特集/IPCCシンポジウム報告 IPCCシンポジウム/気候講演会「気候変動を知る~最新報告書が示すこれまでとこれから」<講演4> 変化する気候における極端気象・気候

2022年01月14日グローバルネット2021年12月号

WGⅠ第11章執筆者、東京大学 大気海洋研究所 教授
佐藤 正樹 (さとう まさき)さん

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から気候変動に関する最新の知見を取りまとめた、第6次評価報告書の第1作業部会(WGⅠ)報告書(自然科学的根拠)が今年8 月に公表されました。この後も、来年にかけて第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)、第3作業部会報告書(緩和策)及び統合報告書が公表される予定です。
 本特集では、10 月末に開催されたIPCC シンポジウム/ 気候講演会「気候変動を知る~最新報告書が示すこれまでとこれから~」(主催:環境省、文部科学省、気象庁)における、IPCC から公表された最新の報告書の内容や、日本の気候変動に関する最新の知見に関する講演の概要を紹介します。なお、すべての講演動画及び発表資料は特設サイト にてご覧いただけます。

 

極端現象の変化に対する人為的な気候変動の影響が明らかに

今まで観測された極端な現象の変化とその原因について見ると、全球平均気温は1800年代を基準に考えると、約1℃を超える昇温があります()。年間の最高気温をプロットすると全球平均気温より大きな変化を示しています。陸上だけの年平均気温は全球平均気温よりも大きな変化を示しています。最低気温の変化はさらに顕著で、昇温の割合が大きくなっています。

報告書第11章では、全球平均気温の変化に対し地域ごとの変化がどれぐらい違うかが示されています。例えば、全球平均気温に比べて東アジアは若干の昇温、中央アジアや中東はさらに大きな昇温になっています。

気候変動は、すでに世界中のすべての居住地域に影響を及ぼしており、人間の影響は、観測された多くの天候の変化や気候の極端な変化の原因となっています。地域ごとの高温に関する極端現象に観測された変化の評価と、観測された変化における人間の寄与に関する確信度について、過去10年間に観測された極端な猛暑現象のいくつかは、人間が気候システムに影響を与えなければ発生する可能性は極めて低かっただろうと評価しています。

大雨については、多くの領域で増加傾向があります。また、干ばつについて報告書では大きく取り上げられており、人為的な気候変動は蒸発散量の増加により、一部の地域で農業および生態学的な干ばつの増加に寄与していると評価しています。

地球温暖化に伴う極端な現象の変化の予測

本報告書では、地球温暖化の進行が大きくなると、気候システムの多くの変化は大きくなるとしています。極端な暑さ、海洋熱波、豪雨の頻度や強度の増加、一部の地域における農業や生態系の干ばつ、強い熱帯低気圧の割合の増加等が予測されます。1.5℃の昇温を含むさらなる温暖化によって、観測史上前例のない極端現象の発生が増えることが考えられ、予測される頻度の変化率は、よりまれな事象ほど高いといえます。

地球温暖化に伴うストームの変化

日本では襲来する台風、線状降水帯等の大雨等の脅威は身近に感じられ、 温暖化に伴う大雨や強風を伴う気象現象(ストーム)の変化はわれわれが興味を持つところです。AR6では以下のようにまとめています。

・全球的な変化としては、熱帯低気圧と温帯低気圧や、大気の川(上空に大量の水蒸気が帯状に流れ込む現象)に伴う降水量は多くの領域で増加することが予測される。
・熱帯低気圧は強度が強くなることが予測されている。一方、その発生頻度は、減少あるいはあまり変わらない傾向にある。
・温帯低気圧も風速の変化が場所により増加する領域と減少する領域がある。
・地域的には、北西太平洋領域の台風には特徴的なパターンの変化が観測・予測され、特に日本付近では台風の脅威が増していると評価されている。
・強烈な熱帯低気圧の割合と最も強い熱帯低気圧のピーク風速は、地球温暖化の進行に伴い、地球規模で増加すると予測される。

熱帯低気圧の将来変化

台風などの熱帯低気圧がさまざまな地域への影響を含めて将来どうなるか、本報告書でまとめられています。日本では人工衛星による観測が始まった1977年からの40年間、日本に上陸する台風の強度は増加しています。しかし、もっとさかのぼると数十年規模の変動があり、その変動の中にどれだけ温暖化による傾向があるかについては明瞭ではありません。

4℃上昇のレベルでの台風の変化を示した研究では、将来は現在に比べて台風の発生件数が日本の近くで増え、南の方では減る、すなわち台風の強い領域は北向きに中緯度に向かって、シフトするということが示されています。従って将来は台風の発生数は減少する傾向があるものの、強い台風の頻度が増え、さらに北西太平洋では中緯度向きに台風の脅威がより増すということがいえます。

熱帯低気圧の将来変化についてまとめると、温暖化に伴い、熱帯低気圧の平均最大風速と強い台風の割合は世界的に増加する可能性が高く、日本域を含む北西太平洋の限られた地域では、カテゴリー4~5の頻度が増加する可能性が高いことが予測されます。

また、温暖化に伴い台風に伴う平均降水量が増加する可能性が高く、一部の地域では下層の水蒸気収束が増加するため、ピーク降水量のさらなる増加が見込まれます。さらに、温暖化に伴う熱帯域の拡大に伴い、台風の平均的な風速のピーク地点は、北西太平洋でより高緯度に移動する可能性があります。

全球的に同時発生した異常気象のケーススタディ

第11章には囲み記事として「全球的に同時発生した異常気象のケーススタディ」について記述されています。ここでは、2015~16年の観測史上最大規模の極端なエルニーニョと、2018年の北半球の同時多発的な異常気象について取り上げています。2015~16年のエルニーニョでは、日本付近では非常に強い台風が頻発し、中国等では洪水が発生しています。アマゾンやインドネシア、アフリカ等にも干ばつ等の影響があり、全世界的に異常気象が同時多発した例として取り上げられています。

2018年は日本では、西日本豪雨とそれに続く猛暑がありましたが、北半球のさまざまな地域も熱波に襲われており、これが同時多発的に起きたのは、地球全体の循環が影響していると理解されています。

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