環境条約シリーズ 348大気汚染物質の削減のためのEU指令

2021年03月15日グローバルネット2021年3月号

前・上智大学教授
磯崎 博司

 2016年12月に、特定の大気汚染物質の国別排出削減に関するEU(欧州連合)指令が採択された。それは、国別排出削減約束を用いて大気汚染による健康リスクと環境影響を低減させることを目的としており、同月31日に施行され、EU各国にはその内容を2018年7月1日までに国内法化することが義務付けられた。また、それは、EU法の下の排出削減約束を長距離越境大気汚染条約のイェテボリ議定書の2012年改正(本誌2012年6月)に沿わせる役割を有しており、EUの2013年「清浄大気一括政策」(「ヨーロッパ清浄大気計画」を含む)の一部として提案された。

 この指令の対象物質は、二酸化硫黄、窒素酸化物、非メタン揮発性有機化合物、アンモニア、および、微少粒子状物質であり、EU各国に対し、目標年と達成すべき最少排出削減量(基準年とされる2005年に排出された総排出量に対する割合)が定められている。具体的には、まず、各国が2020年までおよび2030年までに達成すべき対象物質ごとの排出削減約束が設定されている。その2020年から2029年までの削減量は改正イェテボリ議定書の下の削減値と同じである。

 次に、2030年以降は新しい削減強化措置が適用される。2030年の排出削減約束の達成に向けて、EU各国は、直線的削減軌跡(毎年一定割合の削減)に基づいて定められる2025年の指定排出レベルまで、排出を減らすために必要な措置を取らなければならない。なお、排出削減約束の遵守には、ある程度の柔軟性が認められており、異常に寒い冬または異常に乾燥した夏に遭遇した国は、当該年とその前後の3年間の平均年間排出量を算定の基にすることができる。

 着実な約束達成のための措置も定められており、EU各国は、関連するすべての分野(気候変動、農業、畜産業、エネルギー、産業、輸送、暖房、溶剤など)に適用可能な排出抑制措置を考慮して、2019年4月からの国家大気汚染規制計画を策定し、少なくとも4年ごとに改訂しなければならない。また、排出目録を含む年次報告も義務付けられている。

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