特集/座談会脱炭素社会に向けて大きな決断と長期戦略を~「人間と地球のための持続可能な研究会」の3人の経済学者に聞く(下)~

2017年02月15日グローバルネット2017年2月号

世界の国々が脱炭素社会に向かうためのパリ協定の発効を受けて、環境省の進める長期脱炭素発展戦略に提言した「人間と地球のための持続可能な研究会」の松下和夫・京都大学名誉教授、一方井誠治・武蔵野大学教授、倉阪秀史・千葉大学教授の3 人に座談会をお願いし、先月号と2 回に分けて内容を特集しています。今月号では、ドイツとの気候変動対策の違いや長期的な視点を欠く日本の気候変動対策、先進的な日本企業と今後の可能性などについてお話しいただいた後半部分を紹介します(進行;グローバルネット編集部)(2016年12月5日 東京都内にて)

京都大学 名誉教授 松下 和夫さん(まつした かずお)
武蔵野大学環境学部 教授 一方井 誠治さん(いっかたい せいじ)
千葉大学法政経学部 教授 倉阪 秀史さん(くらさか ひでふみ)

先月号では、早急に取り組むべき課題として、カーボンプライシング(炭素の価格付け)政策の導入、温室効果ガス排出の「見える化」の制度づくり、国の上位計画として、各種政策の上に位置付けることなどが挙げられました。

編集部 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化に関する第5次評価報告書の中で「1951年から2010年に観測された世界平均気温の上昇の半分以上は人間活動が引き起こした可能性が極めて高い」と述べています。科学者の警鐘は「待ったなし」と言っているのに政治家や一般国民はかなり鈍感なのではないかと思うことがあります。

コンセンサス・ギャップという言葉がありますが、英紙ガーディアンは「過去20年間の科学論文は97.1%が気候変動は人間活動が原因と言っているのに、米国民でそう信じている人は42%しかいない」という記事を掲載しました(2013年5月)。また、日本でも2015年に国立環境研究所が日本人のライフスタイルに関する世論調査を実施していますが、気候変動の原因を「すべて人間活動」(9.9%)、「おおかたは人間活動」(34.4%)と、人為起源と認識している人は44.3%で、コンセンサス・ギャップのあることを示しています。

倉阪さんは、気候変動対策を市場に委ねられない理由として、科学者たちの研究成果やIPCCの報告書の内容がきちんと市場参加者に伝わっていないため、今の市場に委ねて解決することは難しいと言われていますが、それについてわかりやすくお話しください。

座談会の様子

自分が動いても世の中は変わらないと働き掛けを諦めてしまう合理的無知
それを変えるのは深刻な問題

倉阪 価格は市場取引で左右されるわけですから、市場に参加する人がちゃんと将来のことも考えて動けば徐々に変わっていくはずです。やはりそこの部分が十分浸透していなければ、市場の意思決定というのは誤ってしまう。座礁資産(市場環境や社会環境が激変することにより、価値が大きく損なわれる資産)になりかねない石炭火力発電所を造ってしまうようなことが起きるかもしれない。その背景は何かというと、やはり「合理的無知」という話があると思うのです。自分一人が世の中で行動したって変わらない、だから情報を得るコストや勉強するコストが惜しい、だから合理的に無知な状況に皆、自分を置いている。コストをかけて世の中に働き掛けることを諦めてしまう、という人がかなりいるのではないでしょうか。

編集部 「合理的無知」というのは一般の大衆に向かって言われている言葉なんですか?

倉阪 秀史さん
千葉大学法政経学部教授。1987 年から1997 年まで環境庁。地球温暖化対策、環境基本法の制定に関わる。著書に『環境持続可能な経済システム』など。

倉阪 はい。一つの例としては、討議的世論調査を民主党政権の時にやりましたね。討議的世論調査というのは世論調査を前と後と2回やりますが、間に学習を挟みます。学習の観点では、いろいろな立場の人が公平に時間を取ってインプットする。原発だったと思いますが、その前と後を比較すると、反原発の方がどんどん増えていく、そういう状態があったのです。ちゃんと認識をして情報を集めれば、長期的な視野に立った情報が入ってきて、やはり今の状況はおかしい、変えなければいけない、という人が増えてくると思います。しかし、残念ながらそういう学習の機会が日本では欠けている。そういう「熟議」のような制度がないので、簡単に得られるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の情報でYahooニュースのヘッドラインだけを見て、それで情報を得た気持ちになっている。

