという説明責任を企業として果たさないと必要な資金を調達できない、評価されないようになってきています。

コロナに関しては、ゼロリスクはないということを考えないといけないと思っています。感染爆発が起きていて病院が切迫している状態とは別ですが、だんだん落ち着いてきている状況では、いつまでも緊急時のルールややり方ではなく、ドギーバッグ(※レストランやパーティーで食べきれずに残してしまった料理を持ち帰るための容器)と同じように「感染するリスクは自分たち消費者で負うので判断させてください」という時期がそろそろ来ているのではないかと思います。

タグ: