特集/環境・社会課題の解決に資する都市計画の在り方を考える人口減少時代における都市計画の課題

2023年08月15日グローバルネット2023年8月号

奈良女子大学生活環境学部教授
中山 徹 (なかやま とおる)

 気候変動への対応や生物多様性保全、減災・防災などの観点から、都市の公園や緑地を維持・拡充し、「ウォーカブルな(歩きやすい)まちづくり」を進めることが大切であるといわれています。しかし、近年の日本の都市では、明治神宮外苑再開発計画に見られるような、緑地の減少を伴う開発が民意不在で進められる事例が多く見られます。また、人口減少、中小都市から大都市圏への人口流出、高齢化などの社会的課題にも直面しており、行政サービスやその他の都市機能を維持し、生活の質を向上させるための市街地の再編も長期的な課題となっています。
 今回の特集では、都市計画に関する環境・社会的課題と、その解決に必要な考え方や施策を国内外の事例を基に考えます。

 

地方を中心に、少なくとも数十年は人口が減り続ける

政府は2023年6月に「こども未来戦略方針」を策定し、異次元の少子化対策を進めると決定した。その背景にあるのは言うまでもなく想定以上に進んでいる人口減少である。2022年の合計特殊出生率は1.26で統計を取り始めてから最低になった。また、2022年に生まれた子どもは77万747人でこれも統計を取り始めてから最小の値である。

これほど出生数が減っている理由の一つは、合計特殊出生率が低いからである。人口が長期的に安定する水準は2.07であり、現状は大幅に下回っている。もう一つの理由は、子どもを産む女性が減っていることである。日本の女性の場合、第1子を出産する年齢は30代前半が一番多くなっている。そこで30代の人口変化を見ると、ピークは2003年で1,986万人である。その後は徐々に減り2010年では1,533万人、2020年には1,204万人になっている。20年間で4割減である。つまり日本では一人の女性が産む子どもの数(合計特殊出生率)が低いことと、子どもを産む女性の数が減っていること、この二つの理由で少子化が急速に進んでいるといえる。

さて、今後30代の人がどのように変化するかを見る。国立社会保障・人口問題研究所の予測では2050年には1,023万人まで減るとしている。今の約15%減である。これは予測とはいえ、ほぼ確実である。というのは2050年に30代になる人は既に生まれており、大きくぶれないからである。少子化対策によって合計特殊出生率を上げたとしても、子どもを産む女性の数が減り続けるため今後、長期間にわたって出生数が減り続けることは避けられない。人口減少が止まるのは、合計特殊出生率が2程度になり、その子どもたちが30代になって子どもを産むようになってからである。

さて、人口減少は全国一律に生じているのではない。2021年から2022年にかけて人口が増えた都道府県は東京都のみであった。比較的減少率が低かったのは、沖縄県、神奈川県、埼玉県、滋賀県、千葉県であり首都圏が多い。また、人口規模別に見ると、大都市の方が減少率は低く、中小都市、農村部の方が人口減少率が高い。新型コロナウイルス感染症の拡大で一時的に首都圏への人口集中が緩和したが、2022年以降は再び首都圏への一極集中が見られる。

今回決定された異次元の少子化対策が仮に成功したとしても、地方を中心に数十年間は人口減少が続く。もし、今回の少子化対策が失敗すれば、地方を中心とした人口減少はさらに長期間続くことになる。

政府が進める人口減少への対応=立地適正化計画

人口が長期的に減少することを受け2014年、政府は立地適正化計画を策定した。立地適正化計画は人口減少に対応して市街地の縮小を進める計画である。つまり各種の公共施設や商業施設などはできるだけ中心部に集約し、人びとも郊外ではなく中心部およびその周辺に集まって住むようにしようという考えである。イメージ的には、人口が15%減れば市街地を15%縮小し、人口が30%減れば市街地を30%縮小する感じである。

人口減少によって人口密度の低下が進むと、行政効率も低下する。そのため、同じ行政サービスを提供するためには、税収を上げる必要がある。しかし、人口減少と共に税収はむしろ減る。そこで、人口減少に対応して市街地の縮小を進め、一定の人口密度を保つことができれば、行政効率を維持することができ、行政水準も維持できるという発想である。