今年、千葉大学の法政経学部の1年生にアンケートをし、18歳選挙権の関係で、「あなたは選挙に行くかどうか」と尋ねてみました。世の中や政治に不満を持っているから選挙に行くということではなく、自分の1票が世の中を変える可能性がある、そこを信じている人は投票に行くことがわかりました。

もう一つ面白かったのは、新聞、雑誌、新書のような書籍(活字)から情報を得ている人ほど選挙に行くということです。だからちゃんとコストを払ってでも情報を得ようとする人は選挙にも行くという結果なのですが、残念ながらそういった人がどんどん減っているという状況です。

編集部 今のお話は市場関係者、企業人、投資家たちに対しても言えるのでしょうか。

倉阪 全体として、市場関係者はもう少し客観的に、今後市場がどう動くのだろうかということもある程度短期的に予測はしているとは思いますが、長期的な状況を規定するのはもう少し一般的な市場参加者、国民の意思決定だと思います。そこをどういうふうに変えていくかというのは、深刻な問題だと思っています。

編集部 いろいろ政策を進めていく上で、日本が遅れていると思うのは、予防原則の考えが浸透していないことです。予防原則の観点に立たなければ50年、100年先のことを考えるのは無理かと思いますが、日本の温暖化対策基本計画の中にはまだ予防原則はきちんと位置付けられていないですよね。

倉阪 環境基本計画では「予防的アプローチ」ということで入っています。「原則」という言葉を嫌う官庁があったと聞いています。

編集部 日本は予防的観点から政策を誘導していくというようなことが苦手なのか、発想としてないのか、科学的証拠が本当にまだ足りないのでしょうか。松下さん、経済協力開発機構(OECD)にいらっしゃった経験なども踏まえて欧州の取り組みをお話しいただけますか。

松下 気候変動が人々の健康、生命、財産、あるいは基本的人権や経済的基盤をも揺るがすものであるということが十分には認識されていない。もちろん予防原則には、科学的知見がそれをどの程度正当化するか、解釈のギャップはありますが、人為的影響により地球が温暖化している、さまざまな影響が出ているということは98%の科学者が合意している、ということが十分浸透していません。

私が大学で環境問題を教えていたころは、よく勉強する学生の方が温暖化懐疑論に染まっている傾向がありました。本屋に行くと、温暖化懐疑論の書籍がうず高く積まれていて、それを読んだ学生は、自分の学習結果として温暖化が起こってない方を信じてしまう、そういう傾向が日本の場合まだ残っていると思います。

それから東日本大震災以降、気候変動に関する関心が一気に低下して、電力供給や原発に関する意識は高まりましたが、気候変動問題はプライオリティが行政、政治の世界でも下がっています。

最新の科学的知見が十分に消化されていない上にパリ協定ができて世界が取り組むから大丈夫といった空気が支配

松下 和夫さん
京都大学名誉教授。地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェロー。1972 年より環境庁。環境保全対策課長、OECD 環境局、国連上級環境計画官などを歴任。著書に『地球環境学への旅』など。

松下 地球の平均気温は、2014年がこれまでで一番暑い年だったのですが、2015年はさらに暑くて、今年はもっと暑い。急激に温度が上がっていって、すでに産業革命前と比べると1.25℃も上がっているのです。パリ協定は1.5℃までの上昇に抑える努力を規定しているので、もうほとんどリミットに近づいている。しかも、大気中の二酸化炭素(CO2)の増え方も従来は年間1.5ppmだったのに、今は2.5ppmと急激に加速しているのです。そういったことが最新の科学的知見として十分消化されないまま、パリ協定に世界が合意してこれから取り組むから大丈夫だ、というような空気になっています。しかし、足元ではすでに温暖化は危険な領域に入っている。そういうことがきちんと知らされていない。関心のある人たち、良心的な人たちは省エネなどを心掛けて環境にやさしい生活をしましょう、とそこで自己完結しているのです。

