特集/環境・社会課題の解決に資する都市計画の在り方を考える持続可能な都市空間へ~ヨーロッパの都市再編の新潮流

2023年08月15日グローバルネット2023年8月号

スイス在住ライター、史学博士
穂鷹 知美(ほたか ともみ)

 気候変動への対応や生物多様性保全、減災・防災などの観点から、都市の公園や緑地を維持・拡充し、「ウォーカブルな(歩きやすい)まちづくり」を進めることが大切であるといわれています。しかし、近年の日本の都市では、明治神宮外苑再開発計画に見られるような、緑地の減少を伴う開発が民意不在で進められる事例が多く見られます。また、人口減少、中小都市から大都市圏への人口流出、高齢化などの社会的課題にも直面しており、行政サービスやその他の都市機能を維持し、生活の質を向上させるための市街地の再編も長期的な課題となっています。
 今回の特集では、都市計画に関する環境・社会的課題と、その解決に必要な考え方や施策を国内外の事例を基に考えます。

 

転換期にあるヨーロッパの都市

ヨーロッパの都市は、現在、転換期にあるようにみえます。気候変動やコロナ危機により、一方で都市空間や環境への不満や危機感、変革への要望が高まり、他方で新しく求めるものが(これまで実現が難しかった構想も含め)顕在化し、都市行政の視点や重点も変化したことで、都市空間の再編がしやすくなったためです。以下、都市のオープンスペースを巡る新たな潮流を概観してみます。

移動が厳しく制限されたロックダウン下の都市では、オープンスペースは希少な憩いの場となり、自転車が安全走行できる専用レーンの需要が高まりました。そこで、車両走行を時速20㎞以下に抑え道路全域で歩行を可能とするシェアドスペース(歩車共存道路)や、自転車専用レーンが多くの都市で暫時的に設置されました。2020年3月から7月までにヨーロッパの都市で設置された暫時的な自転車専用レーンは全長2,000㎞になります。

暫定的な措置にとどまらず、中心部への車の進入制限や走行速度の減速規定、車道や路上駐車スペースの削減、公営駐車場の値上げなど、車から人や自転車に重点をシフトさせる交通改革が各地で計画・実施されるようになりました。

ただし自動車利用者からの強い反発で、順調に進まない場合もあります。自転車専用レーンの設置を近年推進してきたドイツのベルリンでは、今年、市議会選挙で推進派と慎重・反対派の勢力関係が入れ替わり、市内の自転車専用レーンの設置計画が一旦全て中断されました。

バルセロナのスーパーブロック

スペインのバルセロナは、オープンスペースの再編を車利用者にも配慮する交通政策と並行させながら、成功裏に進めています。格子状の街区と広い道路が続く独特の道路構造を持つ新市街で、2017年から9街区(3×3)を一塊の「スーパーブロック」(写真)とし、その内部に独自のルールを導入しました。街区関係者の車のみが一方通行の1レーンの道路に時速10kmで進入できるというものです。同時に路上駐車スペースをほぼ撤去したことで、スーパーブロック内の道路の全長は61%短くなり、車道や駐車スペースなど車に特化したオープンスペースの70%以上が不要となりました。不要になった車専用のオープンスペースは、住民との話し合いを通して、ミニパークや自転車専用レーン、多目的スペースなどに整備されました。

スペイン・バルセロナのスーパーブロック
(2022年11月筆者撮影)

これに並行し、バス路線を市内を縦・横・斜めに走る計28路線に再編成し、1回の乗り換えで市内中ほとんどどこからどこにでも行けるようにし、夜間も含め頻繁に運行させるようにしました。車を手放す人に3年間の公共交通機関を無料化するなどのインセンティブもあり、次第にバスの利用は増え、自動車利用は減っていきました。この結果、スーパーブロックの外でも渋滞は増えず大気汚染や騒音は改善され、付近の商店への訪問客数は増加し、当初あった自動車利用者からの反発の声は次第に弱まっていきました。