立地適正化計画の問題点

立地適正化計画には以下の問題がある。一点目は、市街地の質が改善されないことである。立地適正化計画では、人口減少に対応して、市街地を縮小しようとしている。つまり、人口減少で生じた空間的余裕を、市街地の縮小に回す考えである。日本の市街地は、一部のニュータウンを除き、人口が急増した高度経済成長期に、公園や歩道、公共空間を十分確保せずに拡張された。市街地の質を確保するために必要な公共投資をしなかったため、安上がりで、急速な市街地の拡張が可能となったが、それによってヨーロッパと比べて質の低い市街地の形成につながった。

また、災害の危険性が高い地区まで開発したため、災害に脆弱な地区を作り出した。立地適正化計画は人口減少に直面し、再び効率性を重視しようとする考え方である。人口減少に対応した市街地の縮小は、市街地の質を改善しないという考えであり、今後数十年にわたって、日本の市街地は抜本的な質の向上が望めない。

二点目は、無秩序な縮小が不可避であり、目標とは逆に効率の悪い市街地を形成することである。立地適正化計画は誘導であり、強制力がない。そのため郊外から中心部に転居する場合、行政からは補償が出ず、全て自己責任、自己負担となる。郊外から転居する人もいるだろうが、転居できない人、郊外に住み続けたい人もいる。全体的には郊外から公共施設や商業施設が撤退するため、郊外の衰退が進み、徐々に暮らしにくくなる。しかし、その地域に暮らしている市民がいる以上、行政サービスなどは提供し続けなければならない。強制力を持ち、計画的に市街地を縮めれば、効率的に進められるかもしれないが、莫大な費用が必要となる。そのため立地適正化は補償が不要な誘導になっており、市街地の縮小が無計画に進み、逆に効率の悪い市街地が形成されるだろう。

三点目は、立地適正化計画を進めると想定以上に市町村内の人口が減ることである。立地適正化計画では、郊外に住んでいる人は同一市町村内の中心部もしくはその周辺に転居することを前提にしている。住み慣れた地域から離れざるを得ない場合、同一市町村内の中心部に転居する人もいるだろう。しかし、どうせ住み慣れた地域から離れるのであれば、同じ中小都市でなくもっと利便性の高い県庁所在地に転居する人もいるだろう。また子どもが東京で暮らしている場合、東京に転居する人もいるだろう。郊外が衰退し転居する場合、同一市町村内の中心部に転居すると考えるのは、行政の発想である。地方中小都市の場合、同一市町村外に転居する人が相当数になると考えられ、立地適正化計画を進めると、想定以上の人口減少を引き起こす。

市街地の縮小ではなく、質の改善を進めるべき

人口減少で空間的余裕ができるのであれば、その余裕は市街地の質の向上に充てるべきである。公園の整備、自然環境の回復、歩道など道路空間の整備、各種公共施設、公的住宅の整備などである。本来であれば市街地を拡張した時に整備しておくべきであったが、いったん拡張した後にそのような空間を整備するのは難しい。しかし、人口の長期的な減少を逆手に取れば、それによって生み出された空間を市街地の質の向上に充てることが可能となる。

残念ながら日本では少なくとも今後、数十年にわたって人口が減少するため、その期間は市街地の質の改善を進めるべきである。本来であれば数十年前に実施しておくべきだったことを、今後の数十年で実施すると考えればいい。

さいごに

少子化は深刻であり、さまざまな分野で英知を絞って少子化対策に寄与すべきである。都市計画分野でも市街地の質的改善を進め、子育てしやすい地域の整備に寄与すべきである。各分野でそのような取り組みが進めば、いずれ少子化に歯止めがかかるだろう。そうすれば新たな次の都市計画が展望できる。逆に、質的改善を進めず、子育てしやすい地域を整備しなければ、少子化に歯止めがかからず、永遠に縮小し続けなければならない。

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