身の回りでできることをやれば、自分は環境に貢献しているということでとどまってしまい、そこから先の社会の構造を根本的に変えることが必要だというところまで進んでいくプロセスができていない。そこで科学者と一般市民をつなぐインタープリター、行動を促すファシリテーターという役割が必要になってきます。身近な取り組みから一歩進め、購買行動を変え、投資の方向を変え、さらには税制をも変える、そのように議論を進める「熟議の仕組み」が社会として必要です。

倉阪 環境問題というのはわからないから、事前に対応できないから、出てくる話ですよね。だから、そもそも自然を相手にする上で確実性というのはないので、前提として不測の事態に備えることをやらなければいけない、それが予防原則なのです。でも、その予防原則自体を否定する懐疑論者がどんどん本を出してしまい、そういう日本はどうなっているのかと思います。売れるからでしょうけれど、出版する側も、もう少し正義とか、科学的観点でスクリーニングをかけてもらいたいと思います。

編集部 当財団では「日本環境ジャーナリストの会」の事務局をしておりますが、その会員で、若者向けの月刊誌を出している出版社の記者の方が、温暖化問題で特集や本を出そうとすると、上の方はどうしても懐疑論の方が面白いから売れるだろうという判断になってしまう、そういうこととの戦いだった、と話していました。コンセンサス・ギャップの一因として、メディアが「客観報道」と称して少数派の意見も同等に扱うことが指摘されています。ちまたの本屋に出るのはやはり温暖化はしないよ、という内容のものが増えてしまいます。

金融機関が気候変動に対する行動原則を出したように温暖化懐疑論を伝えるメディアの方にも倫理原則が必要では

倉阪 「21世紀金融行動原則」に多くの金融機関が署名しているのと同じように、メディアの方にも倫理原則みたいなものがあっていいような気がします。例えば原発の議論でも、いまだに日本の電力系統は原発で支えられていると思い込んでいる学生もたくさんいます。原発が日本のエネルギー供給に占める割合は2014年は0%でしたが、今は再稼働して0.9%、一方、太陽光発電は2014年が2.2%で2015年が3.3%ですから、太陽光の比率は再稼働した原発以上に多くなっているのです。本当はそういった、実際のデータに基づいた議論が必要なのですが、基本的なことが伝わっていないというのが現実です。

もっと世の中に広めたいハーマン・デイリーの三原則
書生論と言われても根本的な議論が必要

一方井  最近、ある会合で隣に日本の経済団体のトップを務められた方が来られて、雑談させていただきました。その方が「ドイツは脱原発なんて言っているけど、隣のフランスから原子力の電気をどんどん輸入している」と言っていました。しかし、それは事実とはかなり違うのです。これだけ経済界で影響力のある人が、まだこの程度の認識なのかと驚きました。

一方井 誠治さん
武蔵野大学環境学部教授。1974 年に環境庁に入り、地球環境部企画課長、大臣官房・政策評価広報課長などを歴任。2005 年より京都大学経済研究所教授。2012 年から
現職。著書に『低炭素化時代の日本の選択』など。

しかし、それはマスコミの影響もあると思うのです。すべてのマスコミとは言いませんが、新聞では、時々、それに類した報道をしているところがあるのです。まずは研究者がきちんと発信しなければいけないのですが、マスコミもきちんとした情報を出してもらいたいと思います。

そして、こだわるようですが、ハーマン・デイリーの考え方というのは、一回どこか日本の中で、みんなの目に触れるようなチャンスが欲しい。新聞でも何でもいいのですが、取り上げてくれないかと思います。実はそういう思いもあって、2015年のブループラネット賞をハーマン・デイリーが受賞されて、あの時に新聞が取り上げ、少しは彼のメッセージが広まるかと思ったのですが、期待したほどには広まりませんでした。「ハーマン・デイリーの三原則」(上囲み)というのは改めてすごいと思います。三つ目の原則、人間界が出す汚染物質や廃棄物は自然が受け取って浄化できる範囲を超えてはならないというのは、まさに温暖化問題で、われわれが温室効果ガスを空気中に廃棄していること、そのものなのです。