パリの「15分都市」構想

フランスのパリでは「15分都市」という構想を提唱しています。教育や医療機関、緑地などの主要な都市機能を市域に均等に配置し、車を使わず、徒歩や自転車などで15分程度でこれらに到達できるようにするというものです。車での移動が減ることで、大気汚染や騒音問題だけでなく渋滞も緩和されて、住民と車の運転者双方に恩恵をもたらすとうたうこの構想は、移動が厳しく制限されていたコロナ危機下、他の都市でも大きく注目されました。

ジェンダー包摂的都市計画

従来の都市計画で配慮が乏しかった性別・世代・出身地などが異なる多様な住民の要望にも配慮し、都市を見直そうとする機運も高まっています。オーストリアのウィーンは1990年代から、地区住民の多様な要望を配慮しオープンスペースを設置してきたパイオニア都市です。例えば、夕方に開催するミーティングでは参加が一定の年齢以上の男性に偏るため、街頭に出て、子育て中の人や若者、移民的背景の人にも積極的に聞き取りをし、公園利用が少なかった人びとの理由や不便、制約として感じられていた点を反映・改善した公園づくりを行ってきました。

気候変動適応とスポンジシティ

都市部の夏の猛暑が深刻さを増し、干ばつや集中豪雨被害も頻繁になってきたことで、気候変動の緩和策だけでなく、適応策が重要性を増しています。

例えば、保水効果だけでなく気化熱効果や緑陰効果(日差しを妨げ地表面の温度を抑える効果)にも優れる都市緑化は、有力な猛暑対策手法ですが、気温上昇や降雨量減少で、生育が難しい植物も増えています。このため緑化全般の推奨とともに、浸透性の高い舗装材への変換、気候変動に強い植物の選別、最新の街路樹育成管理手法など、気候変動に適応した手法も積極的に取り入れられ始めました。

2010年代の中国発祥の「スポンジシティ」という、都市全体の緑被率と保水率を上げることを通し、干ばつや洪水、猛暑を予防・緩和させるという総合的な水循環のマネジメント構想にも、近年期待が寄せられています。ドイツのハンブルクではこの構想を下敷きに、オープンスペースの地下に遊水池を設けたり、市全域で屋上緑化を強化して、降雨の6割を都市内に保水することを目指しています。

生物多様性の促進

都市空間内での生物多様性の促進も、今後の大きな課題です。スイスでは生物多様性に寄与する優れた環境を設けた都市を2021年から表彰し始め、多様な動植物が都市に生息できるよう舗装撤去や壁面緑化、湿地や岩陰などの新たな自然環境の創出に積極的に取り組んできたベルンが、最初の受賞都市となりました。

都市での参画と協議の在り方

デジタル化が進展する中で、都市計画や都市行政への参画や協議の仕方はどうなっていくのでしょうか。

台湾では2015年から、対立的な意見や極端な発言よりもむしろ広く人びとに支持される意見を目立たせて、大勢の人が政策提案への合意点を見つけやすくするアルゴリズムを導入したデジタル・プラットフォームで、住民参加型の政策提案の実績を積み上げてきました。スイスでは、歩行者や自転車走行者を含めた道路利用関係者が初回から一堂に会して話し合う中で、国内で前例のないシェアドスペースの構想にたどり着き、1980年代から設置を始めます。「出会いゾーン」と呼ばれ、今ではスイス全国に展開しているシェアドスペースは、道路利用者たちの「出会い」の産物だったといえます。

この二つの例は場所も時代も手段も違いますが、最終的な要望が違っても互いを排除するのではなく理解する努力と時間を費やし、何らかの共通項を見つけられれば、連携が可能なことを示しています。2010年代後半からバルセロナを皮切りに、デジタルツールを用いた参加の形が世界の都市で模索されています。アナログ、デジタル、ハイブリットと形はいろいろあり得ますが、協働の形を洗練させ、都市の未来がより民主主義的で持続的になるよう期待したいと思います。

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