環境ジャーナリストの会のページCOP26現地報告 若者たちと体感した「気候正義」と「脱石炭」

2022年01月14日グローバルネット2021年12月号

NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー
堅達 京子(げんだつ きょうこ)

10月31日から11月13日までイギリス・グラスゴーで開かれたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)。筆者は、成人の日に放送するドキュメンタリー(1月10日 NHK総合 午前10:05)の取材で、日本の若者たちに密着した。

 

歴史的COPへの野心 イギリスの挑戦

 延べ4万人がリアル参加した今回のCOPでは、石炭による産業革命発祥の地であるイギリスが、脱石炭をリードし、地球の未来を救うのだという矜持を感じた。EU離脱後の外交の見せ場でもあるが、まるでオリンピック報道のような分厚い体制と編成で連日さまざまな番組を放送し続けた公共放送BBCの「本気」と合わせ、強く印象に残った。

 8月に出されたIPCCの第6次評価報告書で、人類に残された1.5℃実現のカーボンバジェットがあと10年程度と判明した今、脱石炭連盟を主導するイギリスに賛同する国は40ヵ国を超え、なんとインドネシアやベトナム、韓国、ポーランドやウクライナまで入った。

 

脱石炭に逆行する日本に「化石賞」

 こうした中、今回、現地に出向いた日本の高校生や大学生たちも、石炭火力への依存を続ける日本の現状を世界に訴えたいと考えていた。首脳級会合での岸田総理のスピーチも、アンモニアを混焼することによる石炭火力の延命と取られかねない内容。若者たちは、石炭について再考を求める直筆の手紙を総理に手渡そうとして阻止され、「私たちの未来を奪わないで」と書いた紙も奪われてしまう。結局、日本は、世界のNGOから「化石賞」を受賞。現地では、脱石炭の潮流はもはや当たり前で、天然ガスも含めた脱化石燃料の動きが著しかっただけに、日本のガラパゴス感は際立っていた。

 

MAPAの人びとの痛みに触れて…

 今回、若者たちの心に刺さったのが、MAPA(Most Affected People and Areas)と呼ばれる最も脆弱で被害を受ける地域の人びととの出会いだ。グレタ・トゥーンベリさんもMAPAを中心に置くことを訴え、その隣で一緒に彼らの叫びを聞いた若者たちは、フィリピンやメキシコなどのアクティビストとの交流で、1℃の上昇で、既に甚大な被害を受けている壮絶な現実を思い知らされる。

 彼らから見れば、日本は豊かな国であり、CO2を歴史的に出し続けてきた先進国にほかならない。そして、物価の高いイギリスで、毎日の食事代にも苦労する彼らと接し、一緒に数万人規模のデモに参加する中で、気候変動が格差や貧困の問題とも密接につながっていることを思い知らされる。この気付きは大きい。政策立案者や交渉に当たる大人たち、そしてビジネス界の人びとも、体感すべきことであろう。

 異常気象が頻発する時代を生きていかなければならない若者たちは、最も被害を受ける人びとの代表でもある。街角や会場で響いていた「気候正義=クライメート・ジャスティス」の重みを毎日突きつけられていた気がする。

 

1.5℃のCOP シャルマ議長の涙

 グラスゴー気候合意は、石炭火力の「段階的廃止」という議長国イギリスの野心的文言から、最後はインドなどの強い反対で「段階的削減」と弱められた。しかし「1.5℃までに気温上昇を抑える努力を決意を持って追求する」という文言で合意し、パリ協定の努力目標だった1.5℃を、事実上の世界共通の目標として格上げすることになった。2050年カーボンニュートラルも大事だが、何よりも2030年までが正念場であることを再確認し、来年末までに削減目標をさらに引き上げるための検討を各国に要請することも決まった。

 MAPAの一つ、マーシャル諸島の代表が「文言が弱まったことは本来受け入れられないが、合意のために受け入れる」と語ると、イギリスのシャルマ議長は謝罪し、思わず涙した。

 私たちは、この涙を無意味なものにしてはならない。現地で1.5℃を目指す世界の熱量を感じて帰国した若者たちのためにも、日本は率先して、脱石炭へのロードマップを明確に示し、先進国の責任を果たす必要があると痛感したCOP26だった。

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