もちろんハーマン・デイリーの三原則というのは、人間界の持続可能な発展の全体を考えた上での必要十分条件ではなく、その持続可能な発展を一番下で支える自然資本という基礎的な部分の持続可能性の条件であり、持続可能な発展のいわば必要条件の一つであると思います。非常に単純な原則ではあるのですが、政策決定者でも、経済界のリーダーでも、市民団体でもいいのですが、そういうところで根本的な議論、書生論的と言われるかもしれませんが、じっくり考えるチャンスを何らかの形で作れないかと思っています。

編集部 もう30年近く前のことですが、当時自民党の三木派に属していた森美秀さんという方が環境庁長官(当時)のとき、企業の排水規制を強化するという環境庁の方針に、経団連が「一般家庭の排水を規制しないで企業の規制ばかり強化するのはおかしい」という趣旨の抗議文を出したことがあります。それに対して森長官は「一般家庭からの排水を悪者にして、自分たちへの規制を逃れようとするのはとんでもない」と大変立腹し、記者会見してこの事実を発表して、逆に経団連を叱りつける場面がありました。

温暖化対策でも、経団連はカーボンプライシングや環境税に反対して声明を出し、ネット上でもアピールしています。経団連は、自分たちは温室効果ガスの自主的な削減で対応するから、環境省は家庭部門の削減に責任を持て、というようなことを繰り返し言っています。経済産業省も経団連と同じ立場に立っているわけで、国民から見ると、閣内不一致といいますか、政府の取り組みが一本化されていないと思えます。環境省が音頭を取って、公開討論でもして、国民の判断を仰ぐような場を作れないものですかね。

倉阪 環境省はもうちょっと戦うべきですね。再生可能エネルギーの報告書を作るための環境省の検討会に関わったことがあります。将来予測をめぐって経産省はいきなり環境省の方針を否定したことがあり、その時に私は環境省の方の座長をやっていたので、いろいろSNSなどで発言していたら、環境省から電話がかかってきて、官邸が閣内不一致を好んでいない、とクレームを言われました。僕は、もっと戦ってください、と電話を切りましたが。

ハーマン・デイリーの3 条件(三原則)
① 再生可能な資源の持続可能な利用速度は、その資源の再生速度を超えてはならない
② 再生不可能な資源の持続可能な利用速度は、再生可能な資源を持続可能なペースで利用することで代用できる速度を超えてはならない
③ 汚染物質の持続可能な排出速度は環境がそうした汚染物質を循環し、吸収し、無害化できる速度を上回ってはならない

米国のエネルギー業界の裏を暴いたディカプリオのドキュメンタリー映画
日本だったらスポンサーから干されてしまうのでは

松下 アメリカの俳優のレオナルド・ディカプリオが国連の気候変動担当平和大使になって、ドキュメンタリー映画『地球が壊れる前に(原題:Before the Flood)』を作りました。環境に関心はあったものの、気候変動の本当の姿を何も知らないと気が付いて、温暖化が起こっている北極やアルゼンチン、インドネシアやインドなど世界各地を訪ねて、科学者から話を聞いて、被害を受けている人々に会って映画を作ったのです。画像的にもきれいで、アメリカの産業界、とりわけエネルギー業界が政治家をお金で買ったり、科学者を抱え込んだりして温暖化否定論を展開させる、そういうことを暴きました。日本だったらそういうことをやる芸能人はスポンサーから干されたりするんですけれど、堂々とやっていました。

編集部 結構バッシングはあったそうですね。

松下 でも、日本の中ではそういうドキュメンタリーが作られているということすら一般のマスコミでは報道されていない。

京都議定書の失敗に学ばなければ、パリ協定の対応を間違える

一方井  パリ協定が合意されて日本はどうするのか、ということの第一の公式文書が2016年5月に閣議決定された地球温暖化対策計画という文書ですね。その文書を私もすごく期待して読んだのですが、まず京都議定書の達成計画について「総合かつ計画的な地球温暖化対策を講じてきた。この結果、(中略)、京都議定書目標(中略)を達成した」と一言で書いてあって、第一約束期間のリーマンショックの話は一言も書いていない。非常に深刻なのは、京都議定書を批准するとき、地球温暖化対策の推進に関する法律という国内法を作ったのですが、その時の対策というのは誰が見ても基本的な政策手段が入ってなくて、これでは無理だろうと思ったのですが、そこに逃げが一つだけ入っていて、少なくとも3年ごとに、温室効果ガスの排出の量などを勘案して地球温暖化対策計画の目標および施策について検討を加えるという条項が入っていたのです。

しかし、その後ずっと日本の温室効果ガス排出は増加基調を続けていたのですが、ついにその条項は、リーマンショックによる大幅な排出減に至るまで活用されることはありませんでした。リーマンショックがなければ明らかに京都議定書目標達成計画というのは、目標を達成できない欠陥法だったと思います。

ですから、達成計画では京都議定書は達成できなかったという認識から出発してもらわないと、パリ協定に対する日本の対応は間違えると思うのです。閣議決定とはいっても環境省が中心になって達成計画を作っているわけですから、そういう辺りは誠実に国民に説明をして、前の時は政策手段が足りなかったので、今回はこうするべきだと書くべきだと思います。

編集部 最後に、気候変動対策で日本がリーダーシップを発揮するためにはどんなことをすればいいとお考えですか。希望が持てるようなお話で締めくくっていただけますか。

企業の革新的取り組み、自治体の先進事例を積み重ねカーボンプライシングの導入が必須

松下 私はカーボンプライシングが必須だと思っています。ただし直ちに大型炭素税を導入するというのは難しい状況かとは思いますが、そのためには地域、あるいは具体的に個別の企業で革新的な取り組みを進め、優良事業を積み上げて、共有していくことが必要です。現実に、東京都の排出量取引制度は成果を上げていますし、それが埼玉にも広がっています。長野県飯田市やいろいろな自治体が再生可能エネルギーを軸として、地域の再生、気候変動対策に取り組んでいますが、そういう事例を積み重ね教訓を引き出していく。

それから、倉阪さんが言われたように、情報公開、温室効果ガスの会計や温室効果ガスの外形標準課税、ゼロエネルギー住宅の義務化、そういう個別の取り組みを積み重ねていく。もう一つの新しい可能性としては、気候変動対策自体が新しい産業や雇用を生んでいるのですから、そのような新しい分野に集約して雇用を増やし、地域を活性化する、そして地域主導のエネルギー政策を進めていくということが重要です。

2050年までのロードマップを明確に打ち出し新しい産業が生まれるように誘導する必要

倉阪 温暖化対策で世界全体がかなり変わっていきますから、その中で次の自動車産業が日本に生まれてくるように長期的な視野に立って政策を進める必要があります。再エネも固定価格買取制度を導入して世の中が動いてきました。だから政策・政治というのはかなり重要で、それも長期的に安心して投資できるように政策を明確に打ち出す。2050年までの具体的なロードマップを政府として明確にし、個別の企業が安心して投資できるようにする。それによって新しい産業が生まれるよう誘導していく必要があると思います。

江戸の文化に学ぶ持続可能な発展青写真を描いて一つひとつ問題と取り組む必要

一方井  私は日本人や日本の文化を見れば、世界のトップに躍り出るチャンスはあると思っています。やはりそれは日本が江戸時代という世界に類のない期間において、言ってみれば、ハーマン・デイリーの言う再生可能資源だけにほぼ基づいた文明というものを築いたという歴史があるからです。

江戸時代の人々の考え方にはなかなかすごい話があります。新潟のある村で、山の上の方の貧しい炭焼きの村が、炭焼きの範囲を広げて出炭量を増やしたいとして、下の方の田んぼを作っている村との間で争議になりました。下の村は、上の方で森を伐採してしまうと、大雨のときに泥水が流れてきて、安定的な水量も期待できなくなる、と拒否しましたが、それだけでなく、一時金50両と毎年米4石を上の村に出し、さらにその山を開墾しないことによってイノシシなどが増えたら改めて協議する、としたのです。これはまさに最新の環境政策でもある環境サービスへの支払い(PES)の考え方そのものなのです。

これからは、時間も投資も必要だけれど、太陽光パネルや大型風車、蓄電装置など、再生可能資源に依拠するものに作り替えていくという青写真を描いて、問題と一つひとつ取り組んでいけば、結果的に日本が世界の中で経済的に生き残るための大きな戦略になるのではないかと思います。